鈴木瑛美子、感情を全て曝け出し、それでも「みんなの笑顔のために歌いたい」と全身全霊で歌を捧げたデビュー5周年記念日のワンマンをレポ

ライブレポート | 2024.09.10 17:00

鈴木瑛美子 5th Anniversary Live 「Nobody knows」
2024年8月28日(水)渋谷PLEASURE PLEASURE

ゴスペルをルーツに持つヴォーカリストであり、作詞・作曲も行うシンガーソングライターであり、ミュージカルでも活躍中の鈴木瑛美子が、8月28日(水)に東京・渋谷PLEASURE PLEASUREにて、ワンマンライブ『鈴木瑛美子 5th Anniversary Live 「Nobody knows」』を開催した。

7歳から作詞・作曲を始め、高校1年生の時に通称「ゴスペル甲子園」のボーカル部門で優勝。“最強ゴスペル女子高生”として音楽バラエティに出演して話題となった彼女は、令和元年となる2019年8月28日(水)に自らが作詞・作曲を手がけたシングル「FLY MY WAY / Soul Full of Music」でメジャーデビューを果たした。この日は、デビュー5周年の記念日当日で、これまでの集大成のようなライブとなるのではと予想していたのだが、事前に発表されたセットリストには、どれだけコアなファンでも知らない曲名が並んでいた。のちのMCで「Nobody knows」=「誰も知らない新曲」ばかりであることが明かされた。これを“オール新曲で挑んだ意欲的なライブ”と捉えることもできるが、これまでリリースしてきた楽曲を今は1曲たりとも歌いたくないという気持ちの表れであるように感じた。

この夏は帝国劇場で上演されていた「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」に出演していた鈴木瑛美子はブラックスーツにホワイトシャツという姿でステージに現れた。オープニングは「SUN」。スイングするバンドサウンドに乗せて、時に頭を掻きむしりながらパワフルにシャウトすると、フラメンコ調の「ハンコック」では情熱的に腰を揺らして踊り、タイトなビートのブギーファンク「Follow」では頭を揺らしてパフォーマンス。歌いながら踊ったり、ステップを踏んだりする様は、まるで鈴木瑛美子が作った楽曲の主人公を鈴木瑛美子が演じ分けるショウのように楽曲ごとに様々な表情と仕草を見せた。

最初のMCでは「誰も知らない新曲ばかりを歌いたいと思います。みなさん、好きに堪能してください。思うがままに音楽に身を任せてください」と挨拶。その後は、失恋ナンバーを次々と披露した。ズボンのポケットに手を突っ込みながら、Fワードも発した「Deliverer」。“なんにもない”と繰り返し、タバコを燻らせながらよろめき、言葉にならない慟哭を発した「夜更かし煙草(シガレット)」。笑顔で踊りながらサヨナラを告げるカントリーポップ「パーセンテージ」。そして、オーセンティックなピアノバラード「残緒」から、ピアノとオルガンが併走する速いパッセージの「ナツノウタ」へ。語るような歌い出しから次第に広がりと深みを増していく歌唱力は、やはり圧巻のひと言。ともに夏の終わりの失恋ソングではあるが、彼女の確かなエモーションを込めた歌いっぷりの良さは、聴いていて胸が空くような思いがした。

ここで、ファイルを開き、セリフを語るかのように、様々な童話に出てくる狼(ヴィラン)について話し始めた。続く、ジャズナンバー「狼はいつも狼らしく」には彼女の<悪者になる>という決意が込められていた。この後の長いMCは……文字に起こしてしまうと誤解を招いしてしまう恐れもあるので割愛する。

MC の最後に「今日は、今日の私を知って」と語りかけ、ライブのタイトルにもなっているジャズナンバー「Nobody knows」をアカペラで歌い出し、「世界へ。」ではSNSの書き込みに対する怒りを劇的に表現。「使命」ではバインダーを持って語り出し、サビでは<笑顔にしたい/それこそが生きる意味>と熱唱。周りが笑顔になれるような力になりたい。それこそが生きる意味であり、歌う意味であり、それだけでいいんだと観客一人一人の心に向けて真っ直ぐにメッセージを届け、涙に溢れた顔をバインダーで隠した。「みんなのおかげで感情を取り戻せた気がします」という言葉の安知、本編の最後は、昨年のライブで新曲として歌った「Reality Show」。伝えたい思いを全て伝え切った彼女の表情は晴々としており、観客も笑顔で<WOWOW>と一緒に歌い、盛大なクラップで応えた。

