花譜、新たな解釈で自身の可能性を拡張し、これまでにない景色を届けた【神椿横浜戦線DAY-2】をレポート

ライブレポート | 2026.09.25 18:00

KAMITSUBAKI WARS 2026 神椿横浜戦線 at パシフィコ横浜 DAY-2『花譜 5th ONE-MAN LIVE「宿声 / 深愛(巡)」』
2026年9月6日(日) パシフィコ横浜 国立大ホール
【出演】花譜

2026年9月5、6日に開催された「KAMITSUBAKI WARS 2026 神椿横浜戦線 at パシフィコ横浜」。その最終日をバーチャルシンガー花譜のワンマンライブ『花譜 5th ONE-MAN LIVE「宿声 / 深愛(巡)」』が飾った。
この公演は3月1日に横浜・ぴあアリーナMMにて開催された『5th ONE-MAN LIVE「宿声 / 深愛」』のアナザーストーリー/進化版に当たる。大枠は3月公演と同じフォーマットで展開しながらも、選曲を大幅に変えるなど異なる肉付けを施すことにより、再演ではなく新たな解釈で自身の可能性を拡張した。ゆえに3月公演を経たからこそたどり着いた花譜の表現者としての深みと、彼女の歌に対する純粋な愛情が噛み締められる公演となった。

暗闇のなかでSEが流れ、しばらくすると会場周辺を彷徨う花譜の姿を捉えたオープニングムービーが流れる。ピアノの音色に乗る花譜本人の朗読の後にバックバンドの演奏が鳴り響き、下手(しもて)より登場した花譜が「みんないくぞ!」と景気づけをして「過去を喰らう」へとなだれ込んだ。

ここまでのライブの展開や、背面モニターに穴の空いた大きな本が登場するという映像演出などは、3月公演がベースとなっている。その後もライブでの歌唱は久方ぶりとなった「未確認少女進行形」「夜行バスにて」を立て続けに披露し、3月公演と同様に冒頭のセットリストは1stアルバム『観測』収録曲から構成された。だが前回と明確に違う点があった。花譜のハンドマイクパフォーマンスである。彼女がライブでハンドマイクパフォーマンスをするのは、2024年に星街すいせいのライブツアーの大阪公演へゲスト出演したとき以来だ。

KAMITSUBAKI STUDIOに所属するバーチャルアーティストは、バーチャルというフォーマットでありながらも、ディテールも含めて“ステージに実在している”というニュアンスを重要視し、進化する技術とともにその精度を高め続けている。ハンドマイクパフォーマンスという視覚情報は、実態としての度合いを格上げしていた。耳に入る音に差異はないのに、花譜が力強くマイクを握って喉を震わせる光景は、我々にダイレクトに歌を届けようとする心意気をより強く感じさせる。

花譜は久々のハンドマイクパフォーマンスについて「間違ってマイクを落とさないか心配」と笑わせると、3月公演、5月の香港公演を通して観客とともに思いと記憶を積み重ねてきたからこそ「宿声」というライブタイトルに思い入れが深くなってきたこと、この公演では冒頭同様に久しぶりにライブで歌う曲が多いことを明かし、「この後もどんどん行きます」と意気込んだ。

ピアノにシンセの音色が重なり、ロマンチックな空間が生まれると2ndアルバム『魔法』収録のバラード「彷徨い」を披露する。ゆっくりと確かに地を踏みしめるように歩みを進めながら誠実な声で歌詞の輪郭を彩り、「みんなそろそろ踊りたいですよね?一緒にはっちゃけちゃおう!」とジャンプをして歌い始めた「私論理」では客席を見渡しながら軽やかに歌声を届け、観客もコールやワイパーで彼女の思いに応じた。「モンタージュ」では熟練のバンドマンたちによるパワフルな演奏に負けない堂々としたボーカルを響かせる。3月公演と同じコンセプトでありながらもそれとは異なる花譜を見せる様子は、彼女が活動初期から幅広い楽曲に挑戦し続けていたこと、活動を通してその表現力を拡張し続けてきたことを証明していた。

このライブのテーマのひとつが原点回帰であることに触れた花譜は、KAMITSUBAKI STUDIOが設立してバーチャルシンガーの仲間が増えたことも自身の原点のひとつであり、原点回帰は辿ってきた道を引き返すのではなく、まったく別のルートで原点らしき別の地点にたどり着くことであると持論を述べる。そして「未来に比べて過去は絶対的に変えられないものだと思いがちだけど、このライブシリーズを通して未来と一緒に過去も少しずつ変わっているように感じています」と晴れやかな表情で語った。

さらに「次の曲は、ふたりで歌います。この方の存在は、今となってはわたしの原点とも言えるのかもしれません。というか、わたしがこの方の原点そのものなのかも……?」と言うと、3rdアルバム『狂想』収録曲「あるふぁYOU」のイントロに乗せて、花譜の音楽的同位体・可不がステージに登場する。花譜の衣装も白を基調としたデザインから黒を基調としたものに変化し、白=可不、黒=花譜というコントラストも個々の存在を際立たせた。

2020年に制作発表され、2021年にリリースされた可不は、当時の花譜の音声やビジュアルをモチーフとしている。つまり5年前、10代の花譜を受け継いだ存在だ。無垢な声を響かせる彼女の横で、花譜は今だからこそ歌える奥行きある歌声を響かせる。その状況は花譜の変わらない純粋性と成長をより克明に映し出した。可不が去るとエネルギッシュな「海に化ける」「人を気取る」、ロックバラード「邂逅」と、『狂想』の代表曲を立て続けに披露する。心を震わせる歌唱は生々しい気魄に溢れ、集中力が漲る佇まいは頼もしさがほとばしる。そこには目の前にいる観客に音楽を届けるという強い意志が存在していた。

ここまで時系列でリリースしたアルバムごとに歌いつないだ花譜は、3rdアルバムまでのソングライターを務めたカンザキイオリについて話し始めた。彼の音楽から誰にも打ち明けられない悲しみやぶつけられない怒り、弱さ、世界のどうしようもなさや美しさなど様々な気持ちを受け取ってきたことを振り返ると、「カンザキさんの言葉は、時に日記みたいに寄り添ってくれて、時に全速力で駆けてきてくれるようで、すごく信じたくなるパワーに溢れている」と告げる。「カンザキさんの音楽のもとでは全部気持ちをさらけ出したくなるような。自分の内に秘めているエネルギーがどんどん引き出されていくような一体感が生まれる曲が多いとライブで感じます」と続け、あらためてカンザキへの感謝の念を表明した。

そして4thアルバム『寓話』のセクションへ。観客のシンガロングをエネルギーにしてポジティブな空気を作った「ダンダラボッチ」、爽やかな情熱を歌に込めた「この世界は美しい」で会場を沸かし、同アルバムのラスト歌唱曲「Replaceable Goodbye」で前半パートを締めくくる。穏やかで壮麗な光を想起させるサウンドと一体化する彼女の歌声は、会場を心地のいい音の渦へと引き込んだ。

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