ヨルシカ LIVE TOUR 2024「前世」、さらに総合芸術を突き詰め独創的で普遍性を併せ持つステージを体現

ライブレポート | 2024.12.19 19:00

ヨルシカ LIVE TOUR 2024「前世」
2024年12月15日(日)ぴあアリーナMM

ヨルシカの全国ツアー『ヨルシカ LIVE TOUR 2024「前世」』のファイナル公演が2024年12月15日(日)神奈川・ぴあアリーナMMで開催された。

このツアーは2023年に行われた『ヨルシカ LIVE 2023「前世」』の再演。n-bunaによる朗読はそのままで、セットリストや演出などに変更を加えたステージが繰り広げられた。前回の「前世」との大きな違いは、着席指定が解除されていたこと。開演前にボーカルのsuisが「楽曲パートに限り、立っての観覧、拍手や手拍子、声出しの制限を行っておりません」とアナウンス。「ヨルシカのライブで着席指定がないのはとても久しぶりです。私もワクワクしております」という言葉に会場から大きな拍手が送られた。

開演前のBGMはなく、鳥のさえずりが聴こえる。ステージの上手側(向かって右側)には赤い花をつけた百日紅の木。ベンチに座ったn-bunaが物語の導入である「緑道」を朗読するところからライブはスタートした。舞台は街のはずれにある緑道。今は別々に暮らしている男女が久しぶりに再会し、木陰のベンチに座り、話をする。男が独り言のような調子で話すのは、最近よく見る夢のこと。夢のなかで俺は、動物だったり、草や木だったりする。夢のはずなのに、まるでそのものになったような生々しさがある。「そう、言うなればあれだ、前世」

ここでステージ全体が明るくなり、suisとバンドメンバー(下鶴光康/Gt、キタニタツヤ/Ba、Masack/Dr&Per、平畑徹也/Pf)の姿が見える。最初に演奏されたのは、「負け犬にアンコールはいらない」。歪んだギターと犬の遠吠えからはじまるアッパーチューンだ。観客は一斉に立ち上がり、身体を揺らしたり、手を挙げて応える。スクリーンに映し出されるポップな色彩の映像を含め、華やかなオープニングだ。続く「言って。」では、suisが手拍子を煽り、ステージの上手側、下手側に移動。客席と舞台の距離をしっかりと近づけていく。こういうナチュラルな一体感を感じられるヨルシカのライブは初めてだったと思う。

「負け犬にアンコールはいらない」より

この後も、朗読と楽曲演奏を交互に繰り返しながらライブは進行した。男が“鳥”として生きた夢を語る「夜鷹」を朗読した後は「よだかの星」(宮沢賢治)をモチーフにした「靴の花火」を披露。続く「ヒッチコック」はアウトロにギターソロが追加され、バンドの生々しいグルーヴを体感することができた。
さらに「ただ君に晴れ」には〈君が思うまま手を叩け〉というフレーズに合わせて“パンパン!”とクラップが鳴り響き、一体感が強まっていく。演奏が終わった瞬間の大きな歓声も心地いい。

朗読「虫、花」を挟んで放たれた「ルバート」では、管楽器(トランペット、サックス)が加わり、スウィング感に溢れたサウンドが生み出された。タンバリンを持って歌うsuisのダンスも印象的。彼女自身もおそらく、これまで以上にステージを楽しんでいたのではないだろうか。「雨とカプチーノ」では歌詞とリンクしたアニメーションが映し出され、楽曲の世界観を際立たせる。アニメ、実写、CGを駆使した映像がさらに進化していたことも、今回のツアーの大きな見どころだったと思う。

朗読「魚」に続く「嘘月」はsuisが椅子に座って歌唱。弦カルテットの響き、月の表面をアップで映し出す映像とともに、クラシカルで荘厳なイメージが広がる。「忘れてください」では、ステージに本棚、コーヒーカップ(湯気が出ていました)、ペンが数本入ったペン立てのオブジェが現れ、ステージの雰囲気が一変。そして「花に亡霊」は、ライブ全体における最初のハイライトだった。その中心を担っていたのは、やはりsuisのボーカル。夏がもたらすノスタルジックで切ない思いを描き出す彼女の歌声には、濃密な感情としなやかなグルーヴが宿っている。自分自身の気持ちを込めるというより、楽曲に刻まれたエモーションと同期するようなボーカリゼーションはやはり唯一無二だ。

