COMPLEX、「日本一心」を旗印に再び東京ドームのステージに立つ!延べ10万人の同志と被災地へエールを送った2日間の軌跡を独自レポート

ライブレポート | 2024.05.28 18:00

撮影:外山繁

COMPLEX「日本一心」
2024年5月15日(水)16日(木)東京ドーム
[COMPLEX]Vo.吉川晃司 Gt.布袋寅泰
[BACK BAND]Per.スティーヴ エトウ/Dr.湊 雅史/Ba.井上 富雄/Key.奥野 真哉/Mp.岸 利至
※本公演の利益の全ては令和6年能登半島地震の被災地の復旧・復興のために寄付いたします。

義を見てせざるは勇無きなり。
と、大昔、中国の偉い人が言ったそうな。人としてやるべきことがわかっているのに、それを実行しないのは勇気が無いからだ、と。勇気の問題なのだ。
ということなら、例えば♪今 すべての夢に勇気を込めて/今 すべてをこの愛にかけてみる♪(「1990」)というフレーズを引くまでもなく、あるいは♪今ならまだ間に合うはず/昨日までを断ち切って/本当の勇気見せつけてやれ♪(「NO MORE LIES」)というフレーズを引くまでもなく、彼らが自然の脅威に打ちのめされた人たちのために自らを投げ打って愛の力を見せつけようとするのはごく自然なこと、当たり前のこと、と言うべきなのかもしれない。

5月15日と16日の両日、吉川晃司と布袋寅泰によるユニット、COMPLEXが東京ドームでチャリティー・ライブを開催した。この公演は、2024年1月1日に起こった令和6年能登半島地震の復興支援を目的としたもので、公演の利益の全ては被災地の復旧、復興のために寄付される。布袋は、この2日間に東京ドームに駆けつけたのべ10万人の人たちを“同志”と呼んだが、「日本一心」の旗の下、志を同じくして集まった人たちの熱狂は、すでに伝説化しているこのユニットの歴史に新しい伝説の1ページを加えることになった。

もっとも、その「一つになった心」の中身を探れば、被災地への思いだけではないことも明らかで、なにせCOMPLEXのライブが実現するのは13年ぶりのことなのだ。しかも、その13年前のステージは今回と同じく東京ドームでの2公演のみで、その前となると1990年の東京ドーム公演までさかのぼらなければならない。オンタイムで『COMPLEX』『ROMANTIC1990』という2枚のアルバムを聴いていてもCOMPLEXのライブを体験できなかったという人はたくさんいるはずで、その“忘れ物”をこの機会に回収しに来た人たち、そしてもちろんかつて体験した“生COMPLEX”をあらためて心に刻み込もうという人たちのエネルギーが初日の昼過ぎには東京ドーム周辺に渦巻き、ネットニュースを賑わせることにもなったのだが、もちろんそれは伝説のプロローグに過ぎない。

15日夕、定刻になると、満席の会場に低くうねるような歓声が湧き上がる。その前のめりな空気を諫めるように注意事項を伝える冷静なアナウンスが流れたのだけれど、それを掻き消すようにさらに歓声が高まったところで、ステージ両脇の巨大ビジョンに星が降り注ぎ、続いて「20240515-16」の文字が浮かび上がった。それは、言ってみれば伝説の降臨を告げる、黙示録的な表示だ。そして、2011年の東京ドームで握手する吉川と布袋の姿をはじめとする過去の名場面がモノクロの映像で次々と映し出され、駆け足でCOMPLEXのライブをおさらいして、準備は整った。

撮影:太田好治

撮影:横井明彦

あまりにも有名な「BE MY BABY」のイントロが始まり、会場の興奮はたちまち最高潮に。5万人の力強い手拍子に乗って、ステージ上手から吉川が、そして下手から布袋が登場し、ステージ中央で目と目を見交わせ、固く握手。厳かな儀式のごとき様式性は、♪愛しているのさ/狂おしいほど♪と吉川が歌い始めたところでパンと弾けた。そこで起こった、ちょっと不思議な感じのどよめきは、伝説だと思っていたことが実際に目の前で繰り広げられ始めたことに対する戸惑いと興奮のせいか。しかし、そんな不思議な感情に浸る余裕も与えることなく、生身のCOMPLEXは1曲目から最高のパフォーマンスを展開していく。その曲の最後には、吉川が渾身のシンバルキックを披露した。

