花譜「私に居場所をくれて、武道館まで連れて来てくれてありがとう!」 『ヴァーチャルシンガー“ソングライター”花譜』の次なる展望を観測した夜。

ライブレポート | 2022.08.31 17:00

花譜 3rd ONE-MAN LIVE「不可解参(狂)」
2022年8月24日(水) 日本武道館

初のワンマンライブから3年。次々と完結する3部作楽曲。濃密な3時間。不可解参(狂)。初の日本武道館公演――。彼女が花譜として、花譜ではないひとりの人間として駆け抜けてきた時間を全身で浴びるようなライブだった。

ステージは下段、中段、上段の計3段。上段と下段のバックと両脇にはLEDモニターが設置されおり、立方体をモチーフにしたセットが組まれている。黒バックに赤い幾何学模様をあしらった映像のなかカウントダウンが始まると、映し出されたのは渋谷の街並み。日本武道館公演の開催を発表した生配信を彷彿とさせるその内容に、物語が動き出したことを察知する。

新衣装で登場した彼女がまず披露したのは「魔女」。Vシンガーの存在意義について綴られた楽曲が初手であることからも、並々ならぬ気合いが窺える。ギター、ベース、カルテット、ドラム、ターンテーブル、シンセ、ピアノの計10名と届ける壮大なライブアレンジも、これまでの軌跡をたどりながら新しい物語を紡ぎ出していくようだ。
「花譜です。始めます!」と高らかに宣言し、「ついにこの日がやってきました! 楽しんでいきましょう!」と呼びかけると「畢生よ」、「夜が降り止む前に」、さらにポエトリーリーディングを挟んで「ニヒル」、「アンサー」とメドレーのように畳みかけていく。曲それぞれに綴られた感情に没入させるボーカルと、曲の節目という概念を失わせるほどの息つく間もない展開。まさに“不可解”であり“狂=MAD”だ。そこから間髪入れずにカンザキイオリの「命に嫌われている」のカバーへ。「武道館~!」と呼び掛けながらステージを走り回るという無邪気な面を見せながらも、彼女の歌声は楽曲が進めば進むほど感情を高ぶらせてゆく。全身を振り絞った体当たりのステージには目を見張るばかりだ。

最新のXR技術が使用された同ライブ。サイド上部のモニターには、大勢の観客を目の前にしてステージで歌う彼女の姿が様々な角度から映し出されている。特に客席に向かって歌う彼女を後ろから捉えた画角は、現実世界そのものだ。姿形はバーチャルな彼女と、リアルの場に身を置く観客がリアルタイムで融合する様子は不可解ではあるものの、それ以上に面白い。自分の脳内でしか成し得なかった現象を視認できるのは、やはり代えがたい驚きと喜びがある。

ふたつの世界の入り混じる空間を目の当たりにし圧倒される観客も多いなか、花譜も日本武道館の舞台に立っていることを「夢の中にいるよう」と少々夢見心地の様子。それでもしっかりと会場を見渡し、「夢のような現実を皆さんと迎えられたことが本当に本当にうれしいです」と真摯に感謝を述べる。「次はわたしの始まりの曲です」と告げ披露した「糸」は、ひたむきに音楽活動を続けてきた彼女の姿勢がそのまま反映されたような、清らかな歌声が響き渡った。

ポエトリーリーディングを挟むと、多数の豪華ゲストを招いたセクションへ。まず1人目のゲストは花譜の音楽的同位体・可不。sasakure.UKが可不で制作した「化孵化」、コラボ企画“組曲”で制作されたデュエット曲「流線形メーデー」と、似て非なる紅白のふたりがハーモニーを響かせ、さらにダンスユニット・ELEVENPLAYもステージを彩った。新衣装「第三形態 燕(壊)」にチェンジ後はステージ中段中央に花譜が現れ、たなか(前職・ぼくのりりっくのぼうよみ)と「飛翔するmeme」、大森靖子と「イマジナリーフレンド」を歌唱。たなかは彼女の声を自分の声で色づける一方、大森は真逆。冒頭からミュージカル俳優のように花譜へ語り掛け、立方体のスペースから出て激情的なダンスを見せる。さらにMVに登場する後藤栞奈もダンサーとして花を添え、大森は以前花譜がカバーした「死神」のフレーズも曲中に混ぜるなどし、鬼気迫る境界のないステージを繰り広げた。

カンザキイオリが花譜とじっくり話したうえで制作した「そして花になる」3部作楽曲の最終曲「裏表ガール」の単独歌唱と、可不を使用した楽曲や花譜によるカバーなどをミックスしたDJパフォーマンス「K.A.F DISCOTHEQUE」を経て、ノンストップで「ダンスが僕の恋人」へ。衣装チェンジをした花譜と、3人目のゲスト・東京ゲゲゲイのMIKEYがロマンチックなハーモニーで会場を魅了する。続いて登場したORESAMAは、ぽん(Vo)と小島英也(Gt)が花譜を挟んでパフォーマンス。花譜もぽんと合わせてダンスをしながら、新曲「CAN-VERSE」を初披露した。「神聖革命バーチャルリアリティー」では花譜も下段に移動し、オリジンの姿で現れたVALISとパフォーマンス。中段にはELEVENPLAYもダンスで参加し、華やかなステージを繰り広げた。

そして豪華コラボレーションの締めくくりはV.W.P。春猿火、ヰ世界情緒、幸祜が、らぷらすと謎の少年エルの力を借りて日本武道館に到着し、語学留学のため渡米した理芽も一時帰国してステージに合流した。ヰ世界情緒が「深淵」、理芽が「魔的」、春猿火が「残火」、幸祜が新曲「歯車」を花譜とともにデュエットし、最後に5人で「共鳴」を歌唱。同じ場所に身を置く盟友たちとのステージに、花譜も喜びと安堵を見せていた。

