ゆきむら。の反撃が、ここから始まる。“戦友”たちと塗り替えた、1年半ぶりの東京ガーデンシアターをレポート

ライブレポート | 2025.03.04 18:00

ゆきむら。
Never ending Nightmare -The Nigh†-
2025年2月11日(火・祝)東京ガーデンシアター(有明)

「俺、ちょっとは自分のこと認められるようになれたかもしれない。お前らのお陰で。俺と出会って、お前らちょっとでも変われたか?(観客「変われたー!」)俺はお前らの何かになれてるか?(観客「なってる!」)」
ライヴ終盤、ステージに立つゆきむら。の言葉に、泣きじゃくるような声でオーディエンスが呼応していく。そうして、コンサートはこんな言葉で締めくくられた。
「俺とお前らでやり残したことがある。最後にここで“死ね”をいいたい。死んで欲しいヤツ、いじめたヤツ、嫌いなヤツの顔を思い浮かべて。俺も思い出していくわ。自分の人生、いろんな悪夢あるけど最高の夜でした。それじゃいくぞ、せーの(ゆきむら。と観客全員で)“死ねーーーーーーー!”。以上、新世界の神、ゆきむら。でした」

衝撃的なものを目撃してしまった!

しかも、この新世界の神、カッコよくてかわいくてお茶目で無邪気。声も見た目も男でも女でもないような存在感を放ち、さらにその上、恐ろしく情緒不安定。そんな、人間として不完全な部分もステージ上ですべてさらけ出してみせる。これが、Z世代の怖ろしきカリスマ、ゆきむら。のライヴだった。

2月11日、初めて全国流通でリリースした1stアルバム『- Never ending Nightmare -†』を引っ提げ、<Never ending Nightmare -The Nigh†-
>と題したワンマンライヴで、ゆきむら。が1年半ぶりに東京ガーデンシアター(有明)に戻ってきた。アルバムリリースを含め、これまでやっていなかったような大胆かつチャレンジングな活動を積み重ねて迎えた決戦の日。

紫色に光るペンライトや十字架を身につけ、ゴスロリファッションできめた女の子たちが待ち受けるなか、場内の照明が暗転。
場内でのナレーションでコンサートの注意事項などがアナウンスされていたと思ったら、突然その声がバグりだす。全員がフードをかぶり、カルト集団のような黒装束が通路から突然現われ、ステージへ。なにかの儀式が始まるような形相のなか、生バンドの演奏をバックに、「かなしみのなみにおぼれる」がスタート。黒装束のなかの1人が衣装をゆっくりと脱ぎ捨てると、新衣装を着たゆきむら。が圧倒的オーラを放ちながら姿を現す。冒頭から、前回同会場で行ったライヴと同じオープニングナンバーを、檻から出て歌うことで、みんなの記憶をいまの自分で上書きしていく。

ゆきむら。の叫びが場内いっぱいに響き渡ったあとは、ダンサーと共に再スタートを告げるように「天涯」を歌い踊る。続けて「アンドロイドガール」が始まると、曲の後半からここまでカッコよくきめていたゆきむら。の心が歌詞とともに壊れていき暗転。生バンドを編成するピアノ、ヴァイオリンが不協和音を響かせ、ドラムが変拍子を叩くと、場内の空気がさらに歪んでいく。そうして、照明がつくと、ステージの一段高い場所に置かれた玉座にゆきむら。が登場。斬新なリリックムービーを背負いながら、ハンドマイクをヘッドセットに変えて「虎視眈々」を妖艶な歌とダンスで。続く「愛未遂ジェーン・ドゥ」ではそんなゆきむら。が紛れもないアイドルに変身する。アリーナに突き出た花道からセンターステージまで進み、憧れだったアイドルグループに本気でなりきり、キレキレのダンサブルなアクトで観客を魅了。“目を見て名前読んでよ”の生台詞で、集まったファンを秒殺したあとは、ブレス音から「ロミオとシンデレラ」へとつないでいく。マイクステッキを持ってダンサーと対面になり、顎クイをしたり背中に手を回し、ファンを挑発しながら華麗に踊る。そこに追い打ちをかけるように「え?あぁ、そう。」を投下。さらにセクシーに、妖艶に歌い踊ってみせる。

