
HONEBONEの通算10枚目のニューアルバム『トゥーフェイス』は、喜怒哀楽から怨念(!)まで、人間の持っている多様な感情を音楽として見事に昇華した作品だ。パーソナルなテーマを掘り下げながらも、誰しもが共感できる普遍性も備えている。つまり、深くて広い作品なのだ。楽しくなったり、感動したり、しんみりしたり、熱くなったり、背筋が凍ったりする。“わかる”というよりも“刺さる”と言いたくなるリアルな曲もある。胸の中の傷をそっと包み込んでくれるような曲もある。生きづらい時代を生きていくヒントも散りばめられている。彼らの音楽を必要としている人たちがたくさんいるに違いない。この新作について、そしてアルバムのツアー『HONEBONE TOUR 2026「トゥーフェイス」~顔だけでも見にこいや~』、さらには11月に控えているヒューリックホールでのライブについて、エミリと川口に聞いた。
──『トゥーフェイス』を制作するにあたって、こんな作品を作ろうというイメージがあったのですか? それとも1曲1曲、出てくるものを形にしてまとめたらこうなったのですか?
川口僕はどちらかというと後者ですね。アルバムを作る時はいつもそうなんですが、2人で曲を持ち寄って、いいものをチョイスして、2人で育てていくというやり方をしています。で、制作の後半になってきて、こういうコンセプトでまとめるといいかなということが見えてくる感じです。
エミリ自分は川口とは違っていて、作り始めると、同じテーマの曲が何個も出てきてしまうことが多いんですよ。でも今回は気にせずに作り続けて、その後、どの曲を入れるかを考える段階で、バランスを見てまとめていきました。
──同じテーマというと?
エミリ今回の自分のテーマは“さよなら”でした。
──確かに、「さよならといっしょに」「Love is not enough」「人はいつか」など、別れが描かれた曲が多く収録されています。
エミリ自然に出てくるものを無視してもしょうがないので、そこは素直に出していこうと考えていました。『トゥーフェイス』というタイトルで、アルバムトータルで“二面性”というテーマを伝えたいという気持ちもありますが、その背後には“さよなら”というテーマもあって。自分だけじゃなく、みんなにも当てはまるんじゃないかなと思いながら作っていました。
──パーソナルであると同時に、普遍的であるところもこのアルバムの大きな魅力です。
川口曲作りは、それぞれの個人的な事情からスタートするので、自分に起きたこと、自分のまわりに起きたことなど、最初は個人的な内容が多めになっていますね。でも、この曲を聴いて誰が喜ぶんだろう、単なる日記じゃないか、というところから、手を加えていくことが多くて。喜んでもらえるもの、わかってもらえるものに形を整えていく作業をしているので、「パーソナルでありながら、普遍性がある」と言ってもらえるのは、とてもうれしいです。
──2人組のHONEBONEとして活動をスタートしてから12年目に突入していますが、曲作りをしていて、何か感じたことはありましたか?
エミリ改めて、私は川口の曲が好きだなって思いました。
川口おおっ!(笑)
エミリ川口の作る曲って、聴いていて、くすって笑ってしまうし、自分にとても刺さるんですよ。HONEBONEの音楽が好きな人も、ニヤニヤクスクス笑いながら聴いてくれるんじゃないかなと思います。
──しっかり刺さってきつつ、笑えるところが独特ですよね。
川口僕たちが10年くらい前にやっていた曲って、ひたすら「痛いです」と言っているだけ、みたいなところがあって、笑えないものが多くて。そこは自分たちも反省しているところなんですよ。そういう曲を「好きだ」と言ってくれるリスナーの方もいるし、自分たちとしても嫌いじゃないんだけど、エンターテインメントなのだから、楽しんでもらったほうがいいんじゃないかなと、考えるようになってきました。
エミリ多分、川口は誰かのことも考えて曲を作ってきてくれたと思います。私は本当に自己中な人間で、自分のことしか考えられないので、ひたすら自分について書いてきたんですよ。でも、ここ数年で誰かに聴いてもらいたいという気持ちが少し増えてきて、今回は生々しさを少し薄めつつ、でも、よくあるような曲にしたくないので妥協はせず、川口と相談しながら作りました。
川口その塩梅が難しいところなんですけどね。個人的なことだけを追求するのも違うし、一般的に受け入れられることを意識しすぎると、自分たちがつまらないし、うちらがやる必要はない。『トゥーフェイス』というタイトルにも通じるんですが、2つの要素で引き裂かれていたところがあったのですが、今回、吹っ切れたのが大きかったです。
──吹っ切れたきっかけはあったのですか?
