椎名慶治、ソロ活動12年の節目にニュー・アルバム『RABBIT-MAN Ⅱ』をリリース! 作品のこと、これまでのこと、これからのことを訊いた

インタビュー | 2023.12.21 12:00

まだ先なんじゃないですか? 僕が苦しくなるのは

──では、歌詞の部分なんですが……椎名さんも、もうキャリア長いじゃないですか。
はい。
──自分で書いた歌を歌う、キャリアの長いボーカリストって、自分の考えていることや、自分の気持ちを歌にしていくことをずっと続けていると、どこかで苦しくなるというか、自分の身を削って書くことに限界がくる。だから、ある時期から、気持ち100%ではない歌の書き方を、身につけていく人が多いと思うんですね。
ああ、わかります。
──何十年も気持ち100%のまま書いていて、成功しているボーカリストもいますけど。聴いていると、音楽としてはすばらしいけど、本人はしんどいだろうなあ、と、思うこともあって。
僕も思うことがあります。すばらしいんだけど、遺書みたいに感じたこともあったり。
──そこで椎名さんがどっちかというと、今でも身を削って書いている側だと──。
はい、そうですね。
──だけど椎名さん、なぜか、大丈夫そうなんですよね。そこがおもしろいなあと思って。
今、話をきいていて、絶対そこに落とし込まれるなと思ってたんですよ(笑)。身を削って、魂を削って書いている、椎名さんもそっち側ですよね、って言われると思ったんですけど。で、「でも大丈夫そうなんですよね」というのは、そのまま返しますけど、そのとおりです。

──(笑)。それは何なんですかね?
わからないです。でも、僕も同じことを感じてました。今でも身を削って書いている人の作品を聴いて……すばらしいんだけど、聴いていると苦しくて。でも、だからこそ、それを聴いた時に、うさんくさい歌詞、自分じゃない歌詞はイヤだ、と思ったんですね。この人のように書かなきゃ、と思って、自分の作品をもう一回見直したんですよ。その時はまだ、このアルバムの13曲中11曲ぐらいだったんですけど、歌詞を読んだ時に、「あ、嘘ついてないな。自分が書きたくて書いてるな」っていうことを確認しましたね。そういうふうに書けている、だけど苦しくなっていない。その理由を、僕も同じように分析したんですけど、わかんなかったです。だから、まだ先なんじゃないですか? 僕が苦しくなるのは。おまえごときがそうなるのはまだ早いよ、って言われるところに、まだいるのかな、と思いました。
──いや、だって、もう25年ですよ?
25年じゃ、まだダメなんじゃないですか?(笑)。
──特に、アルバムの実質的な1曲目である「Oh Yeah!!」や、ラストの「醜態成」。どちらも、確かに、頭と最後にしか置きようがない曲だと思ったんですけども。
はい、はい。ただ、自分で言うのもなんですけど、ちょっと軽やかな部分があるなと思うんですよね。ぶっ刺さるような歌詞を書いているわりに、軽快に、飄々としているというか、笑顔が見えるというか。と、自分の歌詞を分析すると……今、初めて分析しましたけど。
──しんどいことは言いたいんだけど、しんどい音楽として届けたくはない、というか。
あ、そうだと思います。結局、聴いた側がしんどくなってしまう音楽は、つらいんですよね。リスナーが一緒になって苦しんでしまう音楽には……そこも含めてすばらしい音楽も、もちろんあるんですけど、自分の音楽は……どんなに重いことを歌っていても、最後に「なんてね」って付くようなところがあるので。そういうところが、僕の武器になってるのかもしれないですね。人にやわらかく伝わるための。
──今作はそれが特に強く出たというのはない? いつもどおり?
いつもどおりです。ただ、歌詞と音との絡みって、自分が思っている以上に絡んだりとか、自分が思っているよりも絡まなかったりとか、作品によってあるんですけど。今回のアルバムは、すっごく絡んでいる気がします。絡んだからこそ、言葉の説得力がさらに増す……それは、共同プロデューサーの宮田'レフティ'リョウの才能だと思うんですけど。僕が歌を入れたあと、僕のリリックを見て、もう一度アレンジをするんですよ。
──ああ、なるほどね。
過去の作品は、完成したアレンジに、僕が最後に歌を乗せていたんですね。リリックはアレンジのあとなので、リリックを知らずにアレンジしている。でも今回のアレンジに関しては、宮田'レフティ'リョウが、中途半端なところで僕に投げて、僕が歌って、僕の歌も聴きながら最後にもう一回アレンジするんですよ。そうすると、言葉と音の距離がもっと近くなるので、言葉も説得力が増す、というのが実はあって。最初はすごくイヤなんですよ、完成していない音で歌入れをしなきゃいけないのが。困るんですよ。なんですけど、こうやって作ることによって、歌がさらに伝わるものになる、という結果を見せられてしまうとね。

