松本清張に「原作を超えてる」と言わせた歴史的名作。映画『砂の器』シネマ・コンサート

コラム | 2017.06.01 18:00

この3月に、僕が店長をつとめるイベントハウス、東京カルチャーカルチャーでクラシックのコンサートを初めて開催し大盛況だった。

恥ずかしながら自分自身、実はクラシックのコンサートは初めての体験だったのだが、とにかく一番感動した事は、電気もマイクも一切通さない、文字通り「クラシック楽器」による生演奏というのが、こんなにも大迫力で、胸を打つ物凄いものなのだという事だった。全楽器に電気を通し、更に音をひずませ、叫び踊り歌うような、やかましいエレクトリックのロックばかり聴いてきて、これまたホント恥ずかしいが、そもそもクラシックコンサートはマイクを通さないという事すら知らなかったので、それはあまりにも衝撃的で感動的な演奏だった。

その時に気付いた事がある。それは、「ああ、そうか。だから映画音楽のシネマ・クラシックコンサートは人気があるんだ。」という事だった。

映画音楽には昔から今でもクラシックが使われる事が多い。ドラムのリズムがあったり、激しかったりの主張の強い音楽よりも、クラシカルなゆるやな音楽の方が、その映画を観ている僕達の想像力を刺激し、物語に集中させてくれるからだ。そしていい映画のいい音楽というものは、その映像の感動と共に自分の記憶の中に音の記憶として残り続け、その後にふとどこかでその音楽を耳にした時に、感動したその映像が頭の中によみがえったりして、再び感動できたりもするのだ。

だから、クラシック生演奏の初体験で感動して以来、僕も大好きな映画「ゴッドファーザー」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などの劇中曲を生演奏するシネマ・コンサートがいま大人気な理由も即理解できたのだった。今も脳裏に焼き付いている、あのシーンやあのシーンやあのシーンで流れたあの曲を生演奏で聴けるなんて、想像しただけで胸が高鳴ってしまった。

先日、映画「砂の器」のシネマ・コンサートが発表された時は驚いた。
日本映画史上、屈指の傑作で、僕も何度も観た大好きな作品ではあるが、何しろもう43年も前の映画である。でも驚きと同時に僕はまたも「ああ、そうか。」と、すぐに気付いた。
観た人ならすぐわかるが、そう、これはあの今も語り継がれる伝説の「後半40分のクライマックスシーン」の演奏を再現する為に行なわれるのだろうという事だった。

映画「砂の器」は松本清張が原作の1974年の社会派のサスペンス映画である。映画評論家や映画ファンが選ぶ全ての日本映画ベストランキングなどでは、いまだに必ず20位内に入る歴史的名作だ。
当時、松本清張は映画化されてきた自らが原作の数々の映画に対し「ことごとく失望してる」と辛口な事しか言わなかったが、この映画「砂の器」に対しては、「原作を超えてる」と言ったのはあまりにも有名なエピソードである。

ストーリーは超簡単に言えば、二人の刑事がある殺人事件の犯人を探し続け、最後に探し当てるという物語ではあるが、それがなぜ今もこんなにも伝説になっているのかというと、それはやはり前記した「後半40分のクライマックスシーン」のためであろう。
刑事2人があらゆる場所で犯人を捜し続けるシーンが続く中、後半40分、実際の東京交響楽団のオーケストラによる演奏が始まるシーンと共に、子供時代の犯人とその親が四季折々の全国をお遍路姿で旅する回想シーンが現れる。誰もが想像だにしなかったであろう、その驚きの展開と、そのあまりに美しい映像に、観た誰もが息を飲み、その物語と映像美の世界に引きずり込まれた。

その美しい回想シーンと、オーケストラの演奏シーンと、警察での緊迫した捜査会議シーンが織り交ぜられ、そして誰もが涙が止まらなくなる宿命を背負った親子の悲運まで。その後半40分のクライマックスシーンが、日本映画史上に残る名シーンとして今も語り継がれているのだ。

その映画『砂の器』のシネマ・コンサートは、8月12日・13日に渋谷・Bunkamuraオーチャードホールで開催される。
巨大スクリーンにより映画全編がフル上映される中、音楽の部分の全てをなんと映画と同じ東京交響楽団の現在の楽団員フルオーケストラによる生演奏が行なわれるのだそうだ。書いてるだけで鳥肌が立ってきた。チケット先行予約も、やはり凄い勢いで埋まっているらしい。

43年も前のこの映画「砂の器」をリアルタイムで観た人や、その後に観た色んな時代の色んな世代の人、その誰しもの中に、この映画とこの音楽に感動したそれぞれの大切な思い出があるだろう。そんなこの作品にそれぞれの思いを持った人達が、43年の時を経て、ひとつの場所に集まり、この映画と音楽と自分達の思い出をみんなで一緒に共有するという事。それこそが、この映画のテーマでもあり、伝説のクライマックスに流れる組曲のタイトルでもある「宿命」だったのではないか。そう思えてくる。

©1974・2005 松竹株式会社 / 橋本プロダクション

映画『砂の器』シネマ・コンサート

横山シンスケ

渋谷「東京カルチャーカルチャー」店長・プロデューサー。その前10年間くらい新宿ロフトプラスワンのプロデューサーや店長。司会やライターもやる。「砂の器」の親子の“宿命”の再会シーンは何度観ても自分も嗚咽するほど泣いてしまう。
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