TEXT・PHOTO / 桑田英彦
デビュー前のビートルズの活動拠点であった”キャバーン・クラブ”など、彼らのゆかりの場所が集まったエリア「ビートルズ・クオーター」の中心に建つ、世界唯一となるビートルズをテーマにしたホテルがハード・デイズ・ナイト・ホテル(写真上)だ。1884年に建造された古いビルをモダンに改装した4つ星ホテルで、リバプールが欧州文化首都に指定された2008年にオープンした。ホテルのメインエントランスを中心に、向かって右側にはキャリア後期のビートルズの写真が、左側には初期の時代の写真がホテルの外壁面を飾っている。大理石の円柱が印象的な豪壮な雰囲気の外観は建造当時のままで、内装やインテリアはコンテンポラリーでモダンなデザインが施され、ビートルズ・ファンを魅了するアイテムがホテル全体に散りばめられている。ちなみにホテルのトレードマークには『ハード・デイズ・ナイト』のオープニングに鳴り響くコードのタブ譜が用いられているのだ。
ホテルのメインロビー(写真上)周辺にはビートルズの貴重な写真多く飾られ、天井にはおびただしい数のビートルズの楽曲の譜面がぶら下がっている。ジョンの胸像はじめ、多種多様なビートルズ・オブジェがあらゆるスペースを埋め尽くし、ちょっとしたビートルズ博物館のような雰囲気である。ハード・デイズ・ナイト・ホテルのコンセプト作りには膨大な時間が費やされた。1980年代末にスタートしたホテル建設のプロジェクトは、ビジネス面でのビジョンが二転三転した挙句、ファイナンス的にも様々な問題に見舞われた。多くの紆余曲折を経てやっとホテル建設の最終決定が下されたのは2004年。じつにプロジェクトの立案から15年後のことである。
ホテル内にあるビートルズをテーマにしたレストランやバー、イベントスペースなども、ネーミングも含めじつにユニークなコンセプトが用いられている。ファブ・フォーをもじった”バー・フォー(写真上)”は大人気のバーである。結婚式用の小さなチャペルは”トゥ・オブ・アス”、インドのリシケシでマハリシ・ヨギーと過ごした時の瞑想体験をテーマにしたバーは、もっとも影響を受けたジョージ・ハリスンにちなんで”ハリーズ・バー”、ビジネス・カンファレンス用の広いスペースは”ハード・デイズ・ナイト・ハイヤー”といった具合に、ビートルズの代表曲のタイトルを洒落たセンスで施設名に用いているのだ。このハード・デイズ・ナイトという名称だが、英文表記だと” Hard Day’s night”となり、直訳すると”辛い日の夜”という意味であり、ビジネス・カンファレンスの施設にこの名前をつけているところなど、じつにひねりが効いていて面白い。
ロビー・フロアから6階まで続く螺旋階段の白い壁面(写真上)は、すべてビートルズのメンバーたちの貴重なモノクロ写真で埋め尽くされている。これを眺めるだけでもビートルズ・ファンは充分に楽しめるはずだ。展示されている膨大な数の写真とともに、ニュージャージー州の女性アーティスト、シャノン・マクドナルドによるアートワークもハード・デイズ・ナイト・ホテルの重要なアイコンである。写真に独特なペイントを施す彼女の作品は110室すべての客室に飾られ、その作風に合わせて部屋の調度品や色合いが工夫されている。現在、シャノンはビートルズ・アートの作家として英米で人気が高まり、ホテル内にある”ギャラリー”というギフトショップでは、ハード・デイズ・ナイト・ホテルのロゴ入りTシャツやグッズとともに、彼女の作品やリトグラフなどが販売されている。
ビジネス・カンファレンス用の”ハード・デイズ・ナイト・ハイヤー(写真上)”内には、常時ビートルズの写真が展示され、定期的に展示品が変更されている。さて気になるハード・デイズ・ナイト・ホテルの宿泊料金だが、ビートルズをテーマにして、部屋の設備やホスピタリティなどハイグレードなラインを維持している割には料金が安い。通常のダブル、ツィンの部屋であれば13,000〜18,000円の範囲で宿泊できる。キャバーン・クラブの裏に位置し、ビートルズ博物館などにも徒歩でアクセスできるので、ビートルズ・ファンのリバプール滞在には大推薦のホテルである。
人気の中心、レノン・スイートとマッカートニー・スイート
桑田英彦(Hidehiko Kuwata)
音楽雑誌の編集者を経て渡米。1980 年代をアメリカで過ごす。帰国後は雑誌、エアライン機内誌やカード会員誌などの海外取材を中心にライター・カメラマンとして活動。ミュージシャンや俳優など著名人のインタビューも多数。アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イタリア、ハンガリー、ウクライナなど、海外のワイナリーを数多く取材。著書に『ワインで旅する カリフォルニア』『ワインで旅するイタリア』『英国ロックを歩く』『ミシシッピ・ブルース・トレイル』(スペースシャワー・ブックス)、『ハワイアン・ミュージックの歩き方』(ダイヤモンド社)、『アメリカン・ミュージック・トレイル』(シンコーミュージック)等。