
──「インドア・ブギ」は、エミリさんのロックンロールのグルーヴを備えたボーカルが、まず素晴らしいです。インドアというテーマもコロナ禍以降の今の時代にドンピシャです。そもそも、このモチーフはどこから生まれたのですか?
川口この曲は『トゥーフェイス』というアルバムタイトルが決まった後で作ったんですね。『トゥーフェイス』と言いつつも、その時点で暗めの曲が多かったので、我々の楽しい一面、笑いが好きな一面も見せられたらと思って、そっち方面を意識して作りました。
エミリ歌に関しては、吉川晃司さんやエルビス・プレスリーの歌い方を参考にしながら歌っていました。女性でこういう歌い方をしている人ってあまりいないかなって。

──こんなにも躍動感のあるグルーヴを出せる女性ボーカリスト、かなり稀少だと思います。
川口僕はこのアルバムの中でこの曲の歌は一番好きかも。ノッてる感じがする。
エミリ自分で聴いていて、この人(歌の主人公)の変なところ、ぶっ飛んだところが好きですね(笑)。
──「さよならといっしょに」はとても美しいメロディの曲で、エミリさんの歌声が染みてきます。
エミリこれは川口が元の曲を作ってきたんですが、当初、歌詞の内容はパーソナルな方向に行きそうだったんですよ。でも、そういう曲が多くなりすぎるのもどうかな、もう少し普遍的な方向に持っていきたいなと思って作った曲ですね。実際に歌ってみたら、卒業ソングのようにも聴ける曲になりました。学生が卒業式の合唱で、<さよならといっしょに>ってハモる光景を想像できたので、学生が歌ってもいいくらいの感じになったかなと思います。
──「Love is not enough」の歌声も素晴らしいです。聴いていて、浄化されるようでした。
エミリキーがかなり高いので、下げようかという話もあったんですけど、あの曲の歌声は悲痛な叫びであり、祈りでもあるから、そんな簡単に歌えたってしょうがないよねってことで、話し合って、あのキーにしました。私としては、“誰にも伝わらなくてもいいや”くらい、パーソナルな部分に振り切って歌っています。でも、逆にそうやって歌うことで、伝わることがあるのかなとも思いました。
──確かに。大切な存在を失った経験のある人は多くいるでしょうし、パーソナルな感情を深く掘り下げていくと、人間の根源的なテーマにも繋がりますよね。
エミリ後半に、<今日の世界を僕は憎んでいる>という歌詞があるんですけど、人の曲を聴いていても、そういうショッキングな歌詞、救いがない歌詞に救われる自分がいて。この曲も悲しみの中にいる自分に馴染む歌になりました。
──「最悪」は、すべてをさらけ出す赤裸々な歌詞の威力がとてつもない曲です。
川口これは歌詞をエミリが作ったんですが、互いの曲を持ち寄る発表会の直前に、LINEで「ついに言う時が来た!」って(笑)。

──ここまでリアルに描くことはなかなかできません。しかも、R&Bテイストのある曲調が見事にはまっています。
エミリミュージシャンの恋愛が描かれていて、違う世界のことだから、「共感できない」と言われるかと思いきや、「この曲調が好き」という反響もありました。
川口歌詞の意味を意識せずに聴いても、楽しんでもらえる曲になったのではないかと思います。
──物語として楽しめるところもある曲だなと感じました。ミュージシャンが主人公の青春映画的な音楽として昇華しているなと。
エミリ確かに昇華したところはある気がしますね。このネタは、この歌にしたことで、おしまいにした、みたいな感じはありますね。
──「人はいつか」もとても染みてくる歌です。そして、MVも素晴らしくて。MVを観ると、歌の世界をより深く理解できますよね。この曲はどんなきっかけから?
エミリこの曲のおおよその枠組みは私が作ったんですが、最初は<人はいつかサヨナラ 知っていたはずなのに>という歌詞ではなくて、<人はいつか死ぬことを 知っているのに>という歌詞だったんですよ。自分で歌ってみても、テーマが強すぎるかなと思っていたんですが、その強すぎるニュアンスを川口が中和してくれました。
──マリンバやスティールパンのような音色が入ったり、スカのようなリズムが導入されていたりして、明るさのあるサウンドによっても緩和されていますよね。
川口最初はもっとテンポが遅くて、美空ひばりさんの歌に通じる雰囲気もあったんですが、こういうテーマだったら、テンポを上げて、明るく歌った方がいいんじゃないかと考えました。