連投したダンスナンバー4曲、いったいどれが本当のゆきむら。なのかと思っていると、場内が再び暗転。スクリーンには普段ゆきむら。がSNSやnoteで綴っている言葉が並び、ステージでは華麗に歌い踊りながらも、その裏で葛藤し、情緒不安定になっていく姿を隠さず伝えていく。そうして、スクリーンに“終わらない悪夢”という言葉が映し出されたところで、ライヴは「涙腺回路」から再開。攻撃的な目線、シャウトを繰り返すゆきむら。は、ここではロックスターのようなオーラで客席を圧倒。その歌が最後だけか細くなり、はかない声になっていくと、観客たちは思わず涙をこぼす。そこからの名曲「再会」がさらに胸を締め付けていく。ゆきむら。は観客の目を見て、ふたりだけで冒険しようと歌いかけ、オーディエンス1人ひとりの心の奥底、その近くに寄り添うように歌で近づいていく。そうしてピアノの弾き語りから「ハウトゥー世界征服」へ。1人でいても2人でいても、それでもこの心の傷や暗闇は治せない。そのやるせなさを最初は語り聞かせるように綺麗な声で歌い、途中からその歌声がどんどん激しくなり、声を震わせ、吐き捨てるように歌ったゆきむら。は最後、ステージに崩れ落ちていった。

このあと「こんばんは」といって、なにもなかったかのようにしゃべりだしたゆきむら。に唖然としていると、ファンは慣れた様子で、客席のあちこちから「カッコいい!」、「かわいい!」、「愛してる!」という声が上がる。その声援に応えて、ゆきむら。は無邪気に衣装の裾を持ち、お姫様のようにクルクル回ってファンサービス(微笑)。そうして「前回ここに来た人」と問いかけると、観客のほとんどが挙手。前といま、両方のゆきむら。を受け入れてくれたファンを愛おしそうに見つめ「いろいろ一緒に塗り替えていこう。歌うよ。聴いてくれ!」といって、次に始まったのは「君の神様になりたい。」だった。歌で、配信で、SNSのコメントを通して、どんなに君を支えたとしても、君の神様になりたくてもなれないこと。そのリアルを、声を張り上げ、感情すべてをぶつけ、全身全霊で歌詞をかみしめながら歌うゆきむら。に心が大きく揺さぶられ、観客たちはペンライトを振るのも忘れる。そこに「比較症候群」を畳みかけていって、さらなる現実を歌で投げかけていく。そうして歌のラスト、観客を真っ直ぐに見すえて、曲の符割を無視して、“お前ら聞け!こんな歌の中に答えはないぜ!だって自分を決定づける、それはお前たちの役目だからな”とゆきむら。が熱くエモーショナルに叫ぶ。こうして心の一面を覆う闇を見据えた上で、それでも「生きろ」という肯定的なメッセージをたたき込み、鼓舞していったところは圧巻のひと言。このライヴを、観客たちのかけがえのない宝物にしていった瞬間だった。

再び場内は暗転して、ムービーが流れる。映像は以前、この会場を訪れたときの懐かしいものから、今回のライヴ直前までのゆきむら。を映し出す。本番を控え、どんどん沈鬱になっていったと思えば、会場のエスカレーターに飛び乗って陽気にはしゃいでいたり。さっきまでのメッセンジャーゆきむら。とはまったく違う、陰鬱でメンヘラ…こんなカオスな自分をさらけ出すことは容易ではないはず。けれども、こうして嘘偽りない姿で、ストレートにファンと真剣に向き合い続けるからこそ、ゆきむら。の歌は、圧倒的に信頼できる励ましとして共感を呼び、ファンの心に刺さっていくのだ。

映像が終わると、新しい和風の衣装に着替えたゆきむら。が現われ、「アイドル」からライヴが再開すると、場内はいっきに爆発的な盛り上がりに包まれる。指ハートでファンサをまき散らすゆきむら。次の「ラヴィ」では「アイドル」同様、男性と女性の声を自由に使い分け、前半はキュートな女の子、後半は爆イケな男の子になってファンを魅了し、ソロダンスも披露した。そのゆきむら。がサングラスを着用して、次に「ENVY」が始まると、客席は興奮状態で狂喜乱舞。曲の後半では“ゆきむら。”、“うぉーお”でコール&レスポンスを入れる<メンヘラタイム>で、カッコよく場内を一つにしていったところまではよかった。だがそのあと、サングラスが髪の毛にからまってしまい、ゆきむら。は大慌て(微笑)。これで「MCが吹っ飛んじゃったから歌で思いを伝えます」といって「AI」を歌い出すと、一瞬にして場内が静まりかえる。柔らかなタッチのはかない歌声を固唾をのむように見守り、耳を傾けていた観客たちは、ちゃんと思いは届いたというのを知らせるように、歌い終えたゆきむら。に向かって何度も「愛してる」と叫んでみせた。