“あれっ!? そんなことして、大丈夫なんだっけ!?”
吉川は外傷性白内障ということで1月に手術し、その後の経過次第では激しい動きが制限されるという報道もあったはずだが、ステージに立ってしまえばやれることを全部やる!ということか。あるいは、会場全体の高まるエネルギーが吉川に特別な力を加えたのか。
最初のMCは、その吉川だった。

「“COMPLEX 日本一心”へようこそ。大自然の前では俺たちなんてちっぽけな存在だけど、こうして集って力を束ねれば、奇跡を起こせると信じています。ともに能登にエールを!」

そこからの4曲でもう、この夜が特別な時間になることを確信した。いきなりトップギアに入った感じの「PRETTY DOLL」、布袋のフリーキーなギター・ソロが出色の「CRASH COMPLEXION」、「ギターばかりじゃなくて、キーボードもいるよ!」とばかりに奥野真哉が颯爽とソロを聴かせた「NO MORE LIES」、そして吉川のフライングVと布袋のゼマイティスが文字通り火花を散らした「路地裏のVENUS」。デジタルを基調にした音源のサウンドをヒューマンに拡張し、重厚で、同時に鋭利な切れ味を備えたバンドの演奏は、東京ドームという規模さえも圧倒するほどのスケール感だ。湊 雅史(Dr)。井上富雄(Ba)、スティーヴ エトウ(Per)、岸 利至(Mp)、そして奥野真哉(Key)という腕利きの売れっ子ミュージシャンたちを引き寄せされるのもCOMPLEXだからこそだろう。
そして、布袋のMC。

「ハロー、東京ドーム! 会いたかったぜ! 今日は能登半島をはじめとする被災地への復興支援に賛同してくれた約5万人の同志たちが全国から集まってくれました。心も体も一つになって、被災地にエールを送りましょう」

ここからのパートは、COMPLEXサウンドの、そしてこの特別なバンドの演奏の懐の深さをじっくり味わうことになった。
まずは、それまでのハードな展開から一転、体を横に揺らせたくなるようなグルーヴに乗って吉川が夏の恋のイメージを歌えば、会場にくつろいだ空気が広がる。そして、布袋が体を揺らしながら両手を頭の上に上げてハートマークを作ると、オーディエンスも同じようにハートマークを作って応える。ポジティブな愛の空気が会場を包むと、そこから曲ごとにバンドのサウンドは表情を変えていき、タフなだけではない、タフなだけでは生きてはいけない感情世界の深層に入り込んでいくようだ。とりわけ点で合わせるようなデリケートなアンサンブルが織りなす「BLUE」の世界は印象的で、それは具体的な困難に直面している被災地のみならず、現代という時代に生きる人たちの心情と深く共振したに違いない。そして、別れを歌っていながら大きな包容力を感じさせた「CRY FOR LOVE」も素晴らしかった。

撮影:太田好治

撮影:山本倫子

そうした音楽の流れのなかでバンド・メンバーの紹介の役割も果たしたのが15曲目のインスト・ナンバー「ROMANTICA」。華やかな二人のフロントマンがいなくなると、ドラムとベースが担うボトムの太さがあらためて意識されたが、この曲に限らず、随所に印象的なプレイを披露してきたパーカッションにも目が向いてしまう。ここではインダストリアルな響きでサウンドにアクセントをつけていたが、他の曲ではアフロなニュアンスを加えてサウンドに奥行きを加えたり、果ては最後の「AFTER THE RAIN」でCOMPLEXのロゴを記した旗を大きく振ってみせたり。フロントの二人を加えた7人のなかでも最年長のスティーヴ エトウは、このバンドのヒューマンな魅力を増幅させる機能を果たして大活躍だった。

「PROPAGANDA」からの畳み掛ける展開はまさに圧巻で、5万人による♪DON’T STOP MY LOVE♪の大合唱がドーム全体を揺るがし、「MAJESTIC BABY」でのコール&レスポンスで5万人が文字通り一体となり、そのエネルギーを一身に受けた吉川が「お前と一緒にエールを!」と叫んで本編のステージは幕となった。

