BUMP OF CHICKEN「TOUR 2019 aurora ark」東京ドーム ファイナル“「観客一人ひとり」に届けることを諦めない――否、一人ひとりに届けられるはずだと信じていたバンドの思いを強く感じた夜”

ライブレポート | 2019.11.04 20:00

BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark
2019年11月3日(日・祝)東京ドーム

55000人を収容すると言われる東京ドームで、ステージの上にいる4人を遠くに感じる瞬間が一切なかった。もちろんスケールの大きな映像と照明演出は、最後列の人々をも鮮やかに楽曲の世界へといざなっていく。だがそれだけでは説明できない、不思議で夢見心地な、それでいて生々しい感覚が、何度も身体中を走った。BUMP OF CHICKENは、ここまで広大な会場でも「大勢の観客たち」ではなく「観客一人ひとり」に届けることを諦めない――否、一人ひとりに届けられるはずだと信じていた。そしてそれを充分に成し得るライブでもあった。

藤原基央(Vocal & Guitar)

「aurora arc」をSEに、外野スタンド側一帯に広がるLEDモニターにパノラマのオーロラの景色と、舞台裏で気合い入れをするリアルタイムのメンバーの姿が映し出される。4人がステージに現れ藤原基央(Vo/G)がギターを掲げると、さらに大きな観客の歓声が響き渡った。「Aurora」では歌詞と音の世界を色で描いた映像がステージを包み込み、「虹を待つ人」では華やかなレーザーが会場一帯を飛び回る。直井由文(B)は先陣を切って花道を駆け、増川弘明(G)と升秀夫(Dr)は絶景を眺めるような面持ちで客席を見渡す。藤原は「聞こえるか東京!会いたかったぜ!」と喜びをあらわにし、観客も彼らの想いに応えようと高らかな歌声を上げた。

増川弘明(Guitar)

ステージに立つ4人は、武装することも飾ることもなく、ただただ凛々しく毅然としている。これほどまでの環境に身を置いてその姿勢を貫き演奏するのは、相当な精神力と体力が必要なはずだ。あらためてバンドの度量の広さを思い知る。「Butterfly」は、4人の音や想いがこちらに届くというよりは、自分の身体のなかから湧き上がって溢れだすようだった。どこまでも遠くまで染めていくような煌びやかさと憂いを含んだサウンドスケープが生まれたのは、彼らがアリーナやスタジアムといった場所で音を鳴らしてきたからに他ならない。「それぞれで違う想いを抱いているだろうけれど、それでもあなたの元まで届けたい」という願いが、嘘偽りなく鳴り響いていた。

升秀夫(Drum)

そのあと藤原の様子に変化が見られた。「記念撮影」のボーカルは本音を語るような切実な気持ちが溢れ、「話がしたいよ」の冒頭では「もう(セットリストが)半分終わっちゃうよ。寂しい……」と零し、より感情的な歌声を聴かせた。そんな彼の想いが明示されたのは、バッターボックス付近に設置されたサブステージへ移動して演奏された「ダイヤモンド」。歌い出してほどなくしたタイミングだった。

突如演奏を止めた藤原は「歌ってたら言いたいことが出てきて」と話し始めた。約20年前にこのサブステージよりも小さい部屋のアパートで生まれた「ダイヤモンド」がもうすぐ二十歳を迎えると語ると、「当時の自分は、今ここにいる君たちに向けて歌っていたんだなとふと思った」と言い、「二十歳の俺から二十歳の曲を、君に捧げます」と再び同曲を歌い始めた。身体を震わせながら《何回迷ったっていいぜ》と少し歌詞を変えて歌う彼の姿が、強く目に焼き付いている。東京ドームよりも大きな会場に立つ経験も持ち、ドームライブの経験も多数あるというのに、「かなり感極まってる」とピュアな表情を浮かべる藤原。それに対して笑顔で「いいじゃんいいじゃん」と言う直井に、それをあたたかく見守る増川と升。一つひとつのライブが行えることに感動するなどの強い感受性と、人の心を慮る想像力を持っているからこそ、彼らはこれだけ多くの人の心を離さないのである。

直井由文(Bass)

大勢のなかのひとりではなく、俺はお前に会いに来た――どれだけバンドの規模が大きくなろうともその信念が変わることはない。そしてそれが彼らがライブを行う最大の理由なのだろう。「アリア」では衝動的で純度の高い演奏を響かせ、晴れやかなムード漂う「ray」は藤原のギターでしっとりと余韻を残して締めくくる。「supernova」での支え合う4人の音色には幼馴染同士で様々なものを乗り越えたゆえの強固な結束が通い、藤原が耳の後ろに手を当てた瞬間に観客のシンガロングの声が大きくなったシーンにはバンドと観客の信頼関係が表れていた。藤原が「歌声ありがとう。ちゃんと聞こえたよ」と優しく語り掛けると、『aurora arc』のラストトラック「流れ星の正体」で本編を締めくくる。曲の想いをもれなく伝える演奏と歌声に、バンドの現在形の美学が瞬いていた。

アンコールでは「同じドアをくぐれたら」と「メーデー」を演奏。ステージに戻ってきた直井がしみじみと「いい曲ばっかだな~」と独り言のように零していたが、メンバー全員が楽曲へのリスペクトを持ち続けていることも、彼らの音楽や演奏が深みを持つと同時に輝かしくもある理由なのだろう。そしてその楽曲はすべてバンドやソングライターである藤原の意志が聴き手に向けられている。だからこそ、どんな環境でも我々リスナーは彼らの音をそばで感じることができるのだ。

最後に藤原がステージに残ると、彼は音楽を始めて20年以上の歳月が流れながらも、立てるステージがあること、その音楽を聴いてくれるリスナーがいるという事実が、演奏するごとに波のように押し寄せてきたと喜びを語る。なかでも「どれだけお前以外に大勢いようと、どれだけお前との距離が離れていようと、今日お前を見つけに来た。世の中に何兆曲と溢れる音楽のなかから俺たちの音楽を見つけてくれたお前に会いに来た」(※大意)という言葉は、全20曲を通して4人が伝えたかったことの象徴のように思う。

ライブハウスとドームという極端なキャパシティが混在した全国ツアー。それぞれで成せることが違うからこそ、バンドがどうしても曲げたくないポリシーや美学をより克明にしたのかもしれない。彼らの生き様を目の当たりにしたツアーファイナル初日。彼らの描くオーロラは決して消えることはないだろうと強く思う一夜だった。

SET LIST

01.aurora arc
02.Aurora
03.虹を待つ人
04.天体観測
05.月虹
06.プラネタリウム
07.Butterfly
08.記念撮影
09.話がしたいよ
10.ダイヤモンド
11.リボン
12.望遠のマーチ
13.アリア
14.Spica
15.ray
16.新世界
17.supernova
18.流れ星の正体

ENCORE
19.同じドアをくぐれたら
20.メーデー

HUNGRY DAYS × BUMP OF CHICKEN 「記念撮影」フルバージョン公開!

RELEASE

「aurora arc」

New Album

「aurora arc」

2019年7月10日(水)SALE
※初回限定盤A(CD+DVD)、初回限定盤B(CD+BD)、通常盤(CD)の3TYPE

※画像は上から初回限定盤、通常盤

  • 沖 さやこ

    取材・文

    沖 さやこ

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  • 撮影

    古溪一道

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