──CHAGE and ASKAの「two of us」と「ベンチ」のアコースティック・バージョンも収録されています。どちらも最初の1行目から映像が浮かんできました。ノスタルジックな空気が漂っていますが、今のChageさんの歌声だからこその深みと奥行きのある歌の世界が魅力的です。
2曲ともともじ君にアレンジしてもらったんですが、とにかく音数はいらないという考えで、シンプルなアレンジになりました。その結果、自然に歌詞が立って、景色が見えてくる作品になりました。2曲ともCHAGE and ASKAでリリースした時から自分でも好きな楽曲だったんですが、2回り3回りぐらいして、今回、セルフカバーすることになり、このためにこの2曲は待っていたんだなと思いました。というのは、30代40代50代では歌えなかった歌を、60代の今、歌えた手応えがあったからです。「ベンチ」は30年前のリリースですけど、30代の時に歌っていた「ベンチ」に出てくる“じいちゃん”と、『細道』や『Instinto』で歌っている“じいちゃん”はほとんど別人ですよね。
──どういうところが違うんですか?
作った当初は、親父とおふくろに捧げる歌で、昭和の激動の時代を過ごしてきた老夫婦の世界観を描いていました。それはそれで良かったのですが、今は自分がその老夫婦の立場になって歌っている瞬間があって。自分がそっちに向かっているのが面白いですね。<じいちゃん>って呼びかけるように歌っているんですが、<なんだい?>って答えそうになりますから(笑)。
──口笛もいい感じです。
僕は口笛を吹けないので、スタジオにいるメンバーに吹いてもらったら、だいすけの口笛が良かったので採用しました。あまり上手すぎても駄目なのですが、味があったので、「だいちゃん、OK!」って(笑)。あと、この曲では<波瀾万丈>という歌詞が出てくるんですが、ともじ君が「ここ、遊んでもいいですか」と聞いてくるので、「もちろん」と答えたら、ここにバンジョーを入れてきた(笑)。レコーディングでこういう遊びを入れてくる空気感が大好きですね。
──『Instinto』は、みんなで楽しみながら作っている空気も収録された作品なんですね。
そうなんですよ。いい大人がキャッキャキャッキャ喜びながら作っている。それでいて、愛のある音になっているところがうれしいですね。
──「two of us」は1999年リリースの楽曲ですが、2025年の今、歌うことで、ノスタルジックな雰囲気もせつなさもさらに濃くなっていると感じました。
この曲も40代50代で歌い直したら、この世界観は出なかったと思います。70に近い男が、若い2人が道玄坂を登ってマンションに入っていく姿をとても愛おしく感じながら歌っていました。こういう歌を今歌えるのがうれしいですね。やっぱり今だったんだな、本能的にずっとこの時を待っていたんだなと思いました。25年前にレコーディングした時に、詞で悩んでいたんですね。その時に、ともじ君が「いつも通っている道で、目印にしていた古いマンションがなくなっていたんですよ」と話した言葉がヒントになって、「それ、いただき!」って歌詞を書いた記憶があります。だから、実はともじが作詞で加担している曲でもあります。
──今のChageさんの歌声によって、さらに歌の世界が深みを増していますよね。MULTI MAXで1991年にリリースした「LOVE」のアコースティック・バージョンも、今の歌だなと感じました。
この曲もライブで歌う中で育ってきた歌ですね。青木せい子が詞を書いているんですが、この歌詞が素晴らしい。2番の頭に<僕の生き方を 君が見つめてる><誰よりきびしく僕を見つめてる>というフレーズがあるんですが、“きびしく”と表現しているところが究極の愛だなと思いました。この曲のこの部分をライブで歌う時って、この<君>は恋人ではなくて、お客さんの顔が浮ぶんですよ。自分ひとりで成長してきたわけではなくて、ファンの皆さんのおかげだなと実感していますし、実際にファンの子たちって、応援してくれるだけじゃなくて、時にはきびしいことも言うんですよ。そのことに対する感謝も込めて、今の気持ちで歌った作品になりました。
──セルフカバーした4曲も含めて、今のChageさんの歌が詰まったヒューマンな作品です。そして、もう1枚のディスクには、この3年間にわたる『Billboard Live』でのパフォーマンスから、各4曲ずつ、合計12曲が厳選された作品です。このライブ音源の収録は、リスナーにとってもうれしいものだと思います。
