fox capture planがサウンドプロデューズしたヒグチアイの楽曲について
──そもそもヒグチさんが、その2曲をfoxにお願いしようと思ったのは?
ヒグチ映画の主題歌と挿入歌だったんですけど(映画『女子大小路の名探偵』2023年10月公開)。ちょっとジャズっぽいことをやりたいな、と思って…私、ジャズの学校に行ってたんですが、自分の中にジャズがなくて。どなたかの力を借りた方がいいな、と思って。foxは大好きだったんで、「お願いできないのかなあ、どうなんだろう……」って、ひとりごとを言ってたら、大人が動いてくれました(笑)。
──アレンジはおまかせで?
ヒグチもう完全におまかせです。コード進行は送りましたけど。けっこう変わりました。
岸本ああ…(小声で)変えたっけなあ…。
ヒグチ変わりましたよ(笑)。頭は一緒なんだけど、ここからここにつながるコードの行き方が変わってるとか。それもうれしかったです。
岸本Spotifyのプレイリストの、国内ジャズ部門の年間チャートに、「誰でもない街」が入っていて、うれしかったですね。
ヒグチえっ、そうなんですか? 知らなかった。誰からも何も言われてない(笑)。
井上ジャズのチャートっていうのがね。
岸本そう、日本のジャズ・アーティストの中に…我々も入ってたんですけど、それとは別で、あの曲も。
──fox capture planの曲って、劇伴でも最初の一音で「あ、foxだ」ってわかるじゃないですか。でもこの2曲は、そうじゃなかったのが新鮮でした。
ヒグチへえ!
──だから、歌を立たせるために、普段使わない筋肉を使ったのかなと。
岸本そうですね。
ヒグチやっぱりピアノでデモをもらったりすると、やりづらかったりするんですか?
岸本いや、そんなことはないです。「誰でもない街」は僕がアレンジしたんですけど、デモを聴いて、「ああ、こっちの線やな」っていうのは、しっかり伝わってきたんで。曲のイメージを変えずに、ストレートに行った方がいいな、と。いわゆるスウィング、ハネた感じのリズムって、普段そこまで僕たちやらないんで。そのへんもおもしろかったし、一番のサビと二番のサビでアレンジを変えたりしたのも……一番のサビは、映画で使われる部分にまずはインパクトを持ってきたいというので、トリッキーなリズムでやったりして。おもしろいアレンジになったな、というのを、今、思い出しました。
──ヒグチさんも、ここまでどっぷりジャズの曲、めずらしいですよね。
ヒグチめずらしいです。でも、そもそもは声が低めだし、ザラッとしていてあんまり明るくないので、そっち側の方が合うのかも、って思ってたんですけど、自分はジャズを触りしかやってないから。「触りだけやってます」みたいな感じのジャズの歌って、ポップスでいっぱいあるじゃないですか、そうなりそうな気がして、ずっと避けてきたんですよ。なので、自分がピアノを弾くのではなく、誰かにお願いした上で、歌を歌うのなら、今だったらできるんじゃないかと思った、というのはありましたね。
──foxも、どっぷりジャズっていうのは普段やらないですよね。
井上やらないですね。
──最新アルバムの『DEEPER』も、もうジャンルがわかんないじゃないですか。
井上わかんないですね(笑)。
岸本でも「誰でもない街」は、いい意味で、ほかにやりようがなかったというか。曲のアイデンティティがそこなので。
井上レコーディングしながら「すげえ気持ちいい」って思ってたのは、すげえ憶えてて。
岸本そう。
ヒグチへえ! なんでですか?
岸本曲にひっぱってもらえるっていう。
井上カワイくんがアレンジした「この退屈な日々を」の方が、さらに、foxにあんまりないかも、という曲で。
岸本うん。難しかったな。
井上けど、ああいう歌もの的な、歌に優しく寄り添う、みたいなのが、僕は大好きなんで。やれたのがすごく楽しくて。