川口大きかったのは、お笑い芸人の永野さんの言葉でした。僕たちは昔から永野さんのファンで、あるきっかけから知り合って、深い話をさせてもらうこともあって。永野さん自身、求められているキャラと、自分のやりたいお笑いとの間で引き裂かれていたという話をラジオでされていたこともあり、自分たちの悩みを相談したんですよ。「自分たちが歌いたい歌と、みんなに楽しんでもらえる歌との間で、引き裂かれているんですが、どうすればいいんですかね?」と相談したところ、「ひとつに決める必要はないよ。どっちもやればいいんじゃない」と言っていただいて、うちらの二面性をテーマにしていこうと吹っ切れました。
──その成果が今回のアルバムなんですね。
川口そうです。アルバムの中に「マイライフ、マイライブ」という曲があるんですが、これは完全にうちらのことを歌った歌なんですよ。<スポットライトを浴びて 拍手をもらって>という歌い出しからして、ミュージシャンの歌なので、一般の人が聴いた時に、共感してもらえるかどうかわからないけれど、そこを気にするのはやめよう、共感する人は勝手に共感してくれるだろうし、くらいの感覚で、普遍性を求めずに作りました。逆に、「人はいつか」という曲は、みんなが経験する別れをテーマにしているので、誰もが聴いて「いいな」と思う曲にしよう、といった感じでした。今までは中間を取ろうとして、結果的にどっちつかずになっていたところがありましたが、今回はしっかり分けられました。
──個々の曲についても伺っていきます。1曲目の「人間はつらいよ」は、まさに人間全般に当てはまる歌です。
川口この曲は僕が作ったんですが、タイトル先行で発想しました。令和の時代には、寅さんの『男はつらいよ』というタイトルは付けられないな、女性もつらいわけだし、今、あの映画を撮るならば、『人間はつらいよ』になるのかな、だったら、そういうタイトルの曲を作ろうかなと。そこからはあまり考えず、すんなりと作りました。最初はそんなに手応えがあったわけではないのですが、レコーディングの時に歌のディレクションをしてくれているヤナエル(YHANAEL)さん(K-POPやJ-POPシーンで活躍する音楽プロデューサー)が、「この曲、いいんじゃないか」と言ってくれて、レコーディングで化けた曲ですね。
エミリ今回、レコーディングで化けた曲はかなりありますね。
──エミリさんの歌声の表情もとても豊かです。
エミリ歌い方は常に悩んでいて。自分の好きな声、目指している声がなかなか出ずに、自分の理想とかけ離れていたんですが、ここ数年、受け入れられるようになってきました。若い頃は歌をうまく歌おうとしていた時期もあったのですが、途中から、自分が目指しているのは歌のうまさではないな、歌い上げてしまって、歌の内容とかけ離れてしまうのは違うなと気付きました。ですが、今回は見せるところは見せる、という意識も少し出てきて、レコーディングの中でチャレンジしたところもありました。
──2曲目の「マイライフ、マイライブ」は、フォーキーな歌と演奏がとても魅力的です。これは?
エミリ私が「こういう歌を作りたい」と原案を出して、歌詞も勢いで書いたんですが、曲として完成させるまでは、まだまだ遠そうだなと思い、川口に投げて、やりとりしていって、この形になりました。こういうことを歌っているミュージシャンって、ちらほらいますが、私も自分なりの音楽やライブに対する思いを歌いたいなとずっと思っていて、その気持ちが形になった曲ですね。
──ミュージシャンが主人公の歌ではありますが、<カッコ悪いかい><生きてんだ 当たり前だ>といったフレーズは、他の職業の人にも当てはまる普遍性を持っていますよね。
エミリアルバムの中で、パーソナルな曲と人に聴いてもらいたい曲とで分けてバランスを考えていますが、この曲は1曲の中でバランスを取っているところはありますね。例えば、Aメロの<ライブの翌日 アルバイトへ>といった歌詞の原案は、私が考えたんですが、<カッコ悪いかい><生きてんだ 当たり前だ>など、誰もが聴いてくれやすい形にしているのは川口ですね。
──「どうか、どうか…」も多くの人の共感を呼びそうな歌、それぞれの生活にリンクする歌です。でも、よ~く聴いてみると、実は不気味でもあるという。
エミリこれはひどい歌だね(笑)。
川口ホントにひどい(笑)。
──一見、慈愛に満ちた歌声のように聞こえながら、実は超ダークというところが最高です。
川口それが狙いでした。「この曲をこのアルバムの中で一番綺麗な声で歌おう」と言ってました(笑)。
──祈りの歌かと思いきや……。
エミリ呪いの曲だったという(笑)。
──でもこの曲も、誰しもが思うようなことを歌にしているところが見事です。
川口そうみたいですね。アルバムをリリースして、もっとも反応があったのがこの曲で(笑)。みんな、そういうひどい目に遭っているということなのかなと。自分自身、怨念に近い感じで、これは絶対に歌にしてやるからなと心に誓って作った曲です(笑)。
エミリハラスメント的なことって、経験している人は多いと思うんですが、私たちは良くも悪くもミュージシャンなので、ことが起きている最中にトイレに行き、川口にすぐ電話して、「今から言うことを覚えとけ、記録にしとけ」って(笑)。川口もしっかりボイスメモに録っていました。これはもはやネタだと(笑)。自分の身に起きたことをインプットして、その後、音楽としてアウトプットしてやるぞと。
──怨念を音楽として昇華できるところが最高です(笑)。
川口このことが起こった直後にトークライブをやって、そのハラスメントの話をしたんですよ。普通だったら、そこで昇華されるはずなんですが、この時はまだまだ足りなくて(笑)。
エミリまだ許さないぞ、これは絶対に曲にするぞって(笑)。だから、この曲を作ってとてもすっきりしました(笑)。多分、もっと若い時に同じような経験をして、同じテーマで曲を作っていたとしたら、誰も笑えない曲、聴いて不快になる曲を作っていたと思うので、そこは成長したなと思いました。













