HOW BEAUTIFLOW!!
2026年5月31日(日)NHKホール(東京)
【出演】ハナレグミ / 中村佳穂
【Musician】宮川純(key) / 越智俊介(b) / 伊吹文裕(d) / 高木大丈夫(gt) / 植松陽介(cho) / 稲泉りん(cho)
大きな拍手と歓声に包まれた会場を見て、中村は「もう打ち上げや」と笑みを浮かべた。ハナレグミの永積が一旦ステージからはけ、残った中村はキーボードを弾いて〈さぁ 歌いましょう〉と再び「音タイム」のフレーズを歌唱しながら、「家で1人で聴いてたハナレグミ。あのハナレグミと歌える喜び。今日は誰よりも楽しみに、そして全力で楽しい音楽をしていこうと思います。本当に今日は歌えて嬉しいです!」と喜びを伝えた。
「きっとね!」を届けると、改めてハナレグミとの出会いを口にした。「FUJI ROCK FESTIVAL ’22」で中村が「家族の風景」を歌っていたら、ハナレグミがサプライズで登場し、一緒に歌唱したのが最初の邂逅だったそうだ。また、今回のライブを開催するにあたって、どちらのステージも同じバンドメンバーを揃えようとなり、スペシャルな編成が生まれた。
中村が宮川純(key)、越智俊介(b)、伊吹文裕(d)、高木大丈夫(gt)、植松陽介(cho)、稲泉りん(cho)を紹介して、マック・ミラー「5 Dollar Pony Rides」のカバーと「Hey日」を投下。彼女の歌は途中で発する「テレ、テレレレレ」などのスキャットやフェイクも含めて、フリーキーであり変則的。例えるなら、音の波を悠々と泳いでる感じだ。自由なのに一音一音が的確にリズムをとらえていて、高揚感のツボを突いてくる。彼女のライブスタイルは「蝶のように舞い、蜂のように刺す」モハメド・アリのようだ。そして「LINDY」では音頭のように、太い音の粒子がこちらの心を躍らせた。
「家で弾き語りを作るときは、ずーっとピアノに向かって独り言を喋ってる。最近あった話だとか、こうなってみたいだとか、ひとしきりずっと話し続ける」「だいたい1時間半くらいすると、言いたいことも言い飽きて、何もわからない言葉で喋り続ける。それを録音して、旅行とか東京に行く道すがらとかに聴いたりする。大体はそんなに良くないんだけど、たまにきらっと輝くメロディがある。それは私のものじゃないような、何も考えてない美しいものだったりする。〈『みんな同じ辛いのよ。』〉──このワードが出てきたときのことを、私は覚えてる。曲は私のようで、私のようじゃなくて。言葉よりも先にあって、どこかから来て知らない間に……」と、中村は演奏しながら歌うように言葉を紡いだ。そうして演奏された「忘れっぽい天使」は、この日のハイライトの1つだった。中村は途中でキーボードから手を離し、両腕を広げて天を仰ぐように宙を見て声を上げた。口で、腕で、足で、全身で歌っている。荘厳で、神々しくて、眩い歌と演奏だった。拍手に包まれながら「これが私、中村佳穂でした」と発して、最後に「さよならクレール」を届けて、中村佳穂というシンガーの存在感を強烈に刻みつけた。
ここでハナレグミが登場すると、「NHKホールが崩れ落ちるんじゃないかと思った。すごいぜ、ほんと。素晴らしい!」と中村を称賛。そこから、しばらく2人の和気藹々としたトークが続いた。興味深かったのは、ハナレグミが中村と精神科医・星野概念によるトークイベントを見に行ったときのエピソードだ。そのイベントは中村の歌詞を星野が解説する内容で、「歌詞のモチーフはどこから思い浮かべるのか?」という話題のとき、中村は「私は過去を書かない。未来から来るインスピレーションを歌詞にしてる」と言ったのに対して、ハナレグミは驚愕したそうだ。「逆に、僕は完全に振り返って書くんですよ」と笑いを誘った。そして一緒に中村の「そのいのち」を歌うことに。この曲は中村がお客さんから言われたいと思ってフレーズを考えたという。「脈絡もなく『いいぞ!』『大丈夫!』と言ってもらえるのって、パーっと嬉しい気持ちになるじゃないですか。みんなで歌いたいと思って作ったんです。この曲をたくさんの人に好きと言ってもらえて、演奏するたびに私自身が何回も言われてる気持ちになれて嬉しいです」と制作を振り返りつつ、曲への想いを語った。
主役をバトンタッチして、ハナレグミは眩しい言葉を朗々と歌うコーラスワークが心地よいリアレンジの「11DANDY」でスタート。
