花譜、新たな解釈で自身の可能性を拡張し、これまでにない景色を届けた【神椿横浜戦線DAY-2】をレポート

ライブレポート | 2026.09.25 18:00

朗読とクラブミックスの“KAF DISCOTHEQUE”を挟むと、新衣装の梟(巡)にチェンジする。そして“君”に向けた“僕”の愛の詩の朗読から、5thアルバム『深愛』のセクションに入った。3月公演で同アルバムは未リリースだったが、今公演ではリリースから約4ヶ月の時が流れ、アルバムと同時発表された小説『カミュの歌鳥 花譜小説集』に目を通した観客も多い。つまり『深愛』の世界を深く把握した状態で彼女のステージを味わえるということだ。

 「君は水、私は魚」でピアノに乗せて穢れのない歌を響かせ、インタールードを挟んで「コネクト」「愛想」とライブ初披露の楽曲を届ける。ここまで時系列で彼女の歌を聴くと、言葉に焦点を当ててエネルギーを注ぎ込んでいた初期からじょじょに、歌詞にしたためられた精神性に加えて、音色やメロディも味方にして歌うようになったことを実感する。夢の中のようなファンタジックな感触を描く瑞々しさや、ポップかつアンニュイなサウンドに乗せた飾らない美しさなど、音を纏うように表現する姿は非常に可憐だ。

3月公演でも『深愛』のセクションでは小説の物語と連動した背景演出があったことに触れ、「『カミュの歌鳥』はAI、人間、記憶がキーワードの物語だと思います」「小説を読んでいると前回とはまた違う見え方や、聴こえ方があるかもしれません」と演出にも注目してほしい旨を呼び掛けて、「学園戦線」のイントロに乗せて観客にシンガロングを求める。マイクを手放して溌溂としたダンスとともに歌唱すると、観客もそれを盛り上げんとばかりに高らかな歌声を彼女に捧げた。再びマイクを手にすると、薔薇や“絆”の文字をバックに「そばにいていいよ」を歌う。物語の世界と彼女の真心が込められた歌唱は、非常にやわらかく壮大な包容力に溢れていた。

バンドメンバー紹介を挟むとライブはクライマックスへと駆け上がる。センチメンタルでポップな「エラーソング」でのびやかな歌声を響かせ、背中に翼が生える演出が施された「オーギュメント」では様々な困難も抱えながらも希望を見出していくような気概が湧き上がり、バンドの演奏もますます熱を帯びていった。本編ラストは切実な愛情が綴られたロックバラード「周波数0の合言葉」。人生の走馬灯を表現するように、多彩な感情を歌に詰め込む。彼女の持ちうる表現力をすべて放出し、『深愛』の物語も彼女の人生もすべてをひとつにするようなパフォーマンスは、彼女からいまこの瞬間に湧き上がる愛そのものだった。

初ライブ時のクラウドファンディングで仕立てた衣装・星鴉を身に纏い、3月公演でアンコールのラストに披露した1stシングル曲「魔女」でアンコールをスタートさせる。そしてたくさんの人と一緒に作ってきた花譜という場所はとても大切で、人生の中で何にも変えられない宝物であること、これからもここで愛してやまない楽曲を歌い、明日を迎え続けたいと強く思っていることを表明した。さらに「わたしはこの先もあなたと一緒に生きていたいです。これはわたしの祈りでもあるし、もしかしたらあなたにとって呪いになってしまうかもしれないし。……やっぱりお願いでもあるんですが、生きていてね」と素直な気持ちを届け、「大好きで、今までもこれから先もずっと大切な曲です。全身全霊を込めて歌わせていただきます」と言い、おもむろに拳を掲げるとカンザキイオリの「命に嫌われている」へとなだれ込んだ。

彼女の鬼気迫る歌声からはカンザキの歌声も重なって聴こえてくるようで、彼がソングライターを離れた今も、彼とともに音楽を作ってきた過去や彼の存在は彼女の中で掛け替えのない時間として輝き続けていることを噛み締める。ラストの絶唱は、先ほど控えめに届けた“あなたに生きていてほしい”という願いを全力でこちらにぶつけるようだ。命を削るように全身を振り絞りながら歌唱した「狂感覚」は、『深愛』を経た花譜だからこそたどり着いたすがすがしい凛々しさが立ちのぼっていた。

「今日は本当に本当にありがとう。こんなに素敵な日を作ることができてとってもうれしかったです」と感謝を告げると、「あのときと変わらないわたし、変わったわたし。すべてを抱きしめていけるように歌います」と続け、1stアルバム『観測』のラスト歌唱曲である「そして花になる」をこの日のラストに届けた。大きな花が背景に移るなか、花譜が歌に目覚めたときのこと、音楽活動を始めたときのことを落とし込んだ楽曲を歌う様子はまさに原点回帰でもあり、名は体を表すとも言うべき光景だ。当時は願望だったこの歌も、リリースから7年経った今は彼女のポリシーとなっている。変わらない花譜と変わった花譜を両立させた彼女の穏やかな表情も、健やかに音楽活動を歩めていることを象徴していた。

最後の朗読にはリスナーへのメッセージがしたためられ、「すべてを歌に変えて歌おう」という一文で締められた。エンドロールの後には花譜が歌唱を担当するスマートフォン向けアプリ『アズールレーン』9周年記念曲「BLUE SIGNAL」のリリース、花譜のバーチャルシンガーソングライターとしての名義の廻花の2ndアルバムが制作に入ること、それに伴い来春廻花のワンマンライブが開催されることなどが発表される。新たな領域に進む彼女に観客も大きな歓声を送った。

普段ライブでは未発表曲の新曲を披露することが多い花譜であるが、この「宿声 / 深愛(巡)」は既発曲のみで構成されているのも印象的だった。会場に集まった人間のほとんどがよく知っている楽曲のみでこれまでにない景色を届けることができたのは、彼女がここまで真摯に活動を続けてきたからに他ならない。花譜の可能性は、未来だけではなく過去にも広がっている。そんな彼女のステージを観て、我々は過去から様々な新鮮な景色や思考を見出すことができるのだと鼓舞された。たまには自分の歩いてきた道のりをじっくりと振り返り、愛してあげてもいいのかもしれない。そんなぬくもりで心が満たされた一夜だった。

SET LIST

01. 過去を喰らう
02. 未確認少女進行形
03. 夜行バスにて
04. 彷徨い
05. 私論理
06. モンタージュ
07. あるふぁYOU feat. 可不
08. 海に化ける/人を気取る
09. 邂逅
10. ダンダラボッチ
11. この世界は美しい
12. Replaceable Goodbye
13. KAF DISCOTHEQUE
14. 君は水、私は魚
15. コネクト
16. 愛想
17. 学園戦線
18. そばにいていいよ
19. エラーソング
20. オーギュメント
21. 周波数0の合言葉
22. 魔女
23. 命に嫌われている(Cover)
24. 狂感覚
25. そして花になる

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