back number "anti sleeps tour 2024"
2024年10月27日(日) さいたまスーパーアリーナ
ゲスト:清水依与吏
この日の公演はツアー全行程の三分の二を超えたあたりで、ゲストに迎えるのは「清水依与吏」。ボーカリストが本体の対バンを務めるという前代未聞の、だからこそ何が起きるかわからない特別な日。開演前から満員の観客の期待感が、広いアリーナいっぱいに満ちている。
「そんな大層なことはやらんよ。別に(笑)」
広いステージのほんの一部、小さなライブハウスの舞台ほどのスペースに、アコースティックギター4本と椅子とマイクと譜面台。開演時刻ちょうどにふらりと登場した依与吏が、照れ笑いを浮かべながら話しかける。黒Tシャツ、ラフな綿パンに裸足。部屋着感がすごいが、おもむろにギターをつかんで歌いだすと空気がガラリと変わる。静まり返った場内に響き渡る歌声の圧倒的なパワー、抒情、表現力、説得力。曲は「恋」、そして「東京の夕焼け」。弾き語りだから生き物のように、呼吸に合わせて曲が伸び縮みする。歌詞に合わせてオレンジ色の照明が主役を照らす。スクリーンに映る表情と歌に集中していると、アリーナ後方にいることを忘れてすぐ近くで歌われているように感じる。
「奇をてらったことはしません。一生懸命、今まで作ってきたものを歌うだけです」
生まれたままの曲の、丸裸を見せること。おしゃれな服を着ていない曲たちは、こんな感じですよと伝えること──。このライブに臨む思いを曲間で語りながら、淡々としかし濃厚に時間は進む。「化粧してない曲を」という表現が、次の曲「助演女優症」の主人公の気持ちにぴたりと重なり合う。曲を1曲書くとすぐに忘れ、あとでいつも「ほんとにオレが書いたの?」と思うらしい。「君がドアを閉めた後」を全力で歌い終え、「いい作詞作曲家だよね」と自画自賛で拍手を煽る。照れながら、でも胸を張りながら、飾らない態度が依与吏らしい。
「歌うたびに自分で“そうだよなぁ”と思う。俺もみんなと同じです」
「日曜日」から「ささえる人の歌」へ。セトリはアルバムで言うとメジャーセカンド、サードあたりの曲が多く、依与吏のパーソナリティが色濃く出た個人的な曲が目立つ。ギター1本で歌われるとさらに懐かしくて切なさが増す。一転して2022年の楽曲「ベルベットの詩」は観客にコーラスを頼み、人の声が持つ強さと温かさで全員の心を一つにする。
「こんなに小さいことを歌っている、同じことを思っている人がほかにもいるんだと思ってもらえれば。これからも“小さい歌”を歌い続けていこうと思います」
作っているのはオレだけど、作らせてもらっている感覚です──と依与吏は言った。彼の作る歌は、たくさんの人や出来事とのふれあいの中で生まれた親密な歌ばかりで、小さい歌という表現はそれをうまく言い表している。「チェックのワンピース」の、あまりにも個人的な切ない別れの情景や未練や後悔を、繊細に綴る“小ささ”に泣ける。全8曲で55分、「対バンの清水依与吏」はありったけの情感を込めて、back number楽曲の本質を裸のままで見せてくれた。昨日と今日、この対バンを観られた人はラッキーだ。
back numberのステージ
およそ30分弱の転換を経て、back numberの登場だ。サポートを含む6名がステージに立つ。ジャケットを羽織った依与吏が「行くぞ!」と叫ぶ。大量のレーザービームとすべての照明に灯りが入り、光の粒と音の波が押し寄せる。1曲目は「高嶺の花子さん」。観客のジャンプでスタンドが大きく揺れる。激しくロックする「大不正解」から「アイラブユー」へ、大ヒット連発で一気に飛ばす。壮麗な照明、音響、バンドの演奏も含めて全員の気迫が凄い。これが「服を着た曲」だとしたら、着飾ることも素晴らしい。
「持ってきてるもの、すべて渡すので。受け取ってください」
とにかくバンドは絶好調だ。「光の街」から「HAPPY BIRTHDAY」へ、等身大のラブソングをじっくり聴かせ、満場一致のクラップで盛り上がる「楽園の地図」へ。依与吏がエレクトリックギター1本で歌いだした「水平線」が、やがて壮大なロックバラードへと発展する。水平線から昇る太陽のようなバックライトがとても綺麗。聴きながら涙をぬぐう女性ファンが周りにたくさんいる。一体感が半端ない。
「清水さん、ありがとうございました(笑)。でも“あっちがいい”は困る。負けるわけにはいかないんです」(小島)
「あなた、今日は両方を楽しみにしてきましたね? 2024年のハイライトになるライブにしましょう」(栗原)
「対バン」相手の清水依与吏を笑顔でねぎらいながら、負けん気の強さを見せる二人。大量のレーザービームが壮観な「最深部」、シニカルで挑発的な歌詞をタイポグラフィで演出する「ロンリネス」と、激しく攻撃的ロックチューンを畳みかける。かと思えば依与吏が「一緒に歌ってください」と呼びかけて「花束」を合唱し、「ハッピーエンド」の切なすぎる世界観にしっとり浸る。「私と同じことを思っている人がほかにもいるんだ」と思う人たちが、アリーナを埋め尽くしている。観客の感情と楽曲がシンクロしている。
「いろんな人に手を引いてもらってここまで来ました。自分のためだけに生きるのは違うって思えるようになりました。いつもそばにはいられないけど、あなたが本当にしんどい時に、足元に見つける泥だらけの足跡。そういうものに俺はなりたい。俺はもう、愛を歌うことから逃げない」
これは誰の人生だ──。長い独り語りのあとに歌われた最新曲「新しい恋人達に」の、ありったけのエモーションを詰め込んだリフレイン。依与吏の覚悟とバンドの結束力が凝縮されたこの曲は、ある意味ツアーのテーマ曲と言えるかもしれない。さらに「怪盗」から「スーパースターになったら」へ、ラストスパートを全力疾走で駆け抜ける。キャノン砲が宙高く銀テープを発射する。
「俺のすべてがback numberのためだけにあればいいなと思います。これからもback numberをよろしくお願いします」
アンコールは1曲。ファイナルで共演するクリープハイプのカバー「バンド」を披露して、全15曲のライブを締めくくった。清水依与吏とback number。前代未聞の対バンは、観客とバンドの両方に新たな刺激をもたらした。すべての曲を歌い終え、笑顔で手を振る3人の顔には「まだまだこれから」と書いてある。ツアーは終わり、新しい年が始まる。新しい愛の歌を探しに、バンドはまた次の旅へと向かう。
SET LIST
清水依与吏
01. 恋
02. 東京の夕焼け
03. 助演女優症
04. 君がドアを閉めた後
05. ささえる人の歌
06. 日曜日
07. ベルベットの詩
08. チェックのワンピース
back number
01. 高嶺の花子さん
02. 大不正解
03. アイラブユー
04. 光の街
05. HAPPY BIRTHDAY
06. 楽園の地図
07. 水平線
08. 最深部
09. ロンリネス
10. 花束
11. ハッピーエンド
12. 新しい恋人達に
13. 怪盗
14. スーパースターになったら
back number ENCORE
01. バンド(クリープハイプカバー)