DUSTCELLを「絶対に大きな舞台へ連れていく!」結成5年でたどり着いた日本武道館、会場いっぱいの歓声と祝福に包まれる

ライブレポート | 2025.03.15 18:00

DUSTCELL LIVE「ONE」at 日本武道館
2025年3月3日(月)日本武道館

1966年にビートルズが来日公演を行ってからというもの、日本武道館での単独公演は国内アーティストのひとつの到達点として周知され、多くの人々がそれに夢や憧れを抱き続けた。それはDUSTCELLも同様だった。EMAはMisumiとのユニット結成を現在の所属事務所に直談判した際に「DUSTCELLを絶対に大きな舞台へ連れていく」と宣言し、MisumiはDUSTCELL結成によりライブが可能となったことで「絶対に武道館に立つ」という夢をまっすぐに抱き続けたという。信頼するスタッフやバンドメンバー、そしてリスナーとともにDUSTCELLというひとつの大きな生物を大切に育ててきたふたりがたどり着いた日本武道館。DUSTCELLの5年間を凝縮した、嵐のような2時間半だった。

3月でありながら東京23区内でも小雪がちらついた日、武道館のステージは背面と前面にLEDモニターが設置され、その中央にEMAとMisumiのスペースが用意されている。その真上にあるトラスはDUSTCELLのシンボルマークを形作り、ステージデザインからもふたりがこれまで積み重ねてきたことを武道館規模に拡張したライブであることを予感させた。

開演時間と同時に暗転すると、オープニングSEに乗せてサポートメンバーの伊藤翔磨(Gt)、雲丹亀卓人(Ba)、及川創介(Key)、永井隆泰(Syn)、camacho(Dr)が登場し、MisumiとEMAもその後に続く。LEDモニターの幕越しに見えるステージは不鮮明であるが、EMAが右手を掲げると、大きな歓声が一斉にステージへと降り注いだ。

「DERO」のイントロに入るや否や会場は緑のライトで染まり、EMAは感情的に観客へと呼びかけた。アグレッシブでありながらもセンチメンタルなムードを醸す仄暗いトラックに乗せて、ふたりの抑えきれないほどの歓喜の高揚が伝わってくる。その後も赤い照明のなか火の玉が上がった「火焔」、白い照明のなかEMAが拡声器でラップを歌う「Heaven and Hell」、黄色い照明のなか客席から大きなシンガロングも起こった「TOUBOU」と、エッジーでダークでありながらもポップネスも持ち合わせる楽曲を、カラフルかつダイナミックに届けた。

Misumiの呼びかけからなだれ込んだ「オルターエゴ」でステージ前面を覆ったLEDモニターのスイッチが入った。MisumiのVOCALOIDクリエイターとしてのヒットソングをDUSTCELLが武道館へと連れてきたという物語はかなり感動的であるが、そんな感慨に浸る間もなく「Mad Hatter」、「NO PAIN」、「足りない」とたたみかける。その様子はさらなる理想を求めて生き急ぐ若者のように繊細で鋭く、隅々まで青い。DUSTCELLを始める前からふたりが様々な感情を抱えながら音楽や生にしがみついてきたことを、肌で感じる瞬間だった。

明るい声で「武道館パねえ!」と喜ぶEMAは「正直なんにも緊張してません」と続け、Misumiも「ひたすらに楽しいね」と興奮をあらわにする。「(当日の)リハーサルから“みんなが会場に入ったらもっと楽しいだろうな”と思ってました。みんな会いたかったよ、ありがとう!」と呼びかけるEMAは、姿は見えないものの晴れやかな表情を浮かべていることが感じられた。

その後は「LAZY」を皮切りにポップな楽曲や柔らかさを持った楽曲を中心に披露する。EMAは可憐さと感傷性を持ち合わせる声で、Misumiは楽曲ごとにタンバリンや電子ドラム、パッド、シンセサイザーなど楽器を使い分けて音色を彩る。「表情差分」「SOPPY」「LILAC」「bibouroku」とじょじょに会場は浮遊感と没入感が漂うような内観的なムードに包まれた。それは自分ひとりだけの世界に落ちていくようでもあり、DUSTCELLの抱えた痛みや悲しみに触れるようでもある。境界線が曖昧になるような感覚に観客も身を委ねた。

「雨の植物園」のアウトロでメンバー紹介をして華やかに彩ると、観客とコミュニケーションを取るEMAはペンライトの光で埋まる客席を眺めながら「(ステージの前面を覆う)LEDモニター越しに見える景色が本当にきれい」と零し、Misumiも「本当にそうだね。海みたい」と重ねてふたりで感謝を告げる。そしてあらためて多くの観客と日本武道館で集まれたことを喜んだ。

この後のセクションではDUSTCELLが持つ振れ幅をドラマチックに見せてゆく。EMAがソロ名義で発表した「PLAIN」では一言一言に命を吹き込むようなボーカルがひしひしと胸に響き、感傷的かつ情熱的なロックナンバー「Void」で空気を変えると、Misumiのソロ曲をセルフカバーした「狂う獣」、1stフルアルバム『SUMMIT』時に制作していたものの4年以上寝かせていたという最新シングル曲「SCAPEGOAT」、とたたみかけ、「Nighthawk」では同曲のフィーチャリングアーティスト・たなかがサプライズゲストとして登場。毒牙をむき出しにするような、たなかのボーカルと静かに流れる涙のようなEMAのボーカルがエモーショナルに融合し、会場を大いに沸かした。

