カンザキイオリ 3rd One-Man Last Memory 「⾃由に捕らわれる。」
2025年12月28日(日)ニッショーホール
この壮大なプロジェクトのエピローグとなったのが、2025年12月28日(日)に東京・ニッショーホールにて開催された『カンザキイオリ 3rd One-Man Last Memory 「⾃由に捕らわれる。」』である。ショートフィルムと生演奏を融合させた現地ライブで、カンザキが観客の前でライブを行うのは独立後初となった。小説ならではの緻密性、映像ならではの具体性、音楽ならではの直感性、生演奏ならではの迫力と没入感。カンザキイオリの歩んできた人生とこれまで抱えてきた思考や苦悩、美学、彼の中に流れる血などに飲み込まれるような、衝撃的な体験だった。
開演時間になると、ステージ前を覆った斜幕に時計が映し出され、60秒前からカウントダウンを始める。ショートフィルムには主人公の姿夜と彼の絶対的存在である琥太郎との出会いから琥太郎の死までが描かれ、生演奏と交互に披露された。
物語の第一部「おはよう」の最中に、ギター、ベース、ドラム、ピアノ、ヴァイオリンのバンドメンバーが生演奏で劇伴をつけてゆく。映像が消えて暗転すると、斜幕の奥から微かな明かりが灯ると同時に、カンザキがアカペラで「自由に捕らわれる。」を歌い始めた。ほどなくしてそこにピアノが重なり、バンドの演奏とともにタイトルロゴが映し出されると、ステージはたちまち色彩を帯びる。カンザキのエモーショナルなボーカルとスリリングかつスタイリッシュなリリックモーションの相乗効果で、歌詞の一言一句が胸に重く、鋭く突き刺さった。
第二部「中学二年生」では姿夜と琥太郎の出会いと惹かれ合う様子が描かれ、劇伴からシームレスに「君の神様になりたい。」へつなぐ。清涼感と感傷性がない交ぜになった楽曲世界はまさに高揚感と焦燥感に翻弄される青春そのもので、姿夜の心が走り出す感覚を追体験するようだ。「地獄に落ちる」も陽の感情と陰の感情が乱反射するようで、胸に渦巻く行き場のないエネルギーを全身で浴びるような感覚に陥った。それは姿夜や琥太郎の思春期の感情とも捉えられると同時に、ふたりの中に息づいたカンザキのそれにも感じられた。よく目を凝らしてみると、斜幕の向こうにいる彼は、姿夜と同じブレザー制服を着用している。ここから創作と現実、過去と現在の境目はさらに曖昧になっていった。
第三部「中学三年生」では、夏のとある日に姿夜と琥太郎が親密になる様子と、姿夜が大人へと成長していくことへの戸惑いと不安が描かれる。ドラムのビートに乗せて客席がクラップを鳴らすと、半袖の制服姿のカンザキが「スーツ」を歌い始めた。奔放でユーモラスかつ妖しげなボーカル、楽器隊による洒脱で艶やかなソロ回しが、恋の駆け引きや身体を求める欲望を彩る。「吸血鬼」では生々しい背徳感が表れ、カンザキのシャウトには実際に首に嚙みつかれるような感覚すら覚えた。本能の世界に溺れたかと思いきや、一転「忘れてしまえ」は胸が張り裂けそうなくらいに愛しい気持ちがあふれ出す。ここからさらに物語は、カンザキイオリの考える“愛”の本質へと迫っていった。
第四部「高校一年生」で、姿夜と琥太郎は掛け替えのない存在同士となっていた。軽快で憂いを帯びた「ガラスペン」、目をそむけたくなる現実を率直に綴った「大人」と、琥太郎の心情を想起させると同時に、会社員時代のカンザキの心情もありありと伝わってくる。そんな赤裸々な歌と言葉にさらされていると、自分の醜さや穢れまでもが明るみになるようだ。カンザキの音楽に魅了される人々は、彼の表現に自分の姿や心を見出すことも多いだろう。それは共感を超えて、痛みを伴うほどに自分の心の奥底をえぐってしまう。「心臓と絡繰」では歌声の一つひとつに“君”への切実な愛情が通い、第五部「高校二年生」で姿夜も不確かながらに自身の胸に湧き上がる愛情を琥太郎へとまっすぐ伝えた。
