ピノキオピー、フルアルバム『UNDERWORLD』を引っ提げたZepp Tourファイナル!音楽を通して彼と観客の心が強固に通いあう、思いやりにあふれた空間

ライブレポート | 2026.07.14 12:00

ピノキオピー 2026 TOUR「アンダーワールド」
2026年7月10日(金)Zepp Haneda(TOKYO)

今年1月にリリースしたフルアルバム『UNDERWORLD』を引っ提げ、全国5ヶ所のZeppを回ったピノキオピーのワンマンツアー「ピノキオピー 2026 TOUR アンダーワールド」。ファイナルのZepp Haneda公演は、音楽を通して彼と観客の心が強固に通いあう、思いやりにあふれた空間だった。チケットは完全ソールドアウトで、フロアは彼の音楽を愛する人々でひしめき合う。背面モニターの両端には錆びついた鉄格子に腰掛ける“アイマイナ”と“どうしてちゃん”があしらわれ、フロアにも鉄製の階段が配置されるなど、『UNDERWORLD』のジャケットの世界をなぞったセットが組まれていた。

今ツアーのOPに書き下ろされた「The Nether」をBGMに、燃え上がる街で公園の遊具に乗るアイマイナのオープニングムービーが流れると、お馴染みのサポートメンバーであるスクラッチ&サンプラーのRK、ドラムのサガットが現れ、徐々に音を重ねていく。するとその音に誘われるように、ピノキオピーが颯爽と鉄製の階段から登場した。

「はじめましての人ははじめまして、ピノキオピーと申します! 『アンダーワールド』東京公演始まります」と高らかに銅鑼を打ち鳴らし、会場にはレーザーが放射される。ピノキオピーもMIDIコントローラーなどで演奏に加わり、観客のクラップの音もより大きくなると、そのままアルバムの1曲目を飾る「不死身ごっこ」へとなだれ込んだ。ピノキオピーはメインボーカルの初音ミクとデュエットをし、観客は曲中の合いの手をコールする。RKもアッパーなスクラッチを繰り出し、サガットも肉体的なビートで電子音にスパイスを加え、映像、照明も一体となって会場全体が壮大なアンサンブルを奏でた。

そこからノンストップで「T氏の話を信じるな」、「閻魔さまのいうとおり」とつなぎ、さらに会場の温度は高まる。ピノキオピーのライブの魅力のひとつに曲間の心地好いつなぎによる没入感が上げられるが、それはDJのように曲間の音を混ぜるだけでなく、場合によってはそこにドラムを重ねたり、導入を作るなどのひとひねりが随所で効いているからに他ならない。スマートに様々なギミックを忍び込ませ、ポップでちょっとへんてこでありつつも実は本質的な視座が表現されているという彼の創作は、ライブでも健在だ。イントロのコール&レスポンスや主人公然としたクールなボーカルもフックになった「超主人公」、観客にお冷を3つ注文してもらうくだりを入れ込んだ居酒屋をモチーフにした楽曲「頓珍漢の宴」と、ありとあらゆる要素が入り混じった空間は観客の高揚感を掻き立てた。

アルバムを携えてのツアーは2019年に開催された『零号』のリリースツアー「五臓六腑」以来7年ぶりである旨を語り、喜びをあらわにする彼は、「僕はライブを祭りだと思っているので。みんなでお互い支え合って、祭りを盛り上げていきましょう!」と観客に呼び掛ける。そしてアルバム/ツアータイトルが“地獄”を意味することを受け、2015年にリリースされた『Antenna』収録曲「地獄でもう一度逢いましょう」をライブで初披露した。気球に乗るアイマイナの映像、ミドルテンポに乗るセンチメンタルな美しいメロディで観客を陶酔させると、そのムードを保ったまま「嘘ミーム」へとつなぐ。ピノキオピーはミクの1オクターブ下でユニゾンしたり、観客とコーラスを歌うなど、楽曲と観客のコネクター的な役割を担う。メロディと歌詞を正確になぞるミクの声、喪失感を帯びたサウンドに焦燥感を思わせるスクラッチ、淡々としつつも一つひとつの音に奮起の念が込められたドラム、観客のシンガロングと、楽曲が包含する様々な要素が一体となり、人間の心の詫び寂びを生々しく感じさせた。