「漂泊者」で前半セクションを締めくくると、幕間映像が流れる。“街”や“生活”の風景にDUSTCELLの歌詞があしらわれたムービーは、EMAとMisumiが抱えてきた感情と曲げられないほどの強い意志が鮮烈に飛び込んでくるようであり、我々に向けられた手紙のようにも感じられた。ふたりが音楽へと昇華してきた切なる思いが、胸のなかへと染み込んでくる。

再びステージにDUSTCELLが揃い、ロックナンバー「過去の蜃気楼」でライブはクライマックスへと突入する。ステージ前面のLEDモニターの両端には、モニターの内側にいるバンドメンバーはもちろん、Misumiと白い髪に髪飾りをつけたEMAの姿がおぼろげながら映し出された。ステージと我々の間を遮っていた“柵”の向こう側がカメラ越しであれ見えたことで、ひとつDUSTCELLの内側に触れられたような気がした。「独白」「命の行方」とキラーチューンを立て続けに披露し、一瞬映ったステージ内側からモニターという隔たりに手を掛けるEMAの姿に心を奪われたのも束の間、Misumiのソロ曲である「FAKE」のセルフカバーではEMAとMisumiがツインボーカルで絶唱する。その後も「アネモネ」「ORIGINAL」とギアを上げ続け、「みんなで心をひとつにして一緒に歌いたい」と呼びかけた「心臓」では客席から大きなシンガロングが湧き、一つひとつの言葉が身体に熱く走り抜けるようだった。

EMAは「楽しい時間はいつもの倍以上のスピードで過ぎていくとDUSTCELLのライブをやるたびに感じる」と語り、Misumiは「傷ついて傷つけるのを避けることが多かったけれど、傷ついて傷つけても人と深く関わっていくのは大切だと思うことがあって。そういう思いを『心臓』で書いたので、あなたの心に響いていたらうれしい」と頭を下げる。本編ラストは今公演のタイトルの由来となった「ONE」。穏やかさと激しさを併せ持つ歌と演奏は物語の続きを指し示す希望の光のように響いた。

アンコールで「終点」「CULT」を披露したあと、ふたりは本編ラストの「ONE」のアウトロでステージのブレーカーが落ちたことを告白する。リハでも同様のことが起きたとのことでMisumiは「いつ落ちるかわからない状況で演奏していた」と明かし、EMAが「いちばん最後といういちばんいいタイミングで落ちてくれて、みんなのパワーで奇跡が起きました! ぎりぎりな状態でライブをするのもDUSTCELLっぽいね」と笑うと、客席からは大きな歓声が起きた。

Misumiが「ONE」というタイトルについて、人間一人ひとりが孤独な存在であること、「1匹の大きな怪物を作りたい」という願いが込められていることを告げると、「今日僕には1匹の巨大な怪物の姿が見えた気がしました。この怪物がこれからもみんなの人生に寄り添ってくれるといいなと思います。今日がみんなにとって何かしらの変化のきっかけであればと思います」と涙を堪えながら呼び掛ける。EMAは個人的なことと前置きをしたうえで「心の中に“ふたりの女の子(過去の自分)”がいる」「わたしには過去の自分という最強の味方がついています。死ぬまでDUSTCELLのEMAとしてみんなに歌を届けていきたいと心から思っています」と頭を下げ、「たくさん理不尽なことがあるけれど、この日のような一瞬のきらめきや幸せを感じるために、僕らはどうしても生きることをやめられないんじゃないかなと思っています」と武道館公演を迎えられた喜びをあらためて言葉にした。

EMAが涙ながらにバンドメンバー、友人や家族、スタッフ、そしてファンに丁寧に感謝を告げると、最後に「STIGMA」を届ける。命を注ぎ込むような切実な歌、すべてを出し切るような純度の高い演奏は、会場を新たな場所へと連れ出すようなエネルギーに溢れていた。

全31曲、胸が熱くなる瞬間が多々ありながらも、それらに浸るというよりは次々と血肉にして駆け抜けていくという潔さのあるライブだった。それはDUSTCELLが傷つきながらも信念を持ってがむしゃらに生きてきたから、今もなおひたすらに未来を見据え続けているからこそかもしれない。ふたりの心臓が音を鳴らす限り、物語は続いていく。ひとつの到達点を華麗に、ダイナミックに飛び越えたDUSTCELLが、この先にどんな物語を描くのか。続編を待ちたい。

SET LIST

01. DERO
02. 火焔
03. Heaven and Hell
04. TOUBOU
05. オルターエゴ
06. Mad Hatter
07. NO PAIN
08. 足りない
09. LAZY
10. 表情差分
11. SOPPY
12. LILAC
13. bibouroku
14. 雨の植物園
15. PLAIN
16. Void
17. 狂う獣
18. SCAPEGOAT
19. Nighthawk feat. たなか
20. 漂泊者
21. 過去の蜃気楼
22. 独白
23. 命の行方
24. FAKE
25. アネモネ
26. ORIGINAL
27. 心臓
28. ONE

ENCORE
01. 終点
02. CULT
03. STIGMA

SHARE

DUSTCELLの関連記事

アーティストページへ

最新記事

もっと見る