神はサイコロを振らない、10周年への確かな手応えを残し、全国5都市でのZeppツアーを完走!「何もかも嫌で飛び去りたくなっても、どうか武道館まで待ってください」

ライブレポート | 2024.08.01 18:00

神はサイコロを振らない
Zepp Tour 2024「開眼するケシの花」
2024年7月14日(日)Zepp Haneda(TOKYO)

神はサイコロを振らないが全国5都市でのZepp Tour 2024「開眼するケシの花」をファイナルのZepp Haneda(TOKYO)で完走した。今年は並行して3月から全国28本のライブハウスツアー「近接する陽炎」も行っており、異なる趣向のツアーを近い日程で走り抜けてきた4人は結成10周年を前に、バンドにとってのライブと生み出してきたアーカイヴにフラットに向き合っていたように映った。その姿勢はこれまでに比べても最もパワフルなものだ。

ステージが暗転しエレクトロニックなSEが流れると、混み合うフロアがさらに熱気を帯びてうごめく。ステージの全容がわかると全員が一段高いプラットフォームに位置しており、柳田周作(Vo)の“Yeah!”の一声からヘヴィな「修羅の巷」が放たれる。縦に突き刺すような複数のライトが檻のような錯視を起こし、グランジやガレージロックを想起させる音像も相まって、過去にないほど鋭いロックバンド像を見せてくれた。一転、檻から脱出するようにフロント3人が飛び出し、「タイムファクター」でタイトなアンサンブルを届け、柳田の「聴かせろよ!」に応え、サビのシンガロングはすでにフルボリューム。LEDに映し出されるカウントダウンの数字が歌詞の“過去と現在”にリンクする。一気に夏のダンスチューンといった趣きの「What’s a Pop?」で大きなジャンプを生み出し、明るいテンションで「タオル持ってますか?」とフロアに呼びかけた柳田に呼応して、とりどりのタオルが花のように回る「1on1」。そして吉田喜一(Gt)と柳田二人のギターカッティングが冴えまくる「Popcorn 'n' Magic!」まで序盤で早くも音楽的なレンジの広さを懐の広い演奏力で堪能させてくれたのだ。しかも「Popcorn 'n' Magic!」では柳田がシャボン玉マシンを手にソロを弾く吉田をシャボンで演出したり、パフォーマーとしての幅も大いに拡大。ポップチューンでの音選びやフレージングで、グッとワールドワイドレベルのライブバンドに成長したことで、柳田の自由度も上がったのだろう。

柳田周作(Vo)

吉田喜一(Gt)

男性ファンのメンバーを呼ぶ声の大きさに笑いが起こり、タフになったバンドとファンの関係性も窺える中、黒川亮介(Dr)のドラムパッドとピアノの音色だけのミニマムなアンサンブルで始まる「泡沫花火」。スッと入ってくる桐木岳貢(Ba)と吉田のサウンドも大人っぽい。今年に入ってからの新曲「May」でのどこかニューエイジっぽい桐木のベースラインの美しさにも刮目したところでエレクトロニックなSEが流れ、危ういムードに入っていく。かなり久しぶりにセットリストに入った「遺言状」の密室的な音像が、ネガポジ反転したような背景映像も相まって“無色透明の幽霊が死ねないまま唄をうたって”という歌詞表現をリアルに伝えてくる。この曲から自分と他者の違いゆえに他者を求める「僕にあって君にないもの」へのつながりは非常に効果的。柳田の高低のあるボーカルの低い部分は特にゾッとする美しさを湛えていた。

黒川亮介(Dr)

桐木岳貢(Ba)

メンバー全員が近況を話したMCでは、この公演の前に若干時間があったことで各々旅行に出かけるなど、制作やツアー三昧の日々の中で改めてバンドや演奏に向き合えたのだという。この日のライブに対する渇望感の理由はそんなところにもあったのかも知れない。
ちなみに吉田は沖縄、柳田は宮古島とサマーランド、黒川はタイを満喫。真逆に桐木は家に篭っていたらしく、キャラクターも窺える瞬間だった。