──明るいからこそ、染みてくることもありますよね。
エミリ私の家族から、「HONEBONEの曲はいいんだけど、暗すぎる時があるから、『人はいつか』を明るくしてくれて、ありがとう」とお礼を言われました(笑)。
──<また朝が始まる>という、希望のあるフレーズで終わるところもいいですよね。
エミリこういう形になって良かったなと思っています。
川口この歌は別れがテーマで、実際に自分たちも大きな別れを経験しています。でも、自分たちは今、元気に生きているし、日々笑って過ごしているしな、という歌詞ですよね。受け入れきれていないところも、受け入れないようにしているところも含めて、自分たちはまだ生きてるよね、という歌になったと思います。
──カリブ海、特にトリニダード・トバゴの音楽に通じるテイストがあるのは?
川口元々、ラバーズロック・レゲエみたいな音楽が好きだったこともあり。あと、ハンバート ハンバートさんが好きで、昨年末の紅白歌合戦を観て感じたこともヒントになりました。歌っている内容はヘヴィーなんだけれど、明るいノリで歌っている感じがいいなあと。そのイメージだけ拝借しました。
川口今回、初めての監督さんだったんですが、昨年、エミリが出演していた『鬼レンチャン』を観て、「MVを撮らせてほしい」と連絡をいただいて、お願いしました。
エミリ私はMVにはかなりこだわりがあって、今まで発表してきたMVは、私も映像のチームも映画好きということもあって、世界観を作り込んでしまっていたんですよ。どれも好きだし、納得のいくものになっていたんですが、これまで、そうやって作り込んだMVを広めきれなかった現状を一旦受け止めて、広い視野を意識すべき時期なのではないかと思い、お願いしました。
川口うちらは一切要望せずに、監督さんに演出、アイデア、ストーリーをお任せして、歌の世界の魅力を引き出してもらいました。
──「なあ兄弟」は、相棒同士の歌で、HONEBONEのお二人の関係にも当てはまりそうですが、どういうところから?
川口HONEBONEのことと思ってもらってもいいし、自分にとっての兄弟、血の繋がった兄弟のこと、兄弟分のような仲間、友達のことと思って聴いてくれてもいいですし。毎日のように連絡を取り合う仲ではなくても、共通点を見つけて、根底で繋がっている存在がいると、人は安心できるよねってことですね。
──この曲だけではありませんが、エミリさんの歌声に寄り添うような川口さんのコーラスもとても印象的です。
エミリ今回のアルバムに関しては、当初は自分の声で重ねてるものがそれなりにあったんですが、聴いていて、ピンと来ないところがあって、「川口の声にしてくれない?」って言って、かなり歌わせました(笑)。

エミリひとりで歌っていても面白くないというか、ライブでもそうですが、2人でやっていることを自分も感じたかったんですよ。
──確かに、2人の歌声だからこその良さを感じました。
川口自分はそんなに歌が得意なわけではないのですが、やる以上、コーラスもしっかり練りました。例えば、「なあ兄弟」だったら、Aメロすべてにコーラスが入っているのが、ポップスのセオリーなんですが、そうはしていません。
川口そうなんですよ。一方だけが呼びかけているところと、2人で呼び合っているところがあるので、そこは内容に沿って、分けていきました。
──2人で歌っていることの意味がより鮮明になって、<おんなじだね おんなじだな>という言葉が強く響いてきました。
エミリ私はコーラスによって励まされました。自分たちで作った曲だけど、自分たちの曲に結構励まされています。
──アルバムラストの「大脱走」はライブでシンガロングになる光景が目に浮かぶ曲です。
川口楽しく終わりたいな、パンチがあって楽しく盛り上がれる曲が欲しいなと思って作った曲です。実はこの曲も、芸人の永野さんとの会話から着想を得ていて、永野さんがSNSをすべて辞めたタイミングだったんですよ。自分たちも状況は異なりますが、堂々巡りのように同じ規模の活動を続けている状況から脱したいという気持ちがあって、“脱走”というテーマが浮かびました。でも、これは自分たちだけの話ではなくて、会社を辞めたいけれど、辞められないとか、SNSを辞められないとか、今いる環境から脱走したい人って、たくさんいるんじゃないかなと考えて作りました。

