有安杏果、長年の夢であったジャズ・ライブをビルボードライブ横浜・東京・大阪で開催。バンドメンバー&客席とのセッションも楽しんだ東京公演をレポート

ライブレポート | 2024.02.20 19:00

「有安杏果 Jazz Note 2024」ツアー
2024年2月14日(水)ビルボードライブ東京
【出演】Vocal.有安杏果 / Piano.大林武司 / Base.小川晋平 / Drums.アロンベンジャミニ

有安杏果のジャズライブ・ツアー「有安杏果 Jazz Note 2024」を観ながら、純粋にライブパフォーマンスのクオリティという部分で感動しながらも、また別の部分でも心を動かされてしまった。それは有安の努力や成長に対する感動だった。

歌とダンスのスキルにはかねてから定評があった彼女が、自身の音楽に没頭していく中で、作詞作曲をはじめ、ピアノやギターを演奏するようになり、コロナ禍を経た2021年からはたった一人でステージに立ち、弾き語りライブを行うまでになった。また、昨年末には楽器練習と理論の勉強と時期を同じくして、「Jazzプロジェクト」に向けた英語学習をはじめていたことも明かし、今年の1月にはTOEICの点数が初受験の500点台から795点まで上がったことを報告。新たなライブツアーが始まるたびに驚かされてばかりなのだが、この向上心の高さが彼女の音楽性を磨き上げてきたことは間違いないだろう。

そして、2月14日のバレンタインデーにビルボード東京で行われたライブは、ジャズのスタンダードナンバーを全編、英語で歌ったのだが、さらに驚かされたのは、その選曲だ。「Moon River」や「Fly Me To The Moon」、「星に願いを」、「いつか王子様が」などのジャズヴォーカルの定番曲から始めるのではないかと考えていたのだが、その予想は全くの的外れだった。特に、ビル・エヴァンスやジョン・コルトレーンの名演で知られる「I Wish I Knew」やガーシュウィン作の「Embraceable You」「I Got Rhythm」が並ぶ1stセットは、ジャズシンガーに愛されているスタンダードであることは確かなのだが、バップ期のジャズメンが好みそうなセットリストとなっていた。

元カノの家の近くにたまたま来たというテイで電話をかける「Social Call」は、両セットで演奏されたが、ピアノと歌から始め、ベースとドラムが加わった途端に、有安の伸びやかな歌声とともにダイナミズムが発揮されていくという同じ構成となっていた。しかし、1stステージではピアノがソロを取り、1stよりも重いタッチで弾き始めた2ndでは、ベースが歌うようなソロを繰り出し、観客を唸らせた。その後、<私を知ってほしい>とチャーミングに歌いかける有安のヴォーカルからベースソロ、さらにピアノとドラムのソロバトルへと展開した「I Wish I Knew」から、有安のスキャットとドラムのソロバトルとなった「Bye Bye BlackBird」へ。スウィングのリズムでフロアをしっかりと温めたあと、バラードナンバー「Embraceable You」では、ピアノの音色と会話するように甘く切なく歌いかけると、ベースは弓弾き、ドラムはブラシで優しく寄り添い、「How High The Moon」では激しいドラムソロから有安のドゥビドゥバスキャットを経て、テーマが始まるというアレンジで、フロアはハードバップのライブのような熱気と興奮に包まれた。続いて、ベースと歌から始めた「I Got Rhythm」では有安のパワフルな歌い回しに客席から自然と手拍子が湧き上がり、「It Might As Well Be Spring(春の如く)」では、ピアノとドラムのプレイを通した会話も楽しめた。ここまで7曲。有安はなんと、ほぼ全曲でスキャットによるアドリブをとっていた。これは、いわゆるジャズシンガーでも一石二鳥でできる代物ではない。大林武司(Piano)、小川晋平(Bass)、アロンベンジャミニ(Drums)というピアノトリオ編成によるバンドの演奏も熱く激しく、インプロは刺激的だった。つまり、有安というボーカルの伴奏ではなく、それぞれのアドリブソロも存分に堪能できる、ジャズカルテットとなっていたのだ。ポピュラーシンガーが歌ものをジャズアレンジしたライブではなく、まごうかたなきジャズライブとなっていたと断言できるステージだった。

