JAKIGAN MEISTER FIRST LIVE [Ejaculation]
2017年6月29日(木)Zepp DiverCity(TOKYO)
Report:武市尚子
Photo:SHIN ISHIKAWA(Sketch)
昨年の11月に活動休止をライヴを行ったNIGHTMAREのギタリスト咲人が、ソロプロジェクト・JAKIGAN MEISTERの始動を発表してから約3ヶ月。彼は6月14日に自身初のソロアルバム『Ejaculation』をリリースし、自らの誕生日である6月29日にZepp DiverCity(Tokyo)で、自身初となる1stソロライヴを行った。
アルバムの1曲目を飾っていたオープニングSE的なインスト曲「Enter the JAKIGAN」からのスタートに、オーディエンスは全ての神経を集中させるかの様に聴き入った。バンドサウンドの中心にギターの音を置いた、“ギタリスト咲人”の存在を見せつけるかのようなギターインストは、明らかにNIGHTMAREが放つライヴの空気感とは異なるものだった。間髪入れずに届けられていった「Don’t Suck It Up」の、ルーズなダンスチューンに体を揺らしながら、ボーカリストとして歌を響かせる咲人を受けとめるオーディエンス。アルバムの楽曲たちをライヴで届けるのも初、ソロという形態でのライヴも初、とあって、受け取り手であるオーディエンス側に少々の構えがあったように思えた節もあったが、3曲目に届けられた細かく刻まれるタイトなリズムで埋め尽くされた「わるぁふぁ」が畳み掛けられた瞬間、客席からは自然にクラップが沸き上がった。緊張が解れて行く瞬間を咲人も感じ取ったことだろう。咲人自身もそんな目の前に広がる景色と、余白を設けないリズムと言葉で埋め尽くされたこの曲に背中を押されたかの様に、歌う事への構えが振り切れていった気がした。
“東京!どうも。JAKIGAN MEISTER、咲人です。3月に『咲人会』というのをやらせてもらったときに、2曲ほど演奏したんですが、ちゃんとライヴをするのは今日が初めてなので、初めて聴く人がほとんどですよね?僕たちも初めてライヴするので、みんなスタート地点は一緒です。素晴しいサポートメンバーの方々とみんなで、今日を新しい何かを……”(咲人)
“伝説を作ろう!”(Ni~ya)
“伝説!?しれっと言っちゃうとこが凄いよね(笑)。伝説……作れるかな(笑)?”(咲人)
MCになると少し緊張が見え隠れする咲人に、そっと助け舟を出したNi~ya。長年の付き合いを感じさせるやり取りは、咲人ばかりでなくオーディエンスの気持ちをも和らげていた様だった。
そして咲人は、誕生日を迎えたこの日の1番のプレゼントは、来てくれた人たちが“楽しかった”と言って笑顔で帰ってくれることだと話した。
そんなMC後に届けられた「嗜好品」では、曲中にコール&レスポンスが挟み込まれたのだが、いなたさを感じさせる歌モノでもあるこの曲の途中にコール&レスポンスが挟み込んでこようとは、音源で聴いていたときには想像も付かなかった。しかし、しっかりとイメージを作り込んできたのだろう、この曲でのコール&レスポンスは、この先もライヴの定番になっていくのだろう景色を魅せてくれたのだった。
また、この日のライヴで感じたことなのだが、全体を通して音源で聴くよりも、全ての楽曲が“躍れる曲”であったことである。冒頭にも記したのだが、まだお互いがJAKIGAN MEISTERというライヴの空気感を探っている段階でもあったことから、その音に手放し状態で身を委ねられている感じではなく、ギタリストとしてはもちろん、ボーカリストとしてステージに立つ咲人を凝視しているといった印象の方が強かった。無理も無い。本体であるNIGHTMAREの活動休止ライヴから約7ヶ月。久しぶりにライヴで動く咲人を見るのである。
さらに、咲人のギターやNIGHTMAREが好きなオーディエンスの大半は、体に“ダンス曲”よりも“ロック”が染み込んでいることもあり、音楽に体を揺らすという楽しみ方よりも、大きく拳を振り上げたりヘッドバンギングをするといったライヴの楽しみ方を得意とするファンたちでもあることから、躍れる曲が主流となっている『Ejaculation』の楽曲たちのノリ方に、少し躊躇があった気がしたのも正直なところだ。これは、否定的な意見ではなく、根っからのロック好き、ロック・ギタリスト咲人の、NIGHTMAREの、生粋のファンである証でもあると感じた褒め言葉でもある。つまり、これは“ロック好きの性”でもあるのだろう。咲人が特技とする、ロック曲を選曲して繋げていくDJサウンドに体を委ねることには、“ロックが基盤”となったサウンドであるため抵抗はないのだろうが、『Ejaculation』の楽曲たちの“ダンス感”は、どちらかというと“ディスコ”寄りなものであるが故に、慣れない委ね方に対する照れくささが拭いされない気がしたのである。
