YUKA NAGASE BGM TOUR ’26
2026年1月18日(日)DAIKANYAMA UNIT
【出演】Vo: 長瀬有花
Dr: 工藤誠也 / Ba: 森田悠介 / Gt: 小林ファンキ風格 / Key & Horns: 平手裕紀
2025年にはアルバム『Mofu Mohu』のリリースや、自身初となるアニメタイアップ曲を発表するなど、さまざまな活動を展開した長瀬有花。彼女が2026年の幕開けに開催した東名阪ライブツアー「YUKA NAGASE BGM TOUR ’26」は、1980~90年代を現代風に解釈した先鋭的かつノスタルジックな、非常に挑戦的でありながらも心地よさが追求された空間だった。そこには映像演出もなければ、同期シーケンスもない。生歌唱と生演奏と光が織りなす非日常空間は、観客一人ひとりの感性を存分に刺激し、自由へと解き放った。
SEに乗せて白いパジャマにサングラスやサンバイザーをつけたバンドメンバーが登場し、同様の衣装にガウンをプラスした長瀬が彼らの音に導かれるようにステージの中央に表れる。すると彼女が指揮を執って、一同は「ツァラトゥストラはかく語りき」を奏で出した。インパクトのあるフレーズとトランペットの音色、長瀬の華やかな所作、眩い逆光が、華やかなオープニングを飾る。するとアウトロで長瀬がギターを構え、シーケンサーで音を重ねると、「プラネタリア」をとつとつと歌い始めた。前回の「もふもふツアー」を締めくくった楽曲を1曲目に置くという、瀟洒でスマートな幕開けだ。
歪んだギターとポップなサウンド、こちらを軽やかに翻弄する変拍子、穏やかに回るミラーボール、アウトロの熱いギターソロがフロアを揺らすと、長瀬が「BGM TOUR、好きに楽しみましょう」と持ち前の柔らかい口調で呼びかけて、本人作詞作曲の新曲「ゆめのなか」へつなぐ。ドリームポップ風のアレンジが、キュートでいてセンチメンタル、ロマンチックでいてほろ苦い曲世界を美しく染める。緑の照明に照らされた「ノートには鍵」ではソフトなピアノやボーカルと、歪んだギターのコントラストが観客を夢見心地へといざない、終盤のシューゲイザーテイストの演奏からギターソロで鮮やかに「hikari」へとなだれ込んだ。暗闇と逆光、色気とあどけなさを併せ持つボーカル、メランコリックなメロディは幻想的な焦燥感を作り出す。序盤からロックサウンドで一気に自身の音楽世界に引き込んだ。
かと思いきや、ここから空気が一変する。長瀬はハンドマイクにチェンジしてゆらゆらと身体を揺らしながら、まったりとした雰囲気で「皆さんぜひくつろいでいってくださいね」と手を振って呼び掛けると、ジャズ風のアレンジに乗せて「とろける哲学」を歌唱する。間奏で演奏が迫力を増すなか、長瀬がラジオ体操のような動作をする様子はシュールで小気味よく、その後バンドメンバーとともにボイスパーカッション入りのアカペラを披露すると、そのうち観客も一緒に歌い出した。長瀬がフロアにマイクを向け、その声はさらに大きくなる。会場全員で音楽の無邪気さに身を委ねる様子は、とても健全でピースフルだ。
以降もしばらく摩訶不思議な世界とも言うべきユーモラスな楽曲が続いた。ビブラスラップを叩いたりなど飄々とした佇まいが映える中毒性の高い本人作詞作曲の新ダンスナンバー「夢の移動動物園」、再びギターボーカルスタイルを見せたキャッチーな「アーティフィシャル・アイデンティティ」、マイクスタンドパフォーマンスならではの両手の仕草が遊び心に富んだアレンジを引き立てる「むじゃきなきもち」、カウベルを叩くイントロと“VHSコール”から始まった痛快なポップソング「ワンダフル・VHS」、左右にステップを踏むモーションと緊迫するビートの交錯が高揚感を掻き立てた最新リリース曲「ミギヒダリ」と異なる魅力を持つ5曲をたたみかける。甘さのなかに適度な刺激が宿るサイダーのような爽快な違和感が、会場をポジティブな空気で包んだ。
グッズ紹介アナウンスを含んだ約5分間の休憩を挟むと、「fake news」でライブ後編をスタートさせる。宇宙に関するニュースの内容に重なる浮遊感のあるサウンドは徐々にディープな音像へと移り変わり、人力のブレイクビーツに乗るノイズ音楽は我々を宇宙へと連れていくようだ。
大気圏を突破するように「近くて、遠くて」へ移行すると、電子音を生演奏で再現する。宇宙のきらめきや神秘性を映し出すのがデジタルサウンドならば、人力のそれは宇宙の仄暗さや恐怖感といった底知れなさを孕んでいるように感じられた。無重力の中に張りつめた、鋭い空気に息を呑む。そこからつないだ「ほんの感想」は、ポップサウンドの骨は残しつつもどこか乱気流のような危うげな香りが漂い、「アフターユ」ではファンクやロックなど様々な要素を盛り込んだカラフルなアレンジと、しなやかなボーカルで魅了する。トランペットや鍵盤ハーモニカ、カズーといった楽器も楽曲のピュアなエモーションを高め、クライマックス的な興奮が波の如く押し寄せた。