──その方式にしたのは今回から?
前作もちょっとはありましたけど、今回は全曲そうでした。
──そう変えたのはなぜ?
遅いんです!
──あははは!
アレンジをするのが。間に合わないからしょうがなくて、中途半端な状態で歌を入れるんですけど、その結果、ぐうの音も出ないアレンジになると、「うーん、こいつと組まねえとこれはできなかったな」と思ってしまうので。その才能が枯渇するまで使ってやろうと思っています(笑)。
──じゃあ宮田さん的には「あ、遅くていいんだ?」という結果に──。
そういうことです。今後もこれでやるつもりです、あいつは。これ、書いといてくださいね? 許したわけじゃないですから、僕は。

自分をバージョンアップしていくことが大事

──(笑)。あと、2018年にSURFACEが再始動して以来、タイミングによっては、SURFACEとソロと同時進行の時期もありますよね。
同時進行の時もありました。今年、SURFACEが25周年を迎えたので、ツアーとか、新しくできたZepp Shinjukuで25周年記念ライブとか、動いてましたけど。その隙間隙間では、ソロのレコーディングをしてましたね、並行で。バタバタしてましたね。
──SURFACE再始動の前は、ソロと並行してJET SET BOYSをやっていたし、だから、ずっとそういう状態じゃありません?
そうです。僕、この13年で14枚アルバムを出してます。ブラック企業だと思います、うちの会社は(笑)。1年レコーディングをしなかったことがないんだな、と思って。スタジオにいたり、ステージに上がったりってことを、13年途切れなく、コロナ禍でも止まらずにできた、っていうことを振り返ってみた時に、すごいな、と思ったんですよね。需要がなきゃ、できないわけで。求めてくれる人がいたからだと思うし。
──「需要があっても、いくらなんでも」っていうペースじゃないですか?
(笑)いや、そうなんですけど、ありがたいと思ってますよ。もうちょっとゆっくり作りたい、って思うこともありますけど……これ、マネージャーと僕の共通の考えなんですけど、作品自体に利益を強く求めない、というのがあって。いっぱい出して儲けよう、というのはないんですよ。ただ、新しいものを見せないと、自分自身が古くなっていく、新しいものを作ってバージョンアップしていかなきゃいけない、という考えなので。そこはすごい感謝していて。「もっと売れなきゃダメだ」と言われていたら、プレッシャーになっちゃうし。

──確かに、動いてないと古くなる、というのは、わかります。
作品って、作って出すのにおカネかかるし、新しいものを作る意欲がなくなるとか、才能が枯渇していく、っていう場合もあるじゃないですか。そうなると、昔の曲だけで……毎回ツアーの名前は変わっているのに、やってる曲一緒じゃない? 曲順を並び替えただけだよね? っていうことが、起きるんですよ。
──ああ、ありますねえ。
この前のライブの焼き直しだよね? それ、お客さんにバレてると思うよ? と、俺は思うんですね。だから、自分をバージョンアップしていくことが大事で。椎名慶治を、今を生きているアーティストにしてくれているのは、その方針なので。会社によく言われるのが、「今のアー写(アーティスト写真)、もういいかげん古いから、作品を作りましょう」と。
──ああ、確かに、アー写が何年も変わらないと、動いていない感じ、しますもんね。
そう、もっともだなと思って。
──で、12月30日には、恒例のバースデイ・ライブが。
はい。僕は12月30日に品川インターシティホールでは、もう何回目かわからないくらいやっているんですけど。バースデイ・ライブが12月30日の人って、つらいですよ?(笑)。みんなもういないんですよ、東京に。ただ、今回、『RABBIT-MAN Ⅱ』が出て3日後なので、新しい曲も何曲かやって。「こういうアルバムが出たからよろしくね」って、CDを手売りするぐらいの気持ちで、多くの人に伝えられるライブになればいいなと。その上で、アコースティックツアーを3月に、バンドでのツアーは4月にやる予定で、そこではアルバムの曲、全曲網羅しようと思っています。この曲はやらなくても許される、というのが、今回のアルバムは、ないと思うので。

公演情報

DISK GARAGE公演

Yoshiharu Shiina Live 2023「Oh Yeah!!」

2023年12月24日(日)愛知・名古屋ボトムライン
2023年12月30日(土)東京・品川インターシティホール

■MEMBER
Vocal:椎名慶治
Drums:TETSUYUKI
Bass:Park
Guitar:友森昭一
Keyboards:村原康介
Sax:薗田佳煇

Yoshiharu Shiina Live 2024「Type A〜generalprobe〜」

2024年2月3日(土)東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

■MEMBER
Vocal:椎名慶治
A Guitar:友森昭一
Keyboard:村原康介

RELEASE

「RABBIT-MAN II」(High Wind)

6th FULL ALBUM

「RABBIT-MAN II」(High Wind)

2023年12月27日(水)SALE
詳細はこちら
  • 兵庫慎司

    取材・文

    兵庫慎司

    • ツイッター
  • 東 美樹

    撮影

    東 美樹

    • ツイッター

SHARE

椎名慶治の関連記事

アーティストページへ

最新記事

もっと見る