続けて「Quiet Light」では演奏に合わせて観客がクラップを乗せ、何気ない日常や身近なものを美しく思う曲が、みんなの笑顔を作った。「音楽を楽しむ準備はできてるかい?君たちの声を聴かせてほしい!」と投げかけて、コール&レスポンスからのファンキーなグルーヴにリアレンジされた「Peace Tree」では問答無用に観客全員の体が動いた。
ふと時計を見ると、午後7時20分を回っていた。そろそろ家路につく人が多いだろう。ステージが夕焼けを思わせるオレンジに染まると、人肌みたいな温かいメロディが流れる。母親がキッチンで「7時には帰宅するように」と伝える──そんな日常にある家族を描いたフレーズを聴きながら、NHKホールに向かう途中に見かけた、お父さんと小さい子供が手を繋いでいた姿を思い出した。あの2人はもう帰っただろうか。何度もライブで聴いたことがある「家族の風景」だけど、この日はいつもより優しくてノスタルジックに胸に響いた。
ハナレグミ
そして日が沈むように、ステージの色が落ちて月光に照らされたかのような照明に切り替わった。ブルージーな宮川のキーボードに合わせて、放たれたのは「ハンキーパンキー」だ。ハナレグミの優しくソウルフルなボーカルに、植松と稲泉のゴスペル調のコーラスが重なって涙腺を刺激する。「答えは一つだけじゃないんだよ」と語りかけるような永積の歌声に客席のあちこちからすすり泣きが聞こえた。意外にも、長いキャリアのあるハナレグミのライブでコーラスが参加するのは初めての試みである。「こういう歴史のある素晴らしいホールで、新しい挑戦ができることが本当に嬉しいです。それにね、これだけたくさんの人が集まってくれて嬉しいです」と心境を伝える。
「聴かせることもできるんだけど……やっぱりね、みんなを踊らせたい。けったいな踊りでもいいんです。(じゃがたら)江戸アケミさんが言ってますよね、『自分の踊り方でおどればいいんだよ』って。ここからは君の踊りが見たいんだ!君の体から出てくる、その動きを見たいんだ、俺は。一緒に行こうぜ!」と呼びかけると、それまで座っていた観客が一斉に立ち上がった。そして「独自のLIFE」でNHKホールはダンスホールと化した。
さらに必殺のファンク・チューン「か!た!!かたち!!!」でほとばしる熱狂を創出。「もう一度、あの歌姫を呼びたいと思います」と言って、中村が姿を見せた。総立ちの客席を見て「うわ、フェスに来たみたい!みんな仕上がってる」と言うと、ハナレグミが「仕上がってる!」と演奏に合わせて声を飛ばし、両者の「仕上がってる!」の掛け合いが勃発。加えて2人のスキャット合戦も始まった。阿吽の呼吸によって生まれる強大なグルーヴは、さらに大きくなり解放感を生んだ。
盛大に盛り上がったところで、ハナレグミが最後に披露したのは「光と影」。楽しい宴の終わりを噛み締めるような、シネマティックで感動的な演奏を届けた。
すぐにアンコールが起こり、再びハナレグミと中村が登場。中村が大学生の頃に制作した曲で、ハナレグミが絶賛したという「get back」をコラボした。2人の歌声は溶け合いながらも、それぞれの個性を鮮やかに響かせていた。途中、ハナレグミが居酒屋で起きた珍事件を音に合わせて歌ったり、アドリブで中村が「家族の風景」を歌唱したりと自由な世界がそこにはあった。観客がスタンディングオベーションをして、ステージの8人に拍手喝采が送られた。最初から最後まで、音楽を祝福する大きな打ち上げみたいな夜だった。
SET LIST
ハナレグミ&中村佳穂
01. 音タイム
中村佳穂
02. Opening something
03. きっとね!
04. 5 Dollar Pony Rides(Mac Miller cover)
05. Hey日
06. LINDY
07. q
08. 忘れっぽい天使
09. さよならクレール
ハナレグミ&中村佳穂
10. そのいのち
ハナレグミ
11. 11DANDY
12. Quiet Light
13. Peace Tree
14. 家族の風景
15. ハンキーパンキー
16. 独自のLIFE
17. か!た!!かたち!!!w/中村佳穂
18. 光と影
ENCORE
ハナレグミ&中村佳穂
19. get back