ダークなイントロから晴れやかなラストを迎えるドラマチックな展開の「アポカリプスなう」の後は、3人でビートを効かせて「ありふれたせかいせいふく」へと鮮やかにつなぎ、「転生林檎」では理想の人生を目指して転生を繰り返す歌詞を観客がシンガロングする。その様子は観客全員が一斉にテンポよく転落と転生を繰り返しているようにも見え、このシュールさはライブでしか感じられない趣だった。その後も憂いを帯びたメロディとアッパーなビートが交錯する「愛属性」、キュートなサウンドと毒気のある歌詞のコントラストがメランコリックで小気味よい「アップルドットコム」、軽快なリズムと感傷的なメロディが歌詞を効果的に映し出す「ユーチューバー」と、音源以上に楽曲の奥深さが全身を駆け巡るような感覚がある。 “伝えること”を重んじたうえで制作された『UNDERWORLD』と、アーティストとリスナーが直に顔を合わせるライブという生身の場の相性の良さを噛み締める。

平成初期のクイズ番組をオマージュした映像演出も会場を沸かした「Q」、若さ溢れる筆致がストレートに胸を打つ2010年に公開された楽曲「はっぴーべりーはっぴー」を披露すると、ピノキオピーは後者について『UNDERWORLD』のテーマに近いという理由で約10年ぶりにライブのセットリストに組み込んだことを明かす。そして「16年前の曲だけど、あんまり(歌詞の内容が今と)変わっていない」「でも歌詞に“写メ”という言葉が入っていて時代を感じる」と続け、観客を笑わせながらも感慨に浸った。

RKとサガットのトークパートと、ピノキオピーによるスタッフ紹介を挟み、ライブは佳境へ。ピノキオピーが歌唱する音楽プロジェクト・工藤大発見の楽曲のセルフカバー「極論 – UNDERWORLD ver –」から、さらに“この地獄のような世の中でどう生きていくのか?”という問題提起へのアンサーを体現していく。3人が「ブラックホールヶ丘商店街」をエネルギッシュに届けると、「Aじゃないか」では観客が全力のシンガロングをステージへと送り、ピノキオピーからファンへ向けた楽曲「僕なんかいなくても」では彼の強い思いを観客もしっかりと受け止めた。

ここでさらにステージとフロアの心の距離は近くなる。「内臓ありますか」は様々な不条理のなかで悲しみを抱えながらも笑い飛ばそうとする様として映り、「ノンブレス・オブリージュ」はピノキオピーのブレスなしの歌が呼吸もままならない人生における切実な願いのように響いた。「ぜろ」と「アンダーワールド」は彼の真摯な思いが情熱とともに観客一人ひとりの元に届く。ラストの盛大なシンガロングは彼とリスナーの間に生まれた信頼関係を象徴する、非常に純度の高い空間だった。

本編ラストの「すきなことだけでいいです」まで、ピノキオピーは彼なりの人生賛歌で会場を鼓舞する。悩みも尽きず、理不尽に襲われ、やりたくないことや好きでもないことを強いられる地獄のようなこの世でも希望を信じずにはいられなくて、生きていて良かったと思える日や、生きていたいと願わずにいられない一瞬がある。こんな苛烈な日々を耐えるからこそ見つけられる新しい世界もあれば、地獄はどうしたって地獄でもある。そんな日々を生き抜こうとする誠実な生命力が、美しく花開いていた。

アンコールではまず、昨年国内外で開催した「ASIA TOUR "COMET"」から恒例となった“全力グッズ紹介”を、ツアータイトルになぞらえて地獄バージョンで届ける。絶叫と機材と映像を駆使して混沌とした空間を作り出しながらグッズを紹介していたかと思いきや、最終的にはレーザーやジェットスモーク、さらには銀テープまで噴射されるという規格外っぷりだ。どうやらこれは打ち上げの席にて酒の勢いで決まったとのことで、大人の悪ふざけに会場も大いに沸いた。

「こうして皆さんに集まっていただくことが本当にありがたいと思っている」と話すピノキオピーは、知人から“ありがたい”という言葉の語源が“有り難い=有ることが難しい”であり、滅多にないことである、ここに存在することは当たり前ではないという意味を持つことを聞いた旨を語り、「僕もこの光景が“有り難い”ものだと思っています。この景色を見せてくださって本当にありがとうございます」と幸せを噛み締めた。