そして、2回のアンコールで披露された4曲を含め、全24曲。COMPLEXがリリースした2枚のオリジナル・アルバムに収められた、ほぼ全ての曲を出し尽くしての2時間半。それは、あっという間と言うには濃密すぎる時間だったが、しかし全く緩むことのない、そして澄み切った意思に貫かれた、特別なとしか言いようのない時間だった。

会場の外に出ると雨。「まあ、落ち着け」と、空から言われているような気がしたのだけれど、特別な2時間半を体験した人たちはもちろん落ち着いてはいられない。SNSでは興奮した発信が行き交い、「ネタバレ注意」の表示とともに、セット・リストも明らかにされていた。

だからだろうか、2日目の東京ドーム周辺は、前日のような前のめりな雰囲気ではなく、しっかりと伝説の更新を受け止めようというような穏やかな高揚感に包まれていた。
但し、その落ち着いた空気も開演時間になると一変し、昨日と同様、満員の会場に熱い手拍子が起こり、その状況が5分余り続いた後で、ステージ両脇の巨大ビジョンに星が降り注ぎ、「20240515-16」の文字が浮かび上がった。

2日目もセット・リストは同じ。しかし、もちろん昨日とは違う。布袋がMCで「俺たちの未来のためにも」と話したのだけれど、その“俺たちの未来”にはCOMPLEXの未来も含まれているのだろうと思わせられることがしばしばあった。昨日のステージを経て、COMPLEXは進化しているのだ。抒情はより深みを増し、エッジはいっそう研ぎ澄まされている。アンコールの1曲目を飾った「1990」の演奏の最後、ステージ後方に映し出された「2024」の文字に、このロック・ユニットがまさに現在進行形の状態にあることをあらためて意識させられた。

この東京ドーム2デイズ公演の前日、オープンAIが最新のAIモデル「GPT-4o」を発表し、その翌日にはGoogleがそれに対抗するように自前のAIモデル「Gemini」の最新バージョンを発表した。COMPLEXが進化を続ける現在とは、例えばそういう時代だ。そうした最新テクノロジーにしっかりと対応しながら、しかし人間のタフなロマンティシズムをこそロック化してくれるはず。この2日間のステージは、過去の伝説の更新ということでなく、未来に開かれたそんな可能性を再確認させてくれる時間だった。
COMPLEXの二人がこの2日間に見せてくれた勇気は、そういう種類の勇気でもあったと思う。被災地へのエールはもちろん、それぞれの場所でそれぞれの生活を生きる全てのロック・ファンに未来への希望を感じさせた2日間だった。

SET LIST

1.BE MY BABY
2.PRETTY DOLL
3.CRASH COMPLEXION
4.NO MORE LIES
5.路地裏のVENUS
6.LOVE CHARADE
7.2人のAnother Twilight
8.MODERN VISION
9.そんな君はほしくない
10.BLUE
11.Can't Stop The Silence
12.CRY FOR LOVE
13.DRAGON CRIME
14.HALF MOON
15.ROMANTICA
16.PROPAGANDA
17.IMAGINE HEROES
18.GOOD SAVAGE
19.恋をとめないで
20.MAJESTIC BABY

ENCORE
21.1990
22.RAMBLING MAN

W-ENCORE
23.CLOCK WORK RUNNERS
24.AFTER THE RAIN

INFO

3カ月連続 COMPLEX WOWOW特集

 

COMPLEXが令和6年能登半島地震の復旧・復興のために開催した東京ドーム公演と、2011年、1990年に行なった同所でのライブを3カ月連続で放送・配信。

 

■COMPLEX 東京ドームLIVE 2024 ~日本一心~
8月放送・配信予定

 

■COMPLEX 20110730 日本一心
9月放送・配信予定

 

■COMPLEX 19901108
10月放送・配信予定

 

詳細はこちら

  • 兼田達矢

    取材・文

    兼田達矢

  • 撮影

    太田好治/外山繁/山本倫子/横井明彦

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