現に私自身、音源で聴き込んだ『Ejaculation』の印象とは、全く違った印象に映った楽曲が多かったことに驚きを隠せなかった。咲人らしいアグレッシブなギターフレーズと振り幅の広さを持った楽曲たちが詰め込まれたアルバムだと感じたのが『Ejaculation』に対する第一印象であったのだが、この日観たライヴでは、ライヴという空気感の相乗効果もあってか、音源で聴く以上に“ダンス”を強く感じたのである。アルバムの中で1番メロディアスな楽曲であると感じた「ヰタ・セクスアリス」は、刹那的な生の鍵盤音に導かれて憂いが増して聴こえたせいか、咲人が奏でるトリッキーなギターフレーズが音源よりも力強く響いた印象であったし、幻想的なSEから繋げられたインスト曲の「a Relic」は、殻を打ち破り曠野へと飛出していく広がりを、音源以上に体感できたこともそうであったし、80年代のユーロビートを彷彿とさせる「Mercy Killing」は、クラブというより、完全に80年代に流行ったディスコな空気感に会場を呑み込んで行ったのだ。
サポートメンバーたちと作り上げて行くサウンド感はもちろん、MCでのメンバーたちとの絡みも、咲人とオーディエンスが作り上げていくライヴの空気感も、NIGHTMAREとは違うJAKIGAN MEISTERの個性が1つ1つ新たに生み出されていく瞬間を感じ取ることができたライヴでもあったと言えた。
咲人本人もオーディエンスも、『Ejaculation』の楽曲たちを手放しで楽しめる様になるのも、育てていくのも、JAKIGAN MEISTERというライヴの空気感を作っていくのも、この先に控えるツアーからになるのだろうと感じた。
そしてこの日、咲人は最後のMCでNIGHTMARE活休後に感じていた素直な気持ちを口にした。
“NIGHTMAREが活休して、これから1人で何をやっていくか、いろいろと考えなきゃなって考えて、年明けから孤独を頻繁に感じていた日々だったんですけど、こうやってライヴが始まってみると、サポートメンバーやスタッフや、ここに集まってくれるみんなが居てくれて、ソロとか言うけど、1人じゃないなと、みんなに支えてもらいながら自分は音楽をやって来れていたんだなと、ここ半年、7ヶ月、8ヶ月で改めてすごく感じました。本当に感謝してます。ありがとうございます。”
飾りのない素直な想いだと感じた。そして、咲人は、最後に本当に1人きりでステージに立ち、自らが発した音をルーパーを使ってループさせ音を重ねて紡いだ「薩婆訶-そわか-」を届けた。静かに響いたその曲にオーディエンスは聴き入った。
アンコールでは誕生日当日ということもあり、柩がケーキを持ってお祝いにかけつけるといったサプライズシーンもあった。
咲人は、「KENKA DRIVE」「極上脳震煉獄・弌式」「惰性ブギー」といったNIGHTMAREの楽曲でオーディエンスを盛り上げた後、最後に、“自分の行く先を指し示してくれている感じがする”という言葉を曲の始めに置き、アルバムのリード曲でもある「ワールズエンド」を届け、この日のライヴを締めくくったのだった。
まだまだそこに、どうしてもNIGHTMAREを求めてしまう気持ちがあったであろうオーディエンスが、咲人が提示するJAKIGAN MEISTERをどのように受け入れ、『Ejaculation』の楽曲たちがツアーでどのように育てていくのか、JAKIGAN MEISTERというライヴの空気感がツアーを通してどのように作られていくのか実に楽しみなところである。
7月28日の北海道を皮切りに始まるツアーに期待したい。
セットリスト
01. Enter the JAKIGAN
02. Don’t Suck It Up
03. わるぁふぁ
04. 嗜好品
05. なりたかったくなかった
06. ヰタ・セクスアリス
07. a Relic
08. Mercy Killing
09. 名状し難いほど有り余る邪気
10. Whatever I May Be
11. ワールズエンド
12. 薩婆訶-そわか-
ENCORE
01. KENKA DRIVE
02. 極上脳震煉獄・弌式
03. 惰性ブギー