本編とは打って変わり、アンコールはメジャーデビュー前に抜擢された映画『恋は雨上がりのように』の主題歌で、誰もが知っている神聖かまってちゃんの「フロントメモリー」のカバーで賑やかで陽気なムードでスタートした。観客が手をあげて左右に振って一体感をもたらすと、ステージ上の彼女はハートを送り、コール&レスポンスも実現。拍手と歓声を浴びた彼女は、「ヤッホー!お待たせ。ただいま。瑛美だよ〜」と明るく弾む等身大の声で挨拶し直し、「ずっとふざけたかったの〜」と観客に向けて手を振るなど、リラックスした表情を覗かせた。そして、「本当に不安だったの。受け止めてくれてありがとう。ほんとに大好き!」と大声で伝えると、会場を3つのパートに分けたコーラス練習を挟み、「keep you trill」を全員で手拍子しながら歌い、「みんな、まじで今日はありがとう!ほんとに幸せでした。ますます進化するから待ってろい!」と右手を高々と掲げながら宣言し、デビュー5周年記念ライブは幕を閉じた。

ファンに向かって、これまで心の奥底に隠していた不安や不満、怒りや嫉妬、迷いや戸惑い、葛藤といったネガティブな感情を全て曝け出し、それでも「みんなの笑顔のために歌いたい」という歌う意味に気づいた彼女はどんなヴォーカリスト、シンガーソングライター、ミュージカル俳優になっていくのか。ライブの翌日にはイギリス発の大ヒットミュージカル『SIX』の日本版キャストが発表され、キャサリン・オブ・アラゴン役をソニンとダブルキャストを務めることになった。彼女の進化を見守りたいと思う。

SET LIST

01.SUN
02.ハンコック
03.Follow
04.Deliverer
05.夜ふかし煙草
06.パーセンテージ
07.残緒
08.ナツノウタ
09.狼はいつも狼らしく
10.Nobody knows
11.世界へ。
12.使命
13.Reality Show

ENCORE
01. フロントメモリー
02. keep you trill

公演情報

DISK GARAGE公演

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』

【大阪】:2024年9月14日(土)~9月28日(土)梅田芸術劇場メインホール

~日本公演版訳詞提供アーティスト~
松任谷由実
いしわたり淳治
UA
Kanata Okajima / 岡嶋かな多
オカモトショウ(OKAMOTOʻS)
栗原暁(Jazzinʼpark)
KREVA
サーヤ(ラランド)
ジェーン・スー
Jean-Ken Johnny(MAN WITH A MISSION)
Daoko
TAX(MONKEY MAJIK)
浪岡真太郎(Penthouse)
ヒャダイン
松尾潔
宮本亞門
Mayu Wakisaka

 

~CAST~
サティーン:望海風斗 / 平原綾香
クリスチャン:井上芳雄 / 甲斐翔真
ハロルド・ジドラー:橋本さとし / 松村雄基
トゥールーズ=ロートレック:上野哲也 / 上川一哉
デューク(モンロス公爵):伊礼彼方 / K
サンティアゴ:中井智彦 / 中河内雅貴
ニニ:加賀 楓 / 藤森蓮華
ラ・ショコラ:菅谷真理恵 / 鈴木瑛美子
アラビア:磯部杏莉 / MARIA-E
ベイビードール:大音智海 / シュート・チェン

ミュージカル『SIX』日本キャスト版

【東京】:2025年1月31日(金)~2月21日(金)EXシアター六本木
【愛知】:2025年2月28日(金)~3月2日(日)御園座
【大阪】:2025年3月7日(金)~3月16日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

~CAST~
キャサリン・オブ・アラゴン Catherine of Aragon:鈴木瑛美子 / ソニン(東京のみ)
アン・ブーリン Anne Boleyn:田村芽実(東京・愛知のみ) / 皆本麻帆
ジェーン・シーモア Jane Seymour:原田真絢 / 遥海
アナ・オブ・クレーヴス Anna of Cleves:エリアンナ / 菅谷真理恵
キャサリン・ハワード Katherine Howard :鈴木愛理 / 豊原江理佳
キャサリン・パー Catherine Parr:和希そら / 斎藤瑠希

  • 永堀アツオ

    取材・文

    永堀アツオ

  • 東 美樹

    撮影

    東 美樹

    • ツイッター

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