ハナレグミ、“追憶”をテーマに掲げた「THE MOMENT 2025」初日、東京公演で観客に多彩な表現で手渡した、美しさと歓喜の “MOMENT”

ライブレポート | 2025.12.17 19:00

THE MOMENT 2025
2025年12月10日(水)NHKホール (東京)

【MEMBER】
Special Guest:内田也哉子
Gt:石井マサユキ / Key:宮川純 / Dr:伊藤大地 / Bass:鈴木正人 / Sax:武嶋聡 / Tp:類家心平 / Str.美央ストリングス

2020年から断続的に行われてきた、特別な編成で開催されるハナレグミ「THE MOMENT」。ハナレグミこと永積 崇が、音楽を聴き始めた少年期からミュージシャンとして活動する現在に至るまで、その時々に訪れた“音楽からもらった感動の瞬間”を思い起こし、“オーディエンスと音楽を通じた感動の瞬間を共有”すべく企画されたのが、このプレミアムライブだ。
3回目となる今回も、鈴木正人(LITTLE CREATURES)をバンドマスター/アレンジャーに迎え、バンドメンバーは「TOUR good to go!」を共に回った石井マサユキ(Gt)、伊藤大地(Dr)、武嶋聡(Sax)、類家心平(Tp)に加えて、宮川純(Key)が新たに参加。そして、この「THE MOMENT」ではお馴染みの美央ストリングスが加わり、ハナレグミのオリジナル曲から数々の名曲カバーまで、スペシャルなアレンジで美しくも儚い“MOMENT”を生み出していく。

クリスマスも近い12月10日。東京公演の会場となる渋谷・NHKホールへと続く代々木公園の並木道は、ブルーのイルミネーションに彩られていた。無数に輝く蒼い光はとても綺麗で心も躍るのだが、一方でほのかに寂しさも感じさせる。楽しさと切なさが入り混じる感覚は、どこか永積の歌声とも通じるな……などと想いを巡らせているうちに会場へ着き、ハナレグミの音楽を浴びる準備はすっかり整っていた。

開演時間となりステージにはバンドメンバー、そして永積が登場。軽やかなピアノのイントロに乗せて、永積が多大な影響を受けたという某バンドのカヴァー曲を歌い、SOLD OUTとなった3500人のオーディエンスのハートをいきなり掴んでいく。2曲目には東京スカパラダイスオーケストラの楽曲で永積をヴォーカルにフィーチャーした「追憶のライラック」をセルフリメイク。原曲は裏打ちのリズムによるラヴァーズロックだが、この日は石井マサユキのメロウなギターの音色とストリングスのハーモニーが映えるフィリー・ソウルなアレンジで、楽曲そのものの美しさをよりストレートに印象付けた。「ようこそ『THE MOMENT』へ!」と観客に挨拶した永積は、続けて最新アルバム『GOOD DAY』収録の「雨上がりのGood Day」を披露。打ち込みを主体としたサウンドだったオリジナルから、ストリングスやホーンも加わりよりカラフルに、また鈴木のベースがうねりまくるヒューマンでオーガニックなアレンジへとガラリと印象を変えた。

多彩なアプローチで冒頭から4曲を歌い終えたところで、永積が今回の「THE MOMENT」のテーマは「追憶」であると語り始めた。

「僕が『追憶のライラック』を歌ったのは32歳の頃。谷中さんが書いたその“追憶”というフレーズの意味を、当時の自分にはきちんと理解できてなかったのかもしれない。だけど、こうして歳を重ねて、最近“追憶”という言葉の意味を噛み締めるようになってきた気がするんです。楽曲を聴いたり歌ったりすることで、いろんな記憶が呼び覚まされる。音楽って、その時々の記憶のマイルストーンになる。たとえばカヴァー曲を歌うと、作者が紡いできた時間を生きられる。そんな気がするんです」

そう語ると、ボブ・ディランの楽曲に盟友・おおはた雄一が日本語詞をつけた「Don't Think Twice, It's All Right」を弾き語りで歌い、さらにはチャーリー・チャップリンが自ら作曲した映画『モダン・タイムス』のテーマ曲で、ナット・キング・コールが歌った後も数多くのシンガーが歌い繋いできた「Smile」を優雅に歌い上げ、冬の夜を温かく包み込む。その後も、抜群な選曲&斬新なアレンジでカヴァー曲を次々と披露していった。

そしてライブも中盤、ステージに今回のゲストである内田也哉子を迎える。ハナレグミの楽曲と内田のポエトリー・リーディングによるスペシャルなコラボレーションを展開。中でも、ハナレグミの代表曲の一つである「家族の風景」に、マルチリンガルな内田ならではの英語、フランス語、日本語が入り混じるリーディングが重なると、楽曲が描いていたありふれた家族の生活が、世界のどこでも共通する普遍性をもっていることを浮き彫りにしていて、不思議な広がりを感じさせた。楽曲の合間には、永積と内田が家族との想い出を語り合うトークも聞けたのだが、そこで繰り出される内田家のファミリー・エピソードがいちいち強烈で、会場の笑いと感嘆を呼んでいた。その驚愕の内容は、今後行われる公演でぜひとも体感してほしい。

充実のコラボレーションで観衆を魅了した内田がステージを去った後は、ドラマチックな感動をさらに増した「発光帯」など、ハナレグミの楽曲の数々が、表情豊かで厚みのあるアレンジによって新たな息が吹き込まれていく。そして永積は「どんな時代にも遊び心が大事だよね」と語り、ファンキー濃度が一層ブーストした「独自のLIFE」で会場をダンスホールへと変貌させて本編を終えた。

アンコールを求める拍手に応えてステージに戻った永積は、「平日なのに、こんなにたくさんの方に来てもらえてありがとうございます」とオーディエンスに感謝を述べると、場内にまだ熱気が残る中「やりたいことがいっぱいあるんです。(内田)也哉子ちゃんのリーディングに影響を受けちゃって……。ここで詞の朗読をさせてください」と、スマートフォンにメモした自作の詞を朗読しはじめた。彼が発した「正しいは今も揺れている」「正しいを常に疑わなくちゃいけない」というフレーズからは、言葉が持つ力や美しさ、そしてその脆さや残酷さと向き合いながら、それでも希望を持って言葉を歌い紡いできた、永積の表現者としての信念を感じさせる。そして、鈴木のコントラバスを加えた弦楽五重奏にサックスとトランペットの二管による室内楽的な編成をバックに、永積は「深呼吸」を情感たっぷりに歌った。

最後にゲストの内田也哉子を再びステージに呼び込むと、お互いに訪れたことがあるニューヨークの想い出を語りあう。その話から、バンドメンバーたちが街の雑踏を楽器の音だけで表現する流れへ。目を閉じると、まるでニューヨークの街並みが脳裏に浮かんでくるようだ。そこに内田がニューヨークに生きる一人の女性のありし日の日記を朗読して、終わりの1曲となるポール・サイモン「Still Crazy After All These Years」を永積の切なくも温かな歌声でカヴァーした。ラグジュアリーでいながらモダンな風合いも織り交ぜたアレンジも見事。年の瀬の渋谷に集まった人たちへ、かけがえのないプレゼントを手渡して「THE MOMENT」は幕を下ろした。

『THE MOMENT 2025』は12月25日にグランキューブ大阪メインホールにて大阪公演を開催。またこの日、東京公演のソールドアウトを受け、2026年2月1日(日)に東京国際フォーラム ホールAでの追加公演開催をステージ上で永積が発表。スペシャルゲストには内田也哉子と中納良恵(EGO-WRAPPIN')を迎える。

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