2ndステージでは、ヘリン・メリルの歌唱で知られる「You’d Be So Nice To Come Home To(帰ってくれたら嬉しいわ)」やミュージカルでお馴染みの「Over The Rainbow(虹の彼方に)」、アントニオ・カルロス・ジョビンによるボサノヴァの名曲「Corcovado」(ただ、これも同じくジョビンの「イパネマの娘」じゃなく、「コルコバード」を選ぶところが、有安らしい)など、ジャズに詳しくない人でも耳にしたことのあるスタンダードナンバーを歌唱。時には揺蕩うように、時には情感たっぷりに歌いあげ、自由で緊張感みなぎる<Jazz Note>の世界を最良の形で表現。特に、ピアノとヴォーカルのみの編成だった「Over The Rainbow」は音域の広い曲なのだが、「世界中に届くように歌います」と語った有安が、囁くような歌声から一気に空高くまで舞い上がるダイナミックなヴォーカリゼージョンをみせると観客からはこの日、最大の拍手が送られた。

食事を楽しみながらライブを観れるビルボードライブのステージに立った有安は「なんだか私のライブじゃないみたい」と笑いながら、「ずっと前からジャズのライブをやるのが夢だったので、夢が叶って嬉しいです」と語ると、ピアノの大林から「初めてのジャズライブだけど堂々と歌っててカッコいい」と賞賛された。そして、ライブの後半では、大林と共作したというオリジナルの新曲を2曲披露した。「楽しかったことや悲しかったこと、1日あった出来事をお月さまと話す曲です」と紹介した「Tsuki Talk」はピアノによる和メロのリフから始まる英語歌詞のジャズバラードで、月に向かって独り言を呟いているうちに、いつの間にか宇宙に連れて行かれたかのような広がりを感じた。続く、「Regeneration」は「みんなで歌いたいと思って作った」と言うジャズサンバ調の楽曲で、歌詞は<ラララ>のみ。演奏前にコーラスの練習を行い、本編ではラララの大合唱とコール&レスポンスだけでなく、観客のコーラスに有安が即興で美しいメロディを載せるというシーンもあり、ジャズライブに歌で参加できたという喜びをもたらせてくれた。

アンコールでは、ソロアーティストとして初めてのライブ「有安杏果 サクライブ 2019 ~Another story~」で初披露した思い出深い楽曲「Sakura Tone」の英語バージョンを歌唱。「みんなに素敵な春が訪れますように」という願いを込めて歌い、最後のブロックだけ日本語に戻し、<みんなに良いこと起こりますように>というメッセージを届け、スタンディングオベーションが沸き起こる中で新しい挑戦となったジャズライブは大きな喝采とともに幕を閉じた。歌、ダンス、作詞作曲、ピアノ、ギター。さらに、英語とジャズという新たなスキルを身につけた彼女。次はどんなライブを見せてくれるのか。終演後に会った彼女は充実した表情を見せながらも、「ポップスも歌っていきますからね」と朗らかに宣言してくれたが、これまで歌ってきたオリジナル曲の深みが増していくことだけは確信している。

SET LIST

1stステージ
01. Social Call
02. I Wish I Knew
03. Bye Bye Blackbird
04 .Embraceable You
05. How High The Moon
06. I Got Rhythm
07. It Might As Well Be Spring
08. Tsuki Talk(original)
09. Regeneration(original)

ENCORE
01. Sakura Tone(original)

2nd ステージ
01. Bye Bye Blackbird
02 .Social Call
03. You’d Be So Nice To Come Home To
04. Speak Low
05. How High The Moon
06. Over The Rainbow
07. Corcovado
08. Tsuki Talk(original)
09. Regeneration(original)

ENCORE
01. Sakura Tone(original)

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