兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第50回[3月の巻~前編~]

コラム | 2020.03.16 19:00

イラスト:河井克夫

音楽などのライター、兵庫慎司が、自分が観たすべてのライブなどについてひとことレポを書いて、半月に一回アップしていく連載ですが、ご存知のように新型コロナウィルスの影響で2月26日に政府がコンサート等の自粛要請を出して以降、ほとんどのアーティストがライブを自粛、中止もしくは延期する状態になっています。私が3月前半で行くはずだったライブもすべてそうなりました。
ただし、中止もしくは延期になった当日、予定されていた会場で無観客状態でライブを行い、それを生配信するアーティストも、いくつかいます。前回のこの連載で取り上げたsyrup16gもそうでした(2月28日&29日・新木場スタジオコースト レポはこちら )。
なので、苦肉の策ですが、今回はそういった無観客生配信ライブをいくつか観て、それについてひとことレポすることにしました。現場まで行ったものもひとつあります。

3月5日(木) フラワーカンパニーズ @ 新代田FEVER

この日新代田FEVERで主催ライブを行うはずだったが中止になったバンド、addは、20時から自身のインスタグラムのアカウントを使って無観客生配信ライブを行ったが、別にこの日ライブをやる予定のなかったフラカンも、同じ日の23時スタートでFEVERから生配信ライブを行った。
フラカン、2019年11月28日に、大阪ABCラジオ『よなよな なにわ筋カルチャーBOYZ』に出演し、「ラジオで生対バン」という企画で、ラジオ局のスタジオでライブをやる模様が生で放送された。つまり、このような無観客生放送ライブを行った経験が前にもあったわけだが、それでもやはり不慣れというか、どういう気持ちでどこをめがけてパフォーマンスしていいのかがなかなかつかめないようで、それでも懸命にやっているさまが、とても新鮮でおもしろかった。セットリストは「DIE OR JUMP」「いましか」「ピースフル」「深夜高速」「青い春」「まずはごはんだろ?」「俺たちハタチ族」「最後にゃなんとかなるだろう」の8曲でした。
なお、3月11日『月刊フラカンFEVER 2020』フラカン×うつみようこ&YOKOLOCO BANDの日も、興行としては中止だが無観客生配信ライブは行うことも、この時に発表した。

3月8日(日) aiko @ ZEPP TOKYO

ツアーのファイナルが3月7・8日のZEPP TOKYOだったが、延期が決定。これを受けて、8日の方は本番通り行って、Youtubeの自身の公式チャンネルでライブ配信。aikoがやるか! ということにシンプルにびっくりしたが、観てもっとびっくりした。
100%肯定的な意味で言うが、普通のライブだったので。無観客である特殊性を全然感じさせない。いや、フロアが映り込んだりすると、そりゃあもちろん無観客であることがわかるんだけど、照明とかカメラ割りとか、何よりも本人のパフォーマンスそのもの、なんというか、あたりまえにすばらしい「通常のライブ」っぷりだった。
MCで、無観客であることへの戸惑いを口にしたりもしていて、「あ、これでもやっぱりやりにくさは感じてるのか」と思ったが(そりゃそうだ)、でも終始、彼女のプロっぷりに圧倒された時間でした。ツアー・ファイナルだったからやり慣れていた、というのもあるかもしれないが、それ以上に本人&スタッフの意識と行動力の為せる技だと思う。

3月11日(水) フラワーカンパニーズ、うつみようこ&YOKOLOCO BAND @ 新代田FEVER

これが現場まで観に行ったやつです。3月5日に続き、フラカンの新代田FEVERからの生配信。
ちょっと説明。フラカンは2020年、『月刊フラカンFEVER 2020』と銘打って、毎月新代田FEVERで、ゲストを1組招いてライブを行っている。で、そのフラカンのメンバーのうちふたり(ギター竹安堅一とベース&リーダーグレートマエカワ)がメンバーでもあるうつみようこ&YOKOLOCO BANDは、2011年3月11日に代々木Zher the ZOOでライブのはずだったのが震災で中止になって以降、毎年必ず3月11日にライブをやることにしていて、それが今年は『月刊フラカンFEVER』で対バン、という企画だった。で、興行としては中止、でも2バンドとも無観客生配信ライブはやる、ということになった。
先にうつみようこ&YOKOLOCO BANDが6曲。そして、フラカンが準備している間にヨコロコの5人がバーカウターに移って次のライブの告知(5月5日高円寺JIROKICHIワンマン)→うつみようこ&奥野真哉&クハラカズユキの3人になってシンディ・ローパー「ハイスクールはダンステリア」弾き語り→うつみようこひとりで「満月の夕」。
で、フラカンが7曲やって(圭介、7曲目の「終わらないツアー」の最後で「終わってたまるかー!!」と絶叫)、一回ステージからはけるのを省略して突入したアンコールでは、ようこさん&奥野さん&キュウちゃんも加わった7人編成で「東京タワー」と「真冬の盆踊り」。
「真冬の盆踊り」はフラカンのアンコール・セッションの定番なのでまだ免疫あったが、「東京タワー」をこの7人で、というのは、ちょっともう取り乱しそうになるくらいすばらしかった。なお、この写真は、この曲をやっている模様を撮影しているスタッフ込みで、フロアの最後方から撮ったものです。

3月14日(土) tricot @ Zepp DiverCity TOKYO

ニューアルバム『真っ黒』のリリース・ツアー8本のうち、セミファイナルの3月6日なんばHatchとファイナルの3月14日Zepp DiverCity TOKYOが延期、そのファイナルの日をLINE LIVEで無観客生配信。
観ているうちに、無観客だってことを忘れていた。なんで。演奏がすごすぎて。そもそも楽器がうまいとか、アクロバティックなフレーズ多数とか、そういうこと以前に、2本のギターとベースとドラムと歌とコーラスの噛み合い方がすごい。まるでひとりの人が全部演奏しているみたいなグルーヴ。曲がバッと終わったあとギターのノイズだけ「ビーッ」て残ったりする、その残り方にまで魂が行きわたっている感じ。無観客だってことも忘れていたが、観ながら飲もうと思って出しといた缶ビールのことも忘れていたくらい集中して観てしまった。

  • 兵庫慎司

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