このあと始まったMCで、これまで自分が嫌で変わろうとしていたが、それは「自分への反抗」でしかなく、結局ゆきむら。というものは「ずっと変わっていなかった」こと。それが分かったときに「吹っ切れた」とゆきむら。は会場に語りかけた。ひと呼吸置いて、「俺はただ、新世界の神になりたいだけ」と宣言して、ライヴは激しいロックチューン「反逆ノノロシ」から終盤戦へと突入。ダンサー、黒装束に囲まれながら、ゆきむら。は自身のロゴが刻まれたフラッグを肩に担いで“ここにいるんだ!”と高らかに歌い、花道を勢いよく爆走!客席からは「この曲を一緒に歌いたかった」という勢いで、大きなシンガロングが沸き起こる。間髪入れずに爽快な「敗北の少年」が始まると、壮大なoiコールに包まれながら、ゆきむら。がバンドメンバーそれぞれと楽しそうに絡み合う。そうして「リバーシブル・キャンペーン」でまだまだ行くぞと合図を送ると、ペンライトとレーザーで辺り一面が紫に染まるなか、ゆきむら。は圧倒的歌唱力でこの曲を歌い上げる。フロントで火花が舞い散り「ヒバナ」が始まると、ゆきむら。は新世界の神の様相で玉座に仁王立ちして、オーディエンスにさらなる歌声を求める。

この日は「僕の好きなボカロPさんと共作した曲を初披露したいと思います」という丁寧な曲紹介から、内緒のピアスとコラボして作った重めの愛を歌った新曲「ナイトメア」を歌うと、ステージには桜色の花吹雪が舞い降り、その美しい世界観で観客をたっぷり歌の世界へと陶酔させていった。そうして、いよいよ本編ラスト。1年半前とは違う、いまのゆきむら。にぴったりな締めくくりとして「シナリオノート」が放たれると、なんともいえないすがすがしい空気が場内には充満。会場全体を指さして“光はいつでもここにあった”と歌った瞬間、ゆきむら。は、いまにも泣きだしそうなほどの笑顔を浮かべてみせて、アルバム同様に深い暗闇に差す一筋の光をしっかりとライヴでも体現したところで、本編は終了。

アンコールは真っ白い衣装に着替えて、「夜撫でるメノウ」からスタート。「愛言葉III」では曲中「俺はお前が好きだ!」「幸せ!」と叫んで、ファンをどこまでも温かい気持ちにしていく。そうして、アリーナ席にゆきむら。のメッセージが書き込まれたテープが舞い降りるなか、ファンは愛情を詰め込んだ声で「馬鹿!」と叫ぶと、ハートウォーミングな空気が会場いっぱいに広がっていった。そんな客席を見つめて「この景色、嘘じゃないよな?(観客「嘘じゃないよ」)絶対に忘れないわ」とつぶやいたゆきむら。は「これからも、変わらないお前で生きて下さい」と伝えて、最後に「Calc.」を熱唱。しかし、ここで「あれ?もう始まってるんだけど」と歌い出しを失敗してしまい、歌い終えたあとに、もう1度この曲を歌うことに。予想外の嬉しいハプニングに、客席は大喜び。ゆきむら。は悔しそうに「この借りはいつか返すから」と約束をして「またインターネットで会いましょう」という言葉を残して、ステージを後にした。

終演後、エンドロールが流れると、このライヴに関わったスタッフのクレジットに続いて、このエンドロール企画に参加したファン全員の名前が長々と綴られていく。そのファンを示すクレジットが“俺の戦友”となっていたところに、ゆきむら。の深い絆、愛情を感じ、胸がジーンとしたところでこの日のライヴは幕を閉じた。

神になっても生きづらそうで、不完全。悪夢はけっして終わらない。そんな新世界の神、ゆきむら。の反撃が、ここからいよいよ本格的に始まる。

今後の活動の発表を、いまから震えて待て!

SET LIST
01.かなしみのなみにおぼれる
02.天涯
03.アンドロイドガール
04.虎視眈々
05.愛未遂ジェーン・ドゥ
06.ロミオとシンデレラ
07.え?あぁ、そう。
08.涙腺回路
09.再会
10.ハウトゥー世界征服
11.君の神様になりたい。
12.比較症候群
13.アイドル
14.ラヴィ
15.ENVY
16.AI
17.反逆ノノロシ feat.ヒゲドライバー
18.敗北の少年
19.リバーシブル・キャンペーン
20.ヒバナ
21.ナイトメア
22.シナリオノート

ENCORE
23.夜撫でるメノウ
24.愛言葉Ⅲ
25.Calc.

SHARE

ゆきむら。の関連記事

アーティストページへ

最新記事

もっと見る