back number “in your humor tour 2023”
2023年4月16日(日)東京ドーム
4月16日、東京ドームでback number “in your humor tour 2023”を観た。多くのヒット曲に加え、新しいサウンドの方向性にトライしたアルバム『ユーモア』のリリースにともなう、およそ5年振りのドームツアー。グラウンドの隅々まで埋めたオーディエンスの数と熱気が、期待の高さを物語る。声出しも解禁された。ドームという非日常に、ライブという日常が戻って来た。
1曲目は緩やかで力強く、「アイラブユー」から始まった。派手な演出もなく、ただギターをかき鳴らして歌うだけで、一瞬で数万人の目と耳を釘付けにする清水依与吏。3人のサポートを加え、分厚いアンサンブルで支えるバンド。自然体のオープニングから一転、「大不正解」では大量のレーザーが飛び交い、無数のライトが強烈な光度で点滅する。巨大な7面スクリーンが、気合満点のメンバーの表情を映し出す。激しさに明るさを加えて「SISTER」へ、「行くぞ!」と煽る依与吏の叫びに、一斉に手振りと歓声で応えるオーディエンス。緩急の展開が早く、広いドームがあっという間にback numberの色に染まった。
「日頃大事にしてもらっている曲たちなので。1曲1曲本気で、命賭けてやっていくので、最後までよろしくお願いします」(清水依与吏/Vo&Gt)
ここから3曲は、愛しさと切なさとドラマチックを兼ね備えたラブソング。ポップな「秘密のキス」と、女性を主人公にした美しい映像とのシンクロには、爽やかな初夏の風を感じる。4月に聴く「クリスマスソング」は、冬の冷たさと心の温かさを思い起こすタイムマシンだ。そして、青いまま枯れてゆく、という悲しい歌詞に合わせて照明が青に変わる「ハッピーエンド」。長くなるからまとめて言うと、back numberのライブは「歌詞を聴かせること」を絶対の中心に、演奏と照明と映像と音響の一体感が最高だ。
「今日というライブを、あなたにとって特別な1日にするから。一緒にライブを作っていこう」(栗原寿/Dr)
寿の陽気なMCからの「エメラルド」は、サイケデリックに歪む音とポップアートな映像がかっこいいダンスロック。依与吏が声にならない叫びを交え、エモーショナルな歌を聴かせる「青い春」もアッパーなビートでぐんぐん飛ばす。ハンドマイクに持ち替えた「ヒーロースーツ」は、カラフルでファニーな映像をバックに盛り上がる。back numberの一番ポップでハジけた側面を見せる、華やかな演出が実に楽しい。
「みんなと少しでもいい時間を過ごせるように、一生懸命に練習してきました。楽しみ方はそれぞれあって、声を出してくれても、手を上げてくれても、真剣に見てくれるのも嬉しいです」(小島和也/Ba&Cho)
ここからは、サブステージを使ったスペシャルメニューだ。ホームベース付近に作られたサブステージに移動する3人を、温かい歓声と拍手が迎え入れる。「エネルギーは、放つだけじゃない。俺らがもらって、また返して、循環だね」と、感慨深げに依与吏が言う。広いドームの真ん中で、アコースティックで奏でる曲は「ヒロイン」と「手紙」だ。互いの目を見ながら向かい合い、まるで小さなスタジオにいるような演奏。どんなに大きなバンドになっても、いつでもここに戻れる、これがback numberの原点。
『ユーモア』は、ライブの躍動感を大切にしつつ、凝ったアレンジで緻密に作り込まれたアルバムだ。メインステージに戻った1曲目「Silent Journey in Tokyo」はその代表で、シティポップ感あるサウンドが心地よくライブ映えする。しかし歌詞は不穏で、ハイウェイを移動してゆくだけの映像が、不安定に揺らぐ感情を刺激する。「ゴールデンアワー」も、悲しみをたたえた都会的な映像美で、ダークな世界観に引きずり込む。そこから一気に反転上昇、鉄板のキラーチューン「高嶺の花子さん」でいやがうえにも盛り上がる。ドラマチックな感情の起伏の激しさに合わせ、ドーム内の熱がさらに上がった。
『ユーモア』からの新曲は続く。「赤い花火」は、物憂げに大人びた楽曲の魅力に加え、天井に映し出される打ち上げ花火を模した照明が実に鮮やか。ワウギターとダンスビートを主軸にした「黄色」のグルーヴも素晴らしい。そしてこの日最大のクライマックス、壮麗なバラード「水平線」がやって来る。YouTubeで2億回近く再生された、ミュージックビデオの続編の続編とも言える映像の美しさ。悲しみを乗り越える希望を綴る手書きの歌詞と、依与吏のエモーショナルな歌声との見事な重なり。これぞ、ライブでこそ真価の伝わる究極の感動曲。
「俺たちは、そんなにたいしたものじゃないです。今も不安でいっぱいだけど、もし一緒に歌えたら、あとで思い出して、もうちょっと強くなれるんで。そしたらまた胸を張って、あなたの人生に関わるので。どうか一緒に歌ってください」(清水依与吏)
アマチュア時代の思い出を語りながら、変わらない音楽への思いと、それを受け取る人への信頼を語る依与吏の声が震えている。言葉にならない希望を歌う「ベルベットの詩」のリフレインを、数万人が合唱する。悲しみの淵を覗き込んだら前に進もう。本編最後を飾る「スーパースターになったら」の、力強いリズムが背中を押す。泣き顔が笑顔に変わる。銀色のテープを仕込んだキャノン砲がぶっ放される。サビはもちろん大合唱だ。どんなに感情が揺れ動いても最後は顔を上げる。これがback numberのライブだ。
アンコール1曲目「添い寝チャンスは突然に」は、『ユーモア』の中でも「ヒーロースーツ」と並んで理屈抜きで楽しめる陽気なロックチューン。楽しいだけであっという間に終わる。頼れるサポート、村田昭(Key)、藤田顕(Gt)、矢澤壮太(Gt)を紹介する。カメラに向かって、和也が男前なポーズを決める。こんなに最高の疲労感はないですと、寿が笑う。俺たちがすごいわけじゃない、あなたが育ててくれた曲たちが素敵だったということですと、依与吏が言う。全員がいい笑顔をしている。
およそ3時間近くに及ぶライブを力強く締めくくったのは、2ndシングル「花束」と、『ユーモア』からの「怪盗」だった。様々な変化と進化はあるが、back numberの本質はたぶん変わらない。この日も「ただいい曲を、いい歌詞を作りたいだけ」と、依与吏は何度も繰り返した。『ユーモア』は現時点での最高作だと、ライブを体感することで再確認できたのがうれしい。過去と未来、音源とライブ、バンドとファン、すべてが循環して巡り巡る。back numberは今、素晴らしいサイクルの真っ只中にいる。
SET LIST
01. アイラブユー
02. 大不正解
03. SISTER
04. 秘密のキス
05. クリスマスソング
06. ハッピーエンド
07. エメラルド
08. 青い春
09. ヒーロースーツ
10. ヒロイン
11. 手紙
12. Silent Journey in Tokyo
13. ゴールデンアワー
14. 高嶺の花子さん
15. 赤い花火
16. 黄色
17. 水平線
18. ベルベットの詩
19. スーパースターになったら
ENCORE
01. 添い寝チャンスは突然に
02. 花束
03. 怪盗