草刈民代が芸術監督を務めるローラン・プティをオマージュしたバレエ公演が開催。「海外に飛び出した彼らの意思を感じる踊りを見てほしい」

インタビュー | 2023.06.30 17:00

元バレリーナで俳優の草刈民代が芸術監督を務めるバレエ公演『L‘ART GROUP presents ローラン・プティHOMAGE 『INFINITY - PREMIUM BALLET GALA 2023-』が富山のオーバードホール中ホールで7月29日に、東京は7月31日に新宿文化センター大ホールで開催される。草刈は2024年に生誕100年を迎えるローラン・プティの作品を数多く踊り、その才能に触れたひとり。「バレエの根幹を教わった」と感謝し、「精神を学んだ人間として後進に伝えたい」と意気込んでいる。1・2部制の公演では、世界のトップバレエ団で舞うプリンシバルを草刈自ら人選。「日本から世界に出て成功し、さらに挑戦し続けている彼らの踊りを堪能してほしい」と呼びかけている。
──ローラン・プティをオマージュした公演を7月に、東京と富山で開催されます。草刈さんは芸術監督を務められますね。

はい。富山では、オーバードホール・中ホールの柿落としの一環として公演をさせていただきます。今回出演するダンサーは、ほとんどが海外の大きなバレエ団でプリンシパルやソリストとして活躍しています。みなさんダンサーとして実績を積んで、さらに芸術性を高めていきたいという意欲のある方ばかり。私の方もそのダンサーたちのエネルギーが最大限に伝わるようにプログラムを考えました。内容としては、一部では古典やその後に続くネオクラシックの作品を。2部では『アルルの女』『枯葉』などローラン・プティの5作品のほか、1940年代、プティ氏がパリオペラ座に所属していた頃のコーチでもあったセルジュ・リファールの作品や、日本を代表する振付家・中村恩恵さんの作品も上演します。2部では全員が新たな作品に挑戦するのですが、みなさんがそこに価値を置いてくれていることがとても頼もしく、私も良いリハーサルができるように色々と準備を重ねているところです。

──草刈さんは昨夏も、海外で活躍するプリンシバルを集めた公演『キエフ・バレエ支援チャリティーBALLET GALA in TOKYO』で芸術監督を務めていらっしゃいましたね。

昨年の公演は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて危機にあるキエフ・バレエへの支援を呼びかけるものでした。ロシアの侵攻が始まり、ヨーロッパなどでは様々な劇場でチャリティー公演が行われていたようです。ところが日本では、プロフェッショナルなバレエのチャリティー公演は行われていませんでした。ウクライナやロシアは一般的には日本に馴染みのある国ではありませんでしたが、国際的なバレエの世界においてとても大きな役割を担ってきた国々です。日本人同様、ウクライナ人のダンサーも世界中で踊っていますし、ウクライナ国立バレエは毎年来日公演をしています。私はロシアのダンサーと一緒に踊ったり、バレエ団にゲスト出演をしてきましたが、メンバーの中にはウクライナ人もいました。日本人のバレエダンサーにとっては決して遠い存在ではないと思っています。「ウクライナ支援」となると私が主催するチャリティー公演としてはテーマが大きくなりすぎてしまうかもしれないけれど、キエフ・バレエの支援であれば筋が通っていると思いました。バレエの人たちがバレエの人たちを助けることで、「支援する」という形を打ち出せると思いましたし、そこからお客様に伝えられることがあると思いました。協賛金を集めて公演を行い、お客様から集まった義援金はおよそ860万円。それでウクライナ国立歌劇場に、舞台の床の条件を良くする為に敷くパレットと、その上に敷くシートを寄贈しました。ベルギーの会社に発注し、そこからキーウに運ぶ輸送費も入れるとちょうど860万円くらいになり、義援金をパレットに替えて寄贈できたというわけです。まだ侵攻が続いているウクライナの現状では、劇場にお金を寄付しても軍事費に回されてしまう、ということも聞きました。そのなかで新しいパレットが届いたことは、ウクライナ国立歌劇場のダンサーたちにとって、とても励みになることだったようです。大変喜んでいただけました。

──1996年に牧阿佐美バレヱ団公演で『アルルの女』を踊られて以降、99年には『若者と死』など、プティ氏の作品に携わられてきました。プティの作品を通して成長できたことはどのようなことでしたか。

幸運だったことは、私の個性のなかに、プティ作品に活かせるものがあったということです。2009年に引退するまでの間に10作品以上踊らせていただいていますが、その経験を通して、私はバレリーナとしての個性を確立できたと思っています。特に『若者と死』と出会ったことは大きなことでした。初めて踊った公演の後のパーティーで、プティ先生は「今まで見た死神の中で一番良かった」と言って下さったのですが、そのくらい個性とかみ合う役だったからこそ、表現を深めることができたのだと思います。プティ先生にみっちりとリハーサルをしていただきましたが、その稽古はそれまでとは全く違う体験のように感じました。新たなフェーズで「踊り」を理解するきっかけになったと思っています。