Chageのライブって3種類あるんですよ。1つ目の『細道』はミニマムな編成で旅人の感覚で全国各地のさまざまな街に訪れて行うライブ、2つ目のバリカタはバンド編成でロックをガンガンやるライブ、そして3つ目の『Billboard Live』は、お客さんも僕もオシャレして大人の雰囲気のよそゆきのChageを楽しんでもらうライブ。それぞれまったく違うものですし、1年の間で3種類のライブを味わわせてもらっている幸せを噛みしめています。自分にとってのベースとなるものは『細道』で、旅をしながら吸収したものをバリカタや『Billboard Live』に反映しているので、いい相互作用がありますよね。『Billboard Live』って、東京と大阪でしかやっていないので、観に来られない方もたくさんいらっしゃるんですよ。その雰囲気を知ってもらいたいということもあり、今回、こういう形で収録しました。
──『Billboard Live』の収録曲、ジャジーなテイストがありつつも、自在な歌と演奏とアレンジがとても楽しいです。レアな曲が多く入っていて、選曲もナイスです。
ファンの子たちは、「発掘曲」と呼んでいるようです。アルバムに収録していない曲も入ってきてますから。Billboardに来ると、レアな曲を楽しめるとお客さんも認識してくれていますね。
──CHAGE and ASKAのシングル曲のカップリングとして発表された「真夜中の二人」と「告白」も収録されています。
あと、「ショート・ショート」も発掘曲ですよね。CHAGE and ASKAの1986年のアルバム『TURNING POINT』収録曲ですが、なぜかライブではやっていませんでした。そうした曲にスポットライトを当てて、Billboard風にアレンジして歌うと、今の自分にもしっくりくるんですよ。「ショート・ショート」は、CHAGE and ASKAのライブでやらなくて良かったのかもしれないな、今やるために待っていてくれたんだなと思いました。
──「螢」などでの変幻自在の歌とアレンジも見事です。
「螢」は、「ベースと俺とで絡みたい」と言ったら、メンバーもみんな、大喜びしてくれました。Billboard風のアレンジにすることで、自分の中の引き出しがまた増えたことを感じています。
『Instinto』プレイリスト
──11月1日から11月30日まで、バンド編成でのライブ、『ChageLiveTour2025 Mr.November』が開催されます。これはぴったり11月の頭から終わりまで行われるんですね。
そうなんですよ。最初はアルバムタイトルの『Instinto』に紐付けようと考えていたのですが、スケジュールを見たら、11月の週末はすべてライブをやることになっていたので、僕の曲で「Mr. LIVERPOOL」もありますし、『Mr.November』が行こう、“11月男”ということでやろうと決めました。
──じゃあ、「Mr. LIVERPOOL」も入ってきそうですね。
もちろん! 今回は完全にバリカタです。『細道』のChageでもなく、『Billboard』のChageでもなく、UK好きのおっさんが叫びまくります(笑)。アレンジもすでに決まっていて、ここまでやるかというセットリストになっています。もう、自分の年齢をまったく考えていません(笑)。
──昨年の『Chage Live Tour 2024 ~ちゃげっていうひと~』もかなりロックな展開でしたが。
今回はさらに超えていますね。ゴリゴリでやり切ってみようと考えています。1/6(ワンスラッシュシックス)のメンバーも一緒になってレッドゾーンに入っていく楽しさがたまらないですね。もちろん、「WINDY ROAD」はやります。最後に紙飛行機が舞っている光景を観ると、自分でもバリカタをやりきったなという気持ちになれるし、お客さんのしてくれる最高の演出の素晴らしさを噛みしめられますからね。あと、前回の『ちゃげっていうひと』の時にリクエストを募っていて、その時の1位の「Reason」以外にも上位曲を何曲かも散りばめたセットリストにしていたんですね。でも、ランクインしたけれど、セットリストに入りきらなかった曲が何曲か残りました。今回、その時のリクエストの上位に入っていて、やれなかった曲を成仏させる予定です(笑)。
──ライブに来る人に向けて、メッセージはありますか?
熱くて激しいコンサートになります。動きやすい格好で来てください。きっとかなり汗をかくだろうから、着替えも必要かもしれません。思う存分、一緒に楽しみましょう。
──ともにやりきるライブということですね。
ともに燃え尽きたいと思っています。でも、それとは逆に、『Instinto』が完成した時に感じたのは、まだまだ伸びしろがあるなということでした。自分の音楽人生を考えた時に、『細道』で旅をしていても、レコーディングをしていても、常に“to be continued”の感覚があるんですよ。“次があるよ”“続いていくよ”と感じていますし、道がずっと続いている光景が見えています。その道は曲がっているのか、登っていくのか、下っていくのか、わかりませんが、続いていることだけは確かなので、その音楽の道を朗々と歩いていけたらと思っています。
PRESENT
直筆サイン色紙を1名様に
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