TEXT・PHOTO / 桑田英彦
プロローグ
イギリスやアメリカには音楽ゆかりの地がたくさんある。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、エルヴィス・プレスリーなど、音楽を通じて世界のカルチュアを変革させてきた偉大なミュージシャンたちの足跡だ。一般誌(雑誌、書籍、エアライン機内誌、カード会員誌)の海外取材を生業にしてきた ので、世界的な観光地や世界遺産を訪ねることも多かったが、時間に余裕があれば彼らの足跡を探し歩いた。ミシシッピ州を回ってブルースゆかりの地を巡った旅を『ミシシッピ・ブルース・トレイル』という1冊の本にまとめた後は、音楽ゆかりの地巡りが旅の目的になったこともあった。このような古い足跡だけでなく、ミックとキースが育ったイギリスのダートフォードには「ミック・ジャガー・センター」がオープンし、ディランの故郷ミネソタ州ヒビングには彼の博物館がある。スプリングスティーンのホームグラウンドだったニュージャージー州アズベリーパークには、地元の大学が運営する「ブルース・スプリングスティー ン・アーカイブス・センター」まで設立されている。
リバプールには若き日のビートルズの足跡が街中に残っており、この街最大の観光資源となっている。街の玄関である空港は「リバプール・ジョン・レノン空港」と命名され、空港の中にはジョンの銅像やビートルズ・グッズが置かれ、空港の外にはイエローサブマリンのレプリカが設置されている。ビートルズをテー マにしたホテル「ハードデイズ・ナイツ・ホテル」は大人気で宿泊予約がなかなか取れない状態だ。
ロンドンには大成功を収めた後の彼らの足跡が残っている。アビーロード、映画『レット・イット・ビー』の屋上の演奏シーンが撮影されたアップル・レコード のビル、ジョンとヨーコが暮らした家など、ファンにとってはまさに聖地である。こういったビートルズゆかりの地を巡るツアーは、マニア向けというよりも一 般の観光旅行者向けといえるほど定着している。
この連載では前述の自宅を訪ねてインタビューしたミュージシャンたちのエピソードを交えながら、ガイドブックと一味違う一歩踏み込んだ音楽ゆかりの地を紹介していく予定だ。
デヴィッド・ボウイ「ジギー・スターダスト」
今回は今年の1月10日に亡くなったデヴィッド・ボウイのゆかりの地を紹介しよう。
ロンドンで彼のファンがもっとも多く集まる場所が、ピカデリー・サーカスからリージェント・ストリートを10分ほど歩いた場所にあるへドン・ストリートという小さな通りだ。ここは彼の出世作『ジギー・スターダスト』のジャケット写真が撮影された場所で、裏ジャケットに写っている電話ボックスも残されている。現在は洒落たレストランやバーが並び、週末にはかなり賑わう場所だ。
旅行関係の取材で先月ここを再び訪ねる機会があった。以前ここに来た時にはなかったのだが、驚いたことにこのジャケット撮影場所の壁面に「David Bowie Ziggy Stardust」と記されたプラークが設置されているではないか。そしてその前は世界中から彼の死を偲んで訪れたファンの献花で埋め尽くされている。彼の死が報じられると数千人のファンが集まったロンドン南部のブリクストンには、ボウイが6歳までを過ごした家も残されている。改めてデヴィッド・ボウイというミュージシャンの存在の大きさを再確認できた。
デヴィッド・ボウイ「ジギー・スターダスト」
原題:The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars
デヴィッド・ボウイの代表作。
“ジギー”はイギー・ポップから、“スターダスト”は、テキサスのミュージシャン、レジェンダリー・スターダスト・カウボーイが由来となっている。
自らが異星からやってきた架空のスーパースター「ジギー」と設定し、ロック・スターとしての成功からその没落までを描く物語をアルバムに収録された曲で構成している。
(1972年6月 RCAレコードよりリリース)
桑田英彦
桑田英彦(Hidehiko Kuwata)音楽雑誌の編集者を経て渡米。1980 年代をアメリカで過ごす。帰国後は雑誌、エアライン機内誌やカード会員誌などの海外取材を中心にライター・カメラマンとして活動。ミュージシャンや俳優など著名人のインタビューも多数。アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イタリア、ハンガリー、ウクライナなど、海外のワイナリーを数多く取材。著書に『ワインで旅する カリフォルニア』『ワインで旅するイタリア』『英国ロックを歩く』『ミシシッピ・ブルース・トレイル』(スペースシャワー・ブックス)、『ハワイアン・ミュージックの歩き方』(ダイヤモンド社)、『アメリカン・ミュージック・トレイル』(シンコーミュージック)等。