──通勤時の満員電車が舞台となっている場面のある「人間はつらいよ」で始まり、「大脱走」で終わる構成もとてもいいですよね。
エミリ会社に行こうとしている人が、帰る時には、“もう辞めてやる!”という気持ちになっているという流れですね(笑)。
川口会社に辞表を出して帰ってきた、みたいな。そんな鬱憤ばらしにもなるかなと(笑)。
──CD限定で、ボーナストラックとして「自転車の正しい乗り方の歌」が初CD化されて入っているのもうれしいです。もともとは2020年に制作された歌ですが、2026年4月から交通反則通告制度(青切符)が導入されるなど、時期的にもタイムリーです。
川口時代がまた追いついてきて、 自転車関連の仕事も増えてきたので、入れておこうかと。
──アルバムが完成してみて、改めて感じたことはありますか?
川口リリースしてみて、“この曲にこんなに共感してくれるんだ”とか、“こういう聴き方をしてくれるんだ”とか、いろいろと見えてくることもあったので、さらにライブが楽しみになりました。ライブでやることで、また発見もあると思います。
エミリ私はこのアルバムを作ったことで、楽になったところがあるんですよ。私は二面性を持ったまま音楽をやっていくわ、どっちの面も捨てきれなかったわと、割り切れたというか。HONEBONEのエミリとして、これまで以上にシンプルになれたんじゃないかと思っています。今までは、歌の中で“嫌だ”という感情を一方的に叩きつけるだけだったのが、“嫌なんですよ。みんなもわかるでしょ”“わかるよ。好きにやんな”みたいな感じで、双方向のやりとりがある気がしていて。よりライブで歌に集中していけそうだなと思いました。


──HONEBONE TOUR 2026「トゥーフェイス」~顔だけでも見にこいや~』、熱いステージになりそうですね。
川口前作『ドーン』からバンドサウンドが基本になっていて、バンドのメンバーも固定されるようになってきましたし、アルバムもライブでその人たちとやることを想定して作ったところがあります。ツアーの東京と大阪はバンド編成なのでハイライトになるだろうし、2人で回るところは2人の良さがあると思います。
──バンド編成とデュオ編成、それぞれの醍醐味はどのようなところにありますか?
エミリバンド編成はダイナミックなものになると思いますし、川口がどれだけ自由に、楽しそうに演奏するかが見どころです(笑)。いろんな重圧から解放されていると思うので(笑)。
川口そうなんですよ。ギターを弾かなくても大丈夫(笑)。
エミリ楽しそうにやっている川口を観られつつ、私としても、このメンバーで一緒にやっているバンドがとても楽しいので、楽しさにフォーカスできる良さがありますよね。2人は2人で無骨なゴリッとしたライブをお見せできると思います。

──ツアーが終わったあとには、ワンマンとしては過去最大キャパとなるヒューリックホールでのライブがあります。今の時点で考えていることはありますか?
エミリまだ何も見えていません。今は目の前のことしか考えられないので、とにかくツアーに集中します。ツアーが終わったら、少しずつ見えてくると思います。
川口いま少し迷っているのは、ヒューリックホールでのライブを2人だけでやるか、バンドでやるかということです。僕としては、あえて2人だけでやるのがいいのかなと思っているんですが、エミリが反対するかもしれないなって。
川口では、どうなったかは、その時のお楽しみにしておいてください。

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