「忘れてください」より

「花に亡霊」より

5つめの朗読「桜」によって、ライブの物語全体が動き始める。雨に濡れた“私”は“彼”と一緒に、かつて生活をともにした部屋に行く。男がホットミルクを作っている間、部屋のなかを眺めているうちに、女は写真立てを落としてしまう。そこに写っていたのは、秋の狂い咲きの桜を見に行ったときに撮った2人の姿。そして「あの頃はよかった」とつぶやく彼——。

朗読がもたらす寂しさや後悔に連なったのは、シックなギターのフレーズに導かれた「晴る」。力強く打ち鳴らされるドラムは〈晴れに晴れ 空よ裂け〉からはじまる細サビでスピードを上げ、悲しさを振り切るように疾走する。ラストの〈あの雲も越えてゆけ/遠くまだ遠くまで〉はsuisの独唱。凛とした声の響きに呼応し、さらに大きい歓声が送られた。フレットレスベースの滑らかな音色、ゆったりと響く管楽器を軸にした「冬眠」も強く心に残った。〈忘れることが自然なら/想い出なんて言葉作るなよ〉というラインは、朗読のなかで描かれる物語と強く重なり、豊かな感動へとつながった。

朗読「青年」で再び男の前世の記憶——ギターとカバンひとつで、ヨーロッパを旅していた——を紡ぎ、ライブは少しずつクライマックスへと進み始める。まずは「詩書きとコーヒー」。静寂を打ち破るようなアップテンポのロックチューンだが、創作と生活をテーマにした歌詞はやはり、朗読のストーリーに込められた内容とリンクしていた。〈わかんないよ わかんないよ〉のリフレインが切ない。ヨーロッパの街並みを旅する“彼”を想起させる映像とともに演奏されたのは、「パレード」。そして「だから僕は音楽を辞めた」へ。もともとはアルバム『だから僕は音楽を辞めた』の収録曲で、音楽を辞めた主人公の葛藤を綴った楽曲なのだが、「前世」のストーリーのなかで聴くと、また違った意味合いが感じられる。美しくも激しいsuisのロングトーンを浴びながら筆者は、この楽曲が持つ奥深さ、強靭さを改めて実感させられた。

「パレード」より

朗読「前世」で“彼”と“私”の関係が明かされた後、「左右盲」。左右の感覚がわからない症状・左右盲をテーマにしたこの曲は、原因と結果を取り違えてばかりの人間みたいだな…と思っていると、〈貴方の心と 私の心が/ずっと一つだと思ってたんだ〉というフレーズが飛び込んでくる。そのシーンは「前世」の本質そのものと結びついていたと思う。

最後の演奏曲は「春泥棒」。楽曲の終盤でsuisにピンスポットが当たり、ステージ上が暗転。再び照明が当たると、百日紅の木が舞台の中央に立っていた。続いて上から花びら——もちろん百日紅の赤い花だ——が降ってくる。圧倒的なカタルシスに包まれるなか、最後に「ベランダ」と題された朗読が行われ、ライブは終了。suis、n-bunaが並んで観客に向かって頭を下げ、『ヨルシカ LIVE TOUR 2024 「前世」』はエンディングを迎えた。

「春泥棒」より

言葉、音、映像、舞台美術を有機的につなげながら、通常のコンサートや演劇、朗読劇とも異なる“ヨルシカの総合芸術”をさらに突き詰めた『ヨルシカ LIVE TOUR 2024 「前世」』。独創性と普遍性を併せ持ったステージは、この後もさらに深みと広がりを増していくはず。そのことがはっきりと実感できる、素晴らしい“表現”だった。

会場の外に出ると、空には大きな満月が。まるで「前世」の物語の続きにいるような不思議な気分になったことも記しておきたい。

SET LIST

朗読「緑道」

01. 負け犬にアンコールはいらない
02. 言って。

朗読「夜鷹」

03. 靴の花火
04. ヒッチコック
05. ただ君に晴れ

朗読「虫、花」

06. ルバート
07. 雨とカプチーノ

朗読「魚」

08. 嘘月
09. 忘れてください
10. 花に亡霊

朗読「桜」

11. 晴る
12. 冬眠

朗読「青年」

13. 詩書きとコーヒー
14. パレード
15. だから僕は音楽を辞めた

朗読「前世」

16. 左右盲
17. 春泥棒

朗読「ベランダ」

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