19歳の頃。僕はスミスに取りつかれていた。
スミスは自分にとってあまりに特別なバンドだった。きっと世界中に同じ気持ちだった人は多かったと思う。きっと今も。
レコードからCDへの移行真っ只中の30年前。渋谷の輸入レコード屋に発売が遅れいつ日本に入ってくるか分からなかったスミスのニューアルバム「ザ・クイーン・イズ・デッド」を僕は一ヶ月以上もの間、1日も空けず毎日数回輸入レコード屋にそれが入ってるか確認しに行っていた。今にして思うと本当に取り憑かれていたのだと思う。
「ザ・クイーン・イズ・デッド」
当時ニューウェーブブームの後、ネオアコースティックブームと呼ばれるものがあり、その中から登場したかのように見えていたスミスだが、最初から思い切り異彩を放っていた。弱い自分をさらけ出し、世の中に対する恨みつらみを皮肉とユーモアを込め、その負のエネルギーすべてを戦闘武器に変えて歌うモリッシー。そしてそのこの世にあり得なかった歌を、すべて今まで聴いた事もないような不思議なギターワークで見事なポップソングにしてしまうジョニー・マー。その2人の化学反応はまさに奇跡そのもので歌詞も音も世界観もそれまでにあったロックンロールとは明らかに違う異質なものだった。
それに世界中の悩める若いロックリスナーたちはすぐ共鳴し、悩める19歳の僕もそれに思い切りのめり込んだ。
その頃僕は大失恋をし、自分のやってたバンドも上手くいかず、何もかもうまくいかない状況の中、世界を呪い自分を呪い、毎日部屋にこもってスミスだけを1日中聴き続けていた。世界は狂っていてスミスだけが、モリッシーだけが自分の事をわかってくれている理解者だと真剣に思い込んでいた。スミスとモリッシーは僕のもので、スミスだけが心のよりどころだったのだ。
実際スミスは世界中に僕と同じようなあまりに狂信的なファンを多数生んでしまい、モリッシーの死の匂いのする歌詞に入り込みすぎて自殺してしまったファンも沢山いた。スミスはそういう危険なアーティストでもあった。
その翌年、ジョニー・マーの脱退によりスミスは突然解散してしまう。
僕もそのほとんど病のような状態だったスミスへの依存からやっと抜け始めた。
それからすぐにモリッシーはソロ活動を始め、全ての闇を引き受けたような負のカリスマだったモリッシーの活動や発言もどんどん明るくなっていった。
そして91年についに初来日を果たす。
武道館で初めて見た本物のモリッシーは、それまで思い入れが強すぎたせいか最初あまりに非現実的だったが、そのユーモラスなパフォーマンスと素晴らしい歌声に本当に感動した。
ただ、僕らが長い間観て憧れ続けたスミスやモリッシーのライブ映像は、ファンが次から次へとステージにどんどん上がってきてモリッシーに抱きついていくという、モリッシーとモリッシーファンにしかあり得ない関係のライブ映像ばかりだった。しかし武道館は当然椅子席だし、それを知ってる主催側の警備もモリッシーに何かあってはいけないと厳重な警備で、僕ら待ち焦がれたファンも自分の椅子の前でモリッシーを見続けるしかなく、モリッシーもなんとなく初めての日本でのそんな空間で少しやりなれない感じだった。
でもライブも最後の頃、伝説にもなってるが一人の男性ファンが警備の一瞬のスキをついて武道館のステージに飛び上がりモリッシーに見事に抱きついたのだ。すぐに警備員に取り押さえられたが、モリッシーもその男性を抱きしめ凄くうれしそうだった。僕ら集まったファン全員も自分たちが夢に見たモリッシーに抱きつくという行動を代表して決行してしまったそのファンに大歓声を送り、その瞬間まさに会場の心はひとつになったのだった。
その後もモリッシーは回数は少ないが何度か来日してくれた。
その度に僕も昔のような重い感じはなく、一人の等身大の素晴らしいシンガーとしてモリッシーを観れ、向き合えるようになった。
スミスの曲をやればファンは喜び盛り上がりまくるに決まってるが、モリッシーは昔から一貫して毎回新曲やソロ曲を中心にライブをやる。それもとてもモリッシーらしいなぁといつも思う。最新型で今も現役バリバリの自分をファンに見せる事が自分の仕事だと分かっているのだ。そして新曲を楽しそうに歌うモリッシーを観る事が、僕らファンも一番の幸せなのだ。
でもスミスの曲が始まると、突然時間は止まる。
僕もあの世界を呪い自分を呪いスミスだけが自分のすべてだった頃が突如フラッシュバックする。僕のスミス、僕のモリッシーが僕の目の前に突如現れる。
もうすぐに始まる来日公演も最新型のモリッシーと、それぞれ集まったファンひとりひとりの中のモリッシーやスミスが目の前に現れるだろう。
■参照リンク
モリッシー来日公演 公式サイト
https://www.creativeman.co.jp/event/morrissey2016/
モリッシー 公式facebook
https://www.facebook.com/Morrissey/
MORRISSEY JAPAN TOUR 2016
東京 2016/9/28(水) Bunkamuraオーチャードホール
東京 2016/9/29(木) Bunkamuraオーチャードホール
神奈川 2016/10/1(土) 横浜ベイホール SOLD OUT
大阪 2016/10/2(日) IMPホール
横山シンスケ
49歳。お台場のイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」店長・プロデューサー。その前10年くらい新宿ロフトプラスワンのプロデューサーや店長。スミスとモリッシーのTシャツコレクターでもある。一番好きな曲はやはり「There Is a Light That Never Goes Out」。東京カルチャーカルチャー:http://tcc.nifty.com/
横山シンスケ ツイッター:https://twitter.com/shinsuke4586