──今回のツアーに関してはどんな思いでいますか?
岩井やっぱり、すごく楽しみですね。映画もお客さんに観せてるものなんですけども、映画を観ているお客さんを見られたとしても、だいたいは映画を観てるお客さんの背中を見てるっていうスタンスなわけですよね。でも、自分が演奏をするとなると面と向かってるわけだし、しかも、自分が手を止めてしまったら、音が止まってしまうじゃないですか。恐ろしいですよね。
桑原あははははは。やめてくださいね。
椎名好奇心でやりそう(笑)。どうなるんだろうって。
岩井自転車の車輪に足を入れてみたことがあるんですよ。足を入れてもまだ走るのか、止まるのか……止まりましたね(笑)。恐ろしい目にあいました。痛かったし、ひっくり返ったし。それはそうだろうっていう。
桑原私も、車輪に足を突っ込んでみたことがあるし、実は演奏をやめたらどうなるかっていうのを試したこともあって。小学校くらいの頃に、アンサンブルだったんですけど、先生からは“メロディを弾く人はふたりいる”って言われてたんですよ。ほんとかな?と思って、1回弾くのをやめてみたら、メロディがなくなって。その瞬間、やべ!って思って、すぐに弾きだしましたけど。だから、岩井さんもやめちゃダメですよ!いいことないんで。
椎名代わりはいないですからね(笑)。私は、チキンなんで、いまは怖いですけど、いつもライブの最後は楽しかったっていう感想で終わっているのを信じようと思ってます。1曲1曲、心を込めて、その時間を楽しめれば、ジェットコースターみたいにわ〜っと終わって、“あ、気持ちよかった。明日も頑張ろう”っていう気持ちになる。それだけを信じて、練習してるところですね。
桑原私は前回の中国ツアーを振り返ると、まだメンバーを信用できてなかったなって思うんですよね。今、リハーサルの時点で、みんなのいいところが見えてきたり、成長を感じたりすることで、真剣に弾くとか、伝えるとかじゃなく、楽しむっていうことができるようになってきて。みんなの音を聴くみたいなことが、今は楽しくて。それが本番で、お客さんもいるなかでできることにすごくワクワクしてます。全然怖くなくて、すっごい楽しみです。みんなの音を聴きながらやれるんだって。
──どんなツアーになりそうですか?
岩井今日もリハーサルをやってたけど、集中していくと、本当に映画を観てるみたいな感覚になるんですよね。これをお客さんと共有できたらいいですね。
桑原岩井さん、今回、弾く曲が多いので、一番ドキドキしてるのかなって思います。
椎名スタジオに入って来るとき、ズーンとしてた。
桑原結構、無言だったりね。
岩井あはははは。ちょっとね、やっぱり。
桑原でも、一緒に合わせて、弾ききった時に、いい感じにまとまってると嬉しいんでしょうね。ひとつのライブが終わるごとに団結力がどんどん増していったらいいなって思います。それにしても、表情が重いですよね、岩井さん。
岩井みんなは慣れてるけど、本番はどういう気持ちで挑んでるのかな。
桑原リビングから寝室に行くみたいなノリで出たほうがいいんですよ。
椎名私もいつもコンビニに行くくらいの感じで、ステージに出てますね。だいたいバンドメンバーの最後に出るんですけど、本来は緊張しいなのでガチガチになるんですよ。でも、みんなが“先に行ってるね。あとでね”っていう感じで出てくれるから、ホッとします。あとでコンビニでみんなに会おうっていうような気持ちで出ていける。あとは、余計なことを考えると失敗しがちなので、頭を空っぽにして、その時に感じたままを出すのがいいなって思いますね。
岩井確かに。初めてやった時は、本当にギターを見てないと演奏できなかったので、譜面が見れなかったんですよ。
桑原暗譜してましたね。
岩井全部、記憶しなきゃいけなかった。それが大前提っていう状況だったんだけど、練習すると自然に譜面を見ながらでも手が動くようになってきたし、自分ができること以上のことはできないっていう考え方で精一杯やれたらいいなと思いますね。もともとね、すごいスーパーテクニシャンな人たちが集まって、技術を見せつけるような世界というよりは……。
桑原赤ちゃんでも安心して聴けるような純度の高い音楽ですから。
岩井そう。赤ちゃんのハートにも届くような、ハンドメイドな質感というか。そういう意味で、音作りでも、アコースティックにこだわって、機械的なものは使わずにやってきたので、ライブ1つひとつ、毎回、同じ曲でもちょっとずつ違っていいし、その都度唯一無二の演奏ができたらいい。映画やCDは完成したら完成。何回観ても、何回聴いても同じなんだけど、ライブはそうじゃないんだよなって。舞台のお芝居もそうかもしれない。そこは、自分がやってないゾーンなので、この機会に楽しめたらいいなって思いますね。
──最後にファイナル公演に足を運ぶお客さんにメッセージをお願いします。
椎名アルバム『キシカンミシカン(既視感未視感)』の曲は全部やるので、ぜひ聴いてきていただきたいなって思います。絶対に曲を知ってたほうが楽しめると思うし、岩井さんの映画のインストもやるので、岩井さんの映画をちょこっと観てくるのもいいかもしれない。ちょっとでも予習してきてもらえると、もっともっと楽しめるライブになると思いますし、アジアツアーの一番最後なので、それまでのツアーで見た景色も吸収して、全部を東京で出したいなって思います。
桑原私は自分がライブにいく時に、盛り上がらなきゃいけないっていうのがプレッシャーになることがあるんですけど、ヘクとの曲は、わざと明るくしようとしないでそのままでいるところがすごく好きで。だから、“どんな気持ちで来ても大丈夫だよ”って言いたいですね。私たちも自然体でいたいし、そのままを届けたいし。誰でも来ていいよって思ってるので、多くの方に来てほしいし、会場でお会いできることを楽しみにして待ってます。
岩井アルバムに入ってない、さらなる新曲というか、初めてやるカバーもあります。僕の映画の中からサンプリングされたものだったり、アルバムとは別の『キシカンミシカン(既視感未視感)』の曲=“聴いたことがあるはずなのに初めて聴く気がするカバー曲”もやるので、楽しみにしていてほしいですね。ヘクとパスカルは、自分の映画のフィルモグラフィーと並行して、またひとつの作品として作ってる世界で、気がつけば結成からもう5年くらい経っていて。成長したのかどうか、そういう部分も楽しんでもらえたらなと思います。僕は映画を1作品作るごとに、自分の価値観もリセットされてる気がするんですね。だから、ふたつと同じものを作れないし、自分も変わっていくしっていう中で、5年というスパンでやってきた音楽がどういうものになっているのか。僕らは表現する側で、お客さんがそれを聴いて受け止めて、どんな気持ちになるのか。その気持ちこそが“作品”なんだと思うんですよね。だから、どんな作品を作ったのかが、ライブで初めてわかるんだろうって思うし、どんな作品になったのか、皆さんの感想をぜひ聞きたいなと思います。