高いモチベーションでファイナルに臨んでいることが理解できたあと、ライブハウスツアーとZeppツアーで育ってきた未発表の新曲を相当な自信作であり、かっこいい上に歌詞は切ない神サイらしい曲と柳田が紹介した「シルバーソルト」を披露。演奏やメロディに自信がなければ鳴らし得ない堂々としたミディアムチューンだ。さらに初期の神サイのイメージを作り上げた「夜永唄」が抑揚を効かせたアレンジで届けられ、エロティックなムードは「揺らめいて候」に繋がれて行った。ただ、そんなムードも今やサビでクラップが巻き起こるほどファンはオープンで、歳月を経て逞しさを増してきたバンドとファンの今を実感した。

新旧のレパートリーを同じ板の上に乗せたセクションの後に柳田が行ったMCはその流れもあって、説得力を増した。曰くこの6月でバンドを結成して9年が経過した神サイ。「泥水も啜ってきました。でもその間も聴き続けてくれたみなさんのおかげでこの景色が見れてます。来年は10周年を迎えて、初めての日本武道館のステージ立ちます。発表されてるけど、ちゃんと東京のステージで言いたかった」という柳田の言葉に納得の大きな拍手が起きる。九州産業大学で出会った4人の“バンドワゴン”の物語が振り返られた後に、「何もかも嫌で飛び去りたくなっても、どうか武道館まで待ってください」と懇願した柳田。聴き手のネガティビティを背負うのではなく、バンドとファンの二人三脚で今を生きる困難を突破しようとする彼の素直さが見えた。

現状の最新曲「Baby Baby」が醸す夏らしいムード、そしてライブハウスツアーのアンセムと言えるバンドがライブをやる理由が詰め込まれた歌詞。過去最高にポップなこの曲が生まれた必然性を感じずにいられない。ナイスな繋ぎで人力EDMっぽい「巡る巡る」で、フロアはさらに躍動。柳田の「最後の曲です!」という一声に大きな「えー!?」という不満の声も起きたが、イントロが流れるとファンにとって最高のロックスター、神はサイコロを振らないを祝福するように手が挙がる。「夜間飛行」の日常性が地に足のついた幸福感でフロアを満たして行ったのだ。明と暗、静と動、ネガティヴとポジティヴなどなど、両面を兼ね備え、矛盾を抱えたまま大きくなってきた神サイはすごく人間らしい。これまでで最もその部分が自然に曝け出されたライブの本編は清々しいムードで閉じられた。

神はサイコロを振らない「Baby Baby」- Live Scenes 【Official Music Video】

男性のドスの効いたアンコールも混じる中、言葉もなく始まったアンコールは柳田がInstagramにアップした動画が発端になった「ちょっとだけかゆい」のフルバージョン!爆笑のネタ曲だが、太いファンクネスを搭載した曲に完成していて、何も言わず去っていくという周到さ。再びステージに現れたメンバーは「あれでアンコールなかったらどうしようかと思った」と、大ネタを仕込みつつ若干心配だったのかも。さらにはまた未発表の新曲を披露。そして正真正銘のラストナンバー「illumination」で大きなうねりを生み出し、曲の後半で柳田はフロアに降り、最前の柵に登って歌唱するほどヒートアップ。強い光がフロアを照らす演出が彼らのこれからの道を照らすイメージとも相まって、10周年への確かな手応えを残したのだった。

なお、この公演で2025年2月11日(火・祝)開催の日本武道館ライブのタイトル「Special Live for Double Anniversary Year 2025 "神倭凡庸命 -カムヤマトボンヨウノミコト-" at 日本武道館」も発表。意味の答え合わせは公演当日に、と柳田は告げた。建国記念日の開催もヒントの一つらしいが、想像を巡らせながらその日を待とう。

SET LIST

01.修羅の巷
02.タイムファクター
03.What’s a Pop?
04.1on1
05.Popcorn 'n' Magic!
06.泡沫花火
07.May
08.遺言状
09.僕にあって君にないもの
10.シルバーソルト
11.夜永唄
12.揺らめいて候
13.Baby Baby
14.巡る巡る
15.夜間飛行

ENCORE
00.ちょっとだけかゆい
01.新曲(タイトル未定)
02.illumination

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