様々な見どころを経て、とうとうクライマックスへと突入。花譜は「特殊歌唱用形態『軍鶏』」に衣装チェンジすると、「過去を喰らう」「海に化ける」に続き新曲「人を気取る」を披露し、“大人/人間になること”に向き合った3部作を完結させる。花譜は「いまだに“大人になる”ということを理解しきれていないけれど、わたしのなりたい“大人”になっていけたらいいなと思う」と語ると、ライブシリーズ「不可解」や今回の「不可解参(狂)」に対する思いを述べた。その言葉に込められていたのは、自分自身の心だけではなく、目の前にいる花譜のファンである“観測者”や、漠然とした世の中と自分なりに向き合っていこうとする覚悟。彼女が自分の理想とする大人への一歩を踏み出しているようにも見受けられた。

「このライブは今までの『不可解』とはちょっとムードが違うけれど、枠組みにとらわれすぎないのが『不可解』なのかなと思います」と、「不可解」シリーズの可能性を広げる――つまり物語が動き出したことを示唆すると、「不可解」「未観測」に続き新曲「狂感覚」を歌唱し、不可解を起点にした物語の3部作を完結させる。“狂気に満ちた世界”で生まれた“狂=あなたに夢中”の念を花譜×カンザキイオリの世界観で表現した同曲と、時折歌声から漏れる彼女の感情の高ぶり。彼女が「不可解」シリーズのなかで得てきた思いや記憶が歌声を通して伝わってくるようだった。

モニターに映し出された「VIRTUAL SINGER KAF」の文字列の間に「SONGWRITER」の文字が浮かび上がる。「VIRTUAL SINGER SONGWRITER KAF」の文字の後には、軍鶏をモチーフにしたコスチュームを脱いだ、ワンピース姿の彼女があった。「自分の言葉で歌うのは少し不安だけど、今日やっとみんなに聴いてもらえることがすごくうれしい」と心中を明かし届けたのは、自身で作詞作曲を手掛けた「マイディア」。親愛なる人=歌を聴いてくれるあなたに向けて書いたこの曲を歌いながら、彼女は何度も手を振る。その揺らめきと優しい歌声は、愛する人と手と手を取り合ったときのようにあたたかった。

高校1年生の頃から思いのままに楽曲制作を行うようになったと語る彼女は「自分の作る曲が好き」と微笑む。「マイディア」は去年の夏にできた曲であること、彼女にとって他者へ向けて書いた初めての曲であり、花譜ではない日常生活のなかで紡いでいったこと、自分の好きな時間帯の“夕方”と“夜明け”をイメージしたことを話し、涙で声を震わせながら観測者たちに感謝を伝えた。

花譜としての人生の充実を感じながらも、リアルとバーチャルの曖昧な境界線で「わたしはどうありたいんだろう」と試行錯誤する日々ながらも、ずっと変わらなかったのは「歌が楽しい」という思いだったと話す彼女は、誰かが聴いてくれる、好きでいてくれることが自らの支えであると続けると、すべての観測者一人ひとりに「あなたが観測してくれるから、わたしはわたしでいることができています」とまっすぐに伝える。自分の気持ちを伝えるのが苦手である彼女が、一言一言大事に、しっかりとした口調で話す姿に、“なりたい自分”へと踏み出していく気概が見て取れた。

最後に「みんなわたしに居場所をくれてありがとう。そして今日、武道館にまでわたしを連れてきてくれてありがとう。みんなと一緒に観た今日のこの景色、わたしは一生忘れません。これからも新しい景色をみんなと一緒に観たいです。どんなに暗い、悲しみにまみれた世界でも、明るく楽しく楽しく生きていくぞ~! ここにいてくれてありがとう、大好きです」と告げると、あたたかい拍手に包まれながら彼女はステージから姿を消した。

エンドロールの後、「花譜10大プロジェクト」の全貌が明らかに。花譜展3「この時間は言葉にしなくていいの。」の開催、人間六度による「過去を喰らう」の小説化、「バーチャルシンガー花譜の廻れ!MAD TV」の放送開始、ライブシリーズ「不可解」の完結編「不可解参(想)」の開催、3rdアルバム『狂想』のリリースとが発表された。

エンドロールの最後に映し出されたのは「Go Against Fate!」。運命に逆らえというメッセージだった。信頼できる人々と自分の意志で歩みを進め、様々な“狂”と向き合った花譜が何を“想”うのか。そこには何が存在するのだろうか。「狂想」と「不可解」の真意とは――。
物語の続きを引き続き観測していきたい。

SET LIST

M1. 魔女
M2. 畢生よ
M3. 夜が降り止む前に
M4. ニヒル
M5. アンサー
M6. 命に嫌われている
M7. 私論理
M8. 戸惑いテレパシー
M9. 糸
M10. 化孵化 with 可不
M11. 流線形メーデー with 可不
M12. 飛翔するmeme with たなか
M13. イマジナリーフレンド with 大森靖子
M14. 裏表ガール
~K.A.F DISCOTHEQUE~
M15. ダンスが僕の恋人 with MIKEY from 東京ゲゲゲイ
M16. CAN-VERSE with ORESAMA *新曲
M17. 神聖革命バーチャルリアリティー with VALIS
M18. 深淵 with ヰ世界情緒
M19. 魔的 with 理芽
M20. 残火 with 春猿火
M21. 歯車 with 幸祜*新曲
M22. 共鳴(V.W.P)
M23. 過去を喰らう
M24. 海に化ける
M25. 人を気取る*新曲
M26. 不可解
M27. 未観測
M28. 狂感覚 *新曲
M29. マイディア *新曲(花譜 作詞・作曲)

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