だが琥太郎は命を落としてしまう。愛する人を失った姿夜の喪失感を表現するように、「ハグ」はアコギ弾き語り、「結局死ぬってなんなんだ」はアコギ弾き語りとヴァイオリンの2人編成で披露された。会場が寂寥感で包まれると、「人間じゃない癖に」では少しずつ音色が増え、愛しい存在に向けた様々な感情を吐き出すように歌う。その迫真のボーカルは、愛せば愛すほど痛みもぬくもりも大きくなることを体現していた。
第六部「おやすみ」では、姿夜と琥太郎がすべてのしがらみから解き放たれた世界で幸せな生活を手に入れる様子が流れるなか、「カーテン」が演奏される。やわらかく静かな夜を音で描いた後、カンザキはアカペラで「時計」を歌い出し、愛しい人を送り出すように、新しい日々を歩み出すように穏やかな空間を作り出す。その後に披露された「命に嫌われている。」は、あなたのいない世界でも生きていくという意思表示であると同時に、鎮魂歌のようにも響いた。
第七部「月」で姿夜は琥太郎の部屋で彼の書いた遺書を開き、彼への変わらぬ思いを確かにした。カンザキは「あんたは死んだ」を1コーラス弾き語りで歌い始め、バンドが入るとさらに愛しい人がこの世を去ったことへの怒り、つなぎとめられなかった自分への不甲斐なさ、共に生きられなかった悲しみなど、遺された者の思いを一つひとつ丁寧かつ衝動的に歌に込める。キービジュアルとともに小説の一部が映し出され、カンザキのギターのストロークの音に乗せて、破り捨てた遺書は風に乗って飛んでいった。「これは別れなどではない。ただの成長なのだ。」――そう締めくくられた物語のエンドロールとして、「告白」を披露した。
同曲は告白したものの思いを受け取ってもらえなかった者の曲、同性を好きになった者の曲、好きな人との別れを選んだ者の曲、姿夜や琥太郎が過去に抱えていた思いの曲など様々な捉え方ができるが、ライブという環境もありカンザキから観客へ宛てる思いのようにも響いてきた。スタッフロールの最後にバンドメンバーの名前がひとりずつ映し出されると、順々にメンバーはステージ袖へと下がり、それにつれて演奏の音も一つひとつ消えてゆく。最後にカンザキのギターの音だけが残り、彼は弾き語りで歌い始めた。揺るがない愛情を歌声に変えてゆくと、最後に彼は「カーテン」の象徴ともいうべき一節である「ずっと月を見てる」を何度も歌う。彼の背後には大きな満月が浮かび上がっていた。
静かにギターを置いてゆっくりと頭を下げると、あたたかい拍手に包まれながら彼はステージを後にする。すると自身4作目となる小説最新作『命に嫌われている。』を2026年に発売することが発表された。数々の人々の心を救った自身の代表曲から、彼はどのような物語を紡ぎ出すのだろうか。そして『自由に捕らわれる。』でこれだけスケールの大きな世界を作り上げた彼は、小説『命に嫌われている。』でどのような展開を見据えているのだろうか。続報を待ちたい。
SET LIST
01. 事情聴取
02. おはよう
03. 自由に捕らわれる。
04. 中学二年生
05. 君の神様になりたい。
06. 地獄に落ちる
07. 中学三年生
08. スーツ
09. 吸血鬼
10. 忘れてしまえ
11. 高校一年生
12. ガラスペン
13. 大人
14. 心臓と絡繰
15. 高校二年生
16. ハグ
17. 結局死ぬってなんなんだ
18. 人間じゃない癖に
19. カーテン
20. 時計
21. 命に嫌われている。
22. 月
23. あんたは死んだ
24. 告白