そしてライブは佳境へ。チルなムード漂うキーボードから「スケルトン」につなぎ、トリッキーなサウンドデザインにバレリーナを彷彿とさせる優雅な所作と軽やかな歌声がよく映える。メンバー紹介ののち長瀬が「最後までお互い好きにやりましょう」と呼びかけると「オレンジスケール」へ。照明が夕暮れのように徐々にオレンジ色を濃くするのと連動して、バンドの演奏が熱を高める様子も非常に情緒深かった。
2023年にリリースされたLocal Visionsとのコラボレーションアルバム『OACL』収録曲「夢色ゆらゆら」で甘くも芯のある歌声を響かせた後、長瀬は「ツアーはすっごく楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまいました」と振り返る。さらに「ふとした瞬間に“長瀬有花がこんなライブをしてたな”と思い出して、いい気持ちになってくれたらすごくうれしい」「これからも皆さんに(長瀬有花の音楽を)自由に楽しんでほしいという気持ちは変わらないので。信じてついてきてもらえたらと思います」と重ねると、フロアからは歓声と拍手が湧いた。
そして「ここでとあるカバーをやりたいと思います」と告げ、今回のツアータイトルと共通したタイトルを持つYMOのアルバム『BGM』から、「CUE」のカバーを披露する。清廉で透明感のある空間が広がり、トランペットの音色も相まって、会場は雨上がりの朝のようなすがすがしさに溢れた。そんな余韻に包まれていると、「次で最後の曲です」という言葉を合図にステージが青い光に覆われ、「みずいろのきみ」でライブを締めくくる。最後に音がピアノと長瀬のボーカルだけになると、“青い日々 白い道”という歌詞に合わせてステージも白色の光が広がる。夢から現実に帰るような、はたまた次の見知らぬ世界へと飛び立つような、開放感のあるエンドロールだった。
このライブは彼女が掲げ続けている「自由に楽しむ」というポリシーのもと、「音」と「光」と「時間」というかたちのないものの可能性を追求していたように思う。そのアクセントになっていたのが対極性だった。パジャマという個人的かつ夜や眠りの象徴とも言うべきアイテムに、サングラスという主に白昼の室外で使用する道具を合わせるというコントラストは、日常に潜む非日常を端的に表現していた。ポップスでギターを歪ませれば、よく聞くニュースにちょっとしたフェイクを織り交ぜれば、スリリングなサウンドにパーカッションを加えれば、電子音を人力で再現すれば……等々、見知ったものに違う何かを加えると我々は虚を突かれ、新鮮さを覚える。新しい世界への入り口や、今まで知らなかった自分の感情の奥底が見えてくる瞬間は、平凡な日常のなかにたくさん潜んでいるのだ。
そんなことを考えながらこの日、5人が織りなす様々なパターンのグルーヴを浴びていたが、これもいち解釈に過ぎない。今回のライブのイメージビジュアルのひとつに使われていたクロスワード風のグラフィックには、“Back Ground Music”と“Bring Good Madness”の文字が書かれていた。彼女が作り出すポップな違和感に触れたとき、あなたはどんなことを思うだろうか? 長瀬有花を取り巻くクリエイティブは、あなたの自発性を求めている。
2026.1.18
YUKA NAGASE BGM TOUR '26
@東京 代官山UNITBGMツアーこれにて終了です
夢みたいにあっという間で、ハチャメチャで、本当にしあわせな時間でした。
関わってくれた全てのみなさま、ありがとうございました!引き続きアーカイブでもぜひお楽しみください🕊️#長瀬有花BGM pic.twitter.com/haCbQaedKy
— 長瀬有花 (@yuka_n_RIOT) January 18, 2026
SET LIST
01. プラネタリネア
02. ゆめのなか
03. ノートには鍵
04. hikari
05. とろける哲学
06. 夢の移動動物園
07. アーティフィシャル・アイデンティティ
08. むじゃきなきもち
09. ワンダフル・VHS
10. ミギヒダリ
11. fake news
12. 近くて、遠くて
13. ほんの感想
14. アフターユ
15. スケルトン
16. オレンジスケール
17. 夢色ゆらゆら
18. CUE (YMO Cover)
19. みずいろのきみ
