──今回の公演では、振り付けをルイジ・ボニーノ氏が務められます。

私自身もルイジさんにはほとんどの作品でコーチをしていただいてきました。初めて彼の踊りを見たのは私がまだ10代の頃。NHKで中継されたマルセイユ・バレエ団の「こうもり」(ヨハンシュトラウスのオペレッタをプティ氏がバレエ化)という作品でした。「バレエでここまで表現できるのか」というほど自由に、俳優のように踊る彼の姿にショックを受けたのを今でも覚えています。なぜなら、バレエでそこまでの表現ができるとは知らなかったからです。あまりにも自分のいる世界とかけ離れているような気がして、その時は「踊りたい」とすら思えませんでした。のちにプティ作品も、プティのダンサーたちも、私にとって特別な存在になっていくのですが、思い起こせば、ルイジの表現力が10代の私に与えた衝撃は大きく、常に「いくら稽古をしても足らない」という気持ちを持ち続けられたこととに繋がっていると思っています。

──芸術作品を通じて環境や社会問題について知ることは、より身近に当事者意識を持って物事を考えるきっかけになっていると感じます。

コロナ禍やロシアの侵攻を経験して、世の中が大きく変わってきています。その中でバレエが担う役割は何なのか?アートが担う役割は何なのか?ということをさらに打ち出していかなければならないことを実感しています。今の私は、「バレエ団」のような組織に関わっているわけではありませんので、できることは限られていますが、今回の公演も、なかなかバレエの公演を観る機会がない学生の方々をご招待するなどして、その要素を盛り込みたいと考えています。

──幅広い人たちに目を向けてもらうためにも、世界で活躍しているプリンシバルが会する今回の公演は見逃せませんね。

オンラインでリハーサルを始めている人もいますが、みなさん実力があるので習得が早いですし、何しろ踊るモチベーションが高いのです。正に、「踊ることに人生を賭けている」人たちばかり。その勢いのある踊りをぜひ多くの方にご覧いただきたいです。私も芸術監督としてみなさんのコーチをしていきますが、私の挑戦としては、どれだけみなさんにインスピレーションを受けてもらえるか、というところにあると思っています。

──公演の衣装は、DREAMS COME TRUEのステージ衣装などを手掛けたことでも知られるデザイナーの丸山敬太さんが務めます。

昨年のチャリティー公演でも『薔薇の精』の衣装を作ってくださり、提供していただきました。敬太さんがダンサーに「着せたい!」とイメージした衣装はどれも夢があって素敵なのです。敬太さんには2021年の「INFINITY」でも衣装を担当していただきましたが、敬太さんの衣装やセットで作品が本当にスタイリッシュなものになりました。今年は4着作っていただきます。敬太さんの衣装にも注目をしていただきたいです。

L‘ART GROUP presents ローラン・プティ HOMAGE『INFINITY – PREMIUM BALLET GALA 2023-』

公演情報

DISK GARAGE公演

L‘ART GROUP presents ローラン・プティHOMAGE 『INFINITY - PREMIUM BALLET GALA 2023-』

2023年7月31日(月) 新宿文化センター 大ホール
券種・料金 SS席 ¥11,000(税込)、S席 ¥9,000(税込)、A席 ¥7,000(税込)
※来場特典特製プログラム付
開場時間/開演時間 18:00開場/19:00開演
芸術監督:草刈民代
振付指導:ルイジ・ボニーノ
振付:中村恩恵
◆衣裳:丸山敬太
◆出演:
加治屋百合子(ヒューストン・バレエ)
石原古都(カナダナショナルバレエ)
佐々晴香(ノルウェー国立バレエ)
秋山瑛(東京バレエ団)
大谷遥陽(イングリッシュナショナルバレエ)
木本全優(ウィーン国立バレエ)
江部直哉(カナダナショナルバレエ)
ハリソン・ジェイムス(カナダナショナルバレエ)
玉川 貴博(元東京バレエ団)
三森 健太朗(スウェーデン王立バレエ)
太田倫功(ボルドーオペラ座バレエ)

【上演作品】
第一部
『ゼンツァーノの花祭り』出演:秋山瑛、玉川貴博 衣裳:丸山敬太
『ドリーブ組曲』ジョゼ・マルティネス 出演:大谷遥陽・太田倫功
『ドン・キホーテ』ヌレエフ版 出演:佐々晴香、三森健太朗
『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』ジョージ・バランシン 出演:石原古都・ハリソン・ジェイムス
『ダイヤモンド』「ジュエルズ」より ジョージ・バランシン 出演:加治屋百合子、木本全優

第二部
『エチュード』中村恩恵 出演:加治屋百合子、江部直哉 衣裳:丸山敬太 
『ミラージュ』セルジュ・リファール 出演:佐々晴香
『枯葉』 ローラン・プティ 出演:三森健太朗 衣裳:丸山敬太
「ザ・フォーシーズンズ」より『春』 ローラン・プティ 出演:秋山瑛、玉川貴博 衣裳:丸山敬太
『レダと白鳥』「マ・パブロワ」より ローラン・プティ 出演:石原古都、ハリソン・ジェイムス
『アルルの女』よりパ・ド・ドウ ローラン・プティ 出演:大谷遥陽、太田倫功
『モレルとサン=ルー侯爵』「プルースト 失われた時を求めて」より ローラン・プティ
出演:木本全優・江部直哉

※上記プログラム及び出演ダンサーは現在の予定内容です。変更の場合がございます。
※音楽は特別録音による音源を使用します。

チケット一般発売日:2023年4月29日(土・祝) 10:00

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