そして「胸いっぱいのダメを」で感謝の思いを音に乗せてフロアを盛り上げ、今年5月に発表した最新曲「歌姫失格」では“歌姫”のミクにフィーチャーしてコーラスやステージングに徹する。そしてツアーの締めくくりとしてミクスチャーロックナンバー「ぼくらはみんな意味不明」で情熱的な歌声を届け、フロアもそれに触発されるように大きな歌声と歓声で胸の内を解放した。その様子は『UNDERWORLD』の物語の終幕というよりは、この先の未来へとお互いを送り出す力強さに溢れていた。

セットリストを振り返ってみると、OP含めた計28曲は『UNDERWORLD』の曲順をほぼ活かしながら同作と親和性の高い過去曲も盛り込むというかたちで構成されている。つまりピノキオピーがここまで培ってきた創作の核、つまり熱い心意気やタフネス、生きる上でのエネルギーにフィーチャーされたツアーとなったと言っていい。クリエイターとしてのキャリアに加えて、この10数年間で観客とともに育ててきたライブスタイルがあったからこそ、ステージとフロアがこの世に生きる同志のように心を通わせられたのではないだろうか。自身の根底と、伝えることに誠心誠意向き合い作り上げた金字塔のようなアルバムとこのツアーは、未来を指し示す一筋の光として今後も残り続けるだろう。

ピノキオピー 終演後コメント

今回のツアーファイナルは、いままでのライブでいちばん盛り上がったと感じるほどの熱量をお客さんからもらいました。お客さんの表情から歌詞が心に響いているように感じられて、それを観て僕もグッときましたね。僕にとってライブはミクが歌うお祭りで、僕は神輿に乗っかって先導する賑やかしみたいなイメージでステージに立っているんです。そのスタイルがだんだん伝わってきたなという感覚もありますね。

セットリストは“アンダーワールド=地獄”から希望を見出すことをテーマにして、初期曲や懐かしい曲も入れてみました。「はっぴーべりーはっぴー」や「ブラックホールヶ丘商店街」は、よくリスナーさん方から「あの曲ライブでやらないんですか?」と言われていた曲だったんです。僕としても2曲とも気に入っているとはいえ、今までのライブのテーマでは入れると違和感があったんですよね。でも今回のテーマに合致していたし、実際にやってみてもしっくりきました。

今回のツアーですごく育ったなと感じたのが、表題曲の「アンダーワールド」ですね。自分自身の心の入り方だけでなく、お客さんのシンガロングや、大きな声で歌ってくれている表情とか、やればやるほどエネルギーが増して盛り上がっていきました。

あと“全力グッズ紹介”という悪ノリも、謎に今回のライブの裏番長みたいになってくれました(笑)。『UNDERWORLD』は“絶望”というテーマにまっすぐ向き合いすぎた、真剣すぎたから、もうちょっと遊びを入れられると良かったのかなとは思って。今回のツアーでそれを担ってくれたのが、このセクションだったと思います。飲みの席でチームのみんなで「商品紹介で銀テが飛ぶことなんかないよね」「じゃあやろうよ!」「やろうやろう! 面白いよ!」と話したことがそのまま実現しました。

チームが一丸となって悪ふざけをしているのも楽しかったし、それを面白がってくれているお客さんの表情を観ていると僕もすごくうれしくなって。面白いことがやりたいというのが自分の根幹にあることを再確認しましたね。メッセージをそのまま伝えるよりは俯瞰的な視点から伝えるほうが得意なタイプだし、もう少しユーモアの分量を多くした制作をしていきたいなというタームに入っています。

ただ最近はツアーに全力を注いでいたので、曲は全然できていなくて……(苦笑)。今回のツアーを糧にして、とにかくいい曲を書いていきます!

SET LIST

01. The Nether
02. 不死身ごっこ
03. T氏の話を信じるな
04. 閻魔さまのいうとおり
05. 超主人公
06. 頓珍漢の宴
07. 地獄でもう一度逢いましょう
08. 嘘ミーム
09. アポカリプスなう
10. ありふれたせかいせいふく
11. 転生林檎
12. 愛属性
13. アップルドットコム
14. ユーチューバー
15. Q
16. はっぴーべりーはっぴー
17. 極論
18. ブラックホールヶ丘商店街
19. Aじゃないか
20. 僕なんかいなくても
21. 内臓ありますか
22. ノンブレス・オブリージュ
23. ぜろ
24. アンダーワールド
25. すきなことだけでいいです

ENCORE
01. 胸いっぱいのダメを
02. 歌姫失格
03. ぼくらはみんな意味不明

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