Travel TV presents ASKA CONCERT TOUR 2024≫2025 -Who is ASKA !?-
2024年9月21日(土)東京 J:COMホール八王子
『WHO is ASKA !?』ツアーの初日、9月21日のJ:COMホール八王子公演を観た。夢みたいな瞬間の連続だった。1曲始まるごとに、「キャー!」「ウォー!」という悲鳴のような歓声や雄叫びやどよめき、大きな拍手が起こっていた。「この曲をやるのか!」「えっ、この曲も!」という喜びと驚きと感動が入り交じった空気がオープニングからエンディングまで漂い続けていたのだ。すべての曲がサプライズ。すべての瞬間がクライマックス。そう言いたくなるようなスペシャルなセットリストだ。しかも、ASKAとバンドとが渾身の歌と演奏によって、それらの楽曲に新たな息吹をもたらしていた。そしてまた、観客の感動や興奮がフィードバックして、ステージ上のメンバーの演奏をさらに熱いものにしていると感じた。
この9月21日は、ASKAのソロとしての37回目のデビュー記念日でもあった。本人いわく、「狙ったわけではない」とのこと。そんな偶然も必然だったのかもしれない。新たな旅の始まりの高揚感と期待感とを強く感じた夜になったからだ。初日ということで、ASKAにとっても、バンドのメンバーにとっても、手探りの部分もあったはずだ。だが、初日ならではの緊張感を集中力へと変換していくステージとなった。ゴツゴツとした感触も初日ならではの醍醐味だ。
「初日なので、空回りしないようにしていこうと思っています。一緒にあがっていきましょう」とASKAの挨拶。その言葉どおり、ASKAとバンドと観客とが一体となって、さらなる高みを目指していくようなステージとなった。ASKAは近年のコンサートについて、「今のありったけ」という言葉をよく使っている。今回のツアーは「今のありったけ」であり、「45年間のありったけ」でもあるだろう。ASKAはこれまでの45年のキャリアの中で、CHAGE and ASKAで250曲以上、ASKAソロで120曲以上の楽曲を世に出している。その中から厳選された“精鋭たち”が並んでいた。
『WHO is ASKA !?』ツアーのセットリストの大きな特徴は1990年代のCHAGE and ASKAのコンサートで観客を魅了した楽曲が多く選ばれていることだろう。ASKAの音楽を長きに渡って愛し続けてきた観客の中には、「青春が蘇った」と感じた人もいたのではないだろうか。ただし、ステージ上に出現した光景はセピア色ではなく、カラフルでビビッドでリアルだった。懐かしさとみずみずしさとが共存していたのは、過去の再現ではなく、過去から現在までの45年間の中で生まれた楽曲のパワーを凝縮し、再構築し、新たな創造を行っているからだろう。今回、ライブ初披露となる近年の楽曲も演奏された。さまざまなニーズにしっかり応えてくれる“心憎いコンサート”でもあるのだ。こうした構成からは、ASKAがデビューから現在まで、いかにコンスタントに名曲を作り続けてきたかが実感できるだろう。
セットリストの充実ぶりが際立っていたのは、個々の楽曲の魅力を鮮やかに引き出す歌と演奏があったからだ。やはりASKAの歌声の持っているパワーはとてつもない。MCではこんな発言もあった。「去年のツアーでとても声の調子が良くて、これは休んじゃいけないな、すぐやろうということで、今回のツアーを組みました」とのこと。つまり、「鉄は熱いうちに打て」という諺を実践するようなツアーでもあるのだ。初日からASKAの喉の調子も全開だった。ホールの天井を越えて空まで届くような伸びやかな歌声が爽快感や開放感をもたらしていた。せつない歌声が深く染みてきた。まるで素の独り言のような歌もあった。弱さをすべてさらけだすような、つぶやき声にも似た歌声に激しく揺さぶられた。ASKAの歌声はまるで万華鏡のように、1曲ごとにリスナーの心模様を鮮やかに変化させていく力を備えている。歌い手としてのASKAの表現力の多彩さ、豊かさ、深さを堪能できるステージでもあるのだ。
バンドの演奏も見事だった。今回のASKAバンドは、澤近泰輔(Piano)、江口信夫(Drums)、荻原基文(Bass)、鈴川真樹(Guitar)、クラッシャー木村(Violin)というASKAが深い信頼を寄せるメンバーに加えて、設楽博臣(Guitar)、David Negrete(Sax)、高橋あず美(Backing vocal)、結城安浩(Backing vocal)という4人が新たに参加している。David Negreteは、今年6月に行われたデイヴィッド・フォスターの『HITMAN David Foster & Friends』公演のバンドのメンバーでもある。つまりASKAが多大な影響を受けた音楽家、デイヴィッド・フォスターとの縁が、今回のツアーにも繋がっているのだ。
設楽博臣は、ASKAが2013年にスタジオでデモテープを作っていた時にレコーディングに参加していたギタリストである。「心に残る演奏をするギタリストだったので、いつか一緒にやりたいと思っていた」とのこと。ASKAの信頼するメンバー、一緒にやりたいと思っていたメンバーが参加することによって、それぞれの楽曲から新たな魅力が見えてくる瞬間もあった。サックスやコーラス、ギターソロが映える曲もあり、それぞれの見せ場もある。これらの新たなメンバーが新風を巻き起こしていることも、今回のツアーの特徴のひとつだろう。さらに、光のシャワーと言いたくなるような圧倒的な量の照明、セットでの創意工夫など、演出面でも特筆すべきことがたくさんある。ASKAとバンド、照明やセットなどの演出、これらが融合することで、さまざまな化学変化が起こっているのだ。
ツアーはまだ始まったばかりだから、この化学変化はさらに進行していくだろう。セットリストの入れ替えの可能性もある。コンサートとは形のない“一期一会の作品”のようなものでもある。会場が違い、観客が違うと、ひとつとして同じ作品にはならない。客席の熱気がステージ上のメンバーに影響を与えることで生まれる相乗効果も、おそらくそれぞれの土地柄によって、異なるだろう。全国各地の会場に訪れる観客もまた、コンサートを構成する重要な要素のひとつになっていくはずだ。
今回のツアーではファミリー席(小学生の子どもとその保護者を対象とした席)が用意されている。盛り上がり必至の“あの曲”では、2階席の前列にあるファミリー席の子どもたちが、小さなこぶしを振り上げるシーンもあった。その光景は微笑ましくもあり、新鮮でもあった。数十年後の未来に、この子どもたちが大人になって、「実はASKAという人のコンサートを観たことがあるんだよ」と自慢する日が来るかもしれない。ずっと応援してきた人にとっては、忘れられない思い出が追加されるツアーとなるだろう。久々に観る人にとっては、1990年代の記憶を上書きして更新するツアー、そして初めて観る人にとっては、新規保存するツアーとなるだろう。記憶に残るステージは、日々を生きる活力をもたらしてくれるに違いない。熱気あふれる瞬間を思い起こすことによって、胸の中に炎が灯るはずだからだ。
初日公演を観ている最中に、すでに『WHO is ASKA !?』というタイトルの「ASKAって誰?」という問いへの答えがいくつか浮かんできた。「素晴らしい歌をたくさん作っている人」「歌がとてつもなく上手い人」「歌によって、みんなをひとつにできる人」「人を驚かせることと喜ばせることが大好きな人」「冗談をよくいう人」などなど。そしてもうひとつ、付け加えたいのは、「挑み続ける人」という答えだ。そもそも1990年代のコンサートの持っていたエネルギーを今に蘇らせること自体が、壮大な挑戦であると思うのだ。これまでのキャリアを凝縮したようなセットリストと新たなメンバーが加わったバンドとともに、ASKAは新たな音楽の旅を始めたところだ。『WHO is ASKA !?』ツアーは国内では2025年2月まで続き、さらにその先にはアジアツアー、アメリカ公演も控えている。未知の領域への挑戦は続いている。見逃せないツアーはまだまだ続く。