ついにこの日がやってきた。
2023年9月2日、伊藤蘭が東京国際フォーラム ホールAにて、デビュー50周年の記念公演を行った。
この日のライブは、8月19日の横浜・KAAT神奈川芸術劇場よりスタートした全国ツアー『伊藤 蘭 50th Anniversary Tour ~Started from Candies~』の東京公演であり、「Celebration day!」とサブタイトルも冠された、デビュー50周年をお祝いするスペシャルなステージ。この前日の9月1日は、ちょうど50年前に伊藤がキャンディーズとしてデビューを果たした特別な日なのである。
会場の一角には、The Memories of Costumeと題されたキャンディーズ時代の衣装展示があり、バリエーションに富んだキュートなステージ衣装の数々に、多くのファンが足を留め、記念撮影をする長蛇の列ができていた。そして会場はかつてキャンディーズとともに青春時代を過ごした同世代のファンから、新たにその魅力の虜になった若い世代まで、満員の観客で溢れかえり、伊藤の登場を待ちかねていた。
開演前のBGMは70年代から80年代にかけてのソウル・ミュージックが流され、ステージが暗転すると重いビートに乗せたファンキーな演奏でスタート。この日だけの特別公演のオープニングを飾るのは、インストナンバーの「OPEN SESAME」。そう、これは1978年4月4日、キャンディーズが後楽園球場の舞台に立った「ファイナルカーニバル」のオープニングを飾った曲でもあるのだ。演奏が終わると、真っ赤なライトに照らされ、黒のシャイニーなコートに身を包んだ伊藤蘭がステージに登場。観客も一斉に、真っ赤なペンライトを振り、往時を思わせる熱烈な声援で迎えた。序盤は、ファイナルカーニバルで歌われた洋楽ナンバーを歌い、これに続いて名曲「春一番」のイントロが始まると、コートを脱ぎ、グレーと黄色の迷彩柄ワンピースと黒いロングブーツに身を包んだ姿に。早くも会場の熱気はピークに達した。伊藤は2019年に、41年ぶりに歌手活動を再開、ライブも毎年開催されてきたが、ちょうどコロナ禍の真っ只中に突入していたこともあり、観客は声を出しての応援が叶わなかった時期が長く続いた。その思いの丈を爆発させるかのように、「ランちゃーん!」の大声援が会場を支配する。
「皆さんこんばんは!伊藤蘭です。50年前の昨日、9月1日に、キャンディーズでデビューしました」と最初のご挨拶。ロビーでの衣装展示に触れ、「衣装が小さい!そんなにサイズは変わってないはずなんですが」と率直な感想を語り、50年の時を経て再びステージで出会うことのできた観客に、「こんなに長い期間を経てお会いできるのは、お互いおめでとうという気持ちしかないですよね」と感謝を述べた。
このあとは今年7月に発表された3作目の、歌手活動再開から3作目のソロ・アルバム『LEVEL 9.9』からのナンバーが続く。ディスコ調の「Dandy」、シティ・ポップ風の「Shibuya Sta. Drivin’ Night」と、キャンディーズ時代とはひと味違う、ソロ・シンガー伊藤蘭ならではの魅力に溢れたナンバーが続き、ことにトータス松本&奥田民生のコンビによるキャンディーズ・オマージュ満載のナンバー「春になったら」では、客席もカラフルなペンライトで一緒に歌う姿も見られた。
この日の演奏メンバーは、音楽監督の佐藤準(Key)をはじめ、そうる透(Dr)、是永巧一(G)、笹井BJ克彦(B)、竹野昌邦(sax)、コーラスの渡部沙智子と高柳千野に加え、今ツアーでは新たにパーカッションnotch、トランペット鈴木正則が加わり、より分厚くなったサウンドを聞かせる。このメンバー構成、そして伊藤自身の作詞によるファンク・チューン「FUNK不肖の息子」を聞いていると、開演前のBGMや、R&B系の洋楽カバーとあわせ、今回のステージが特にソウルフルでファンキーな色彩を伴っていることに気付かされるであろう。都会的で、パワフルで、アグレッシヴな楽曲とパフォーマンスの数々は、50周年を懐かしくお祝いするだけでなく、今の伊藤蘭の活動と、キャンディーズ時代のステージが地続きにあることを感じさせてくれる。
歌い終えた伊藤が下手に下がり、バンドメンバーも退場すると、ステージ中央よりスクリーンが降り、懐かしいキャンディーズ時代の映像が次々と流れる。今となっては叶わない3人のステージ・パフォーマンスの数々に、往年のファンは落涙、若い世代のファンは驚嘆し、懐かしい伊藤蘭、田中好子、藤村美樹の3人の姿に、会場のあちこちからどよめきが起きる。そして、ここからはキャンディーズ・ナンバーの連打だ。
キャンディーズ応援ソング「SUPER CANDIES」のイントロが流れると、観客も待ってました!とばかりに、真っ赤に彩られたペンライトを振って「C・A・N・D・I・E・S!」の大コールが怒涛のように押し寄せる。そして、赤いミラーが付いたワンピース姿の伊藤が現れ「ハートのエースが出てこない」「その気にさせないで」「年下の男の子」などキャンディーズ時代の名曲が次々と歌われていく。
「私も、イントロを聴いただけで当時の興奮が蘇ってくるようでした!」と語る伊藤だが、まさしくファンも同じ気持ち。セットリストの一部は、ファイナルカーニバルの公演に倣って組まれていることも、長年のファンの気持ちに応えたもので、当時はステージを見ることが叶わなかった世代には、その興奮を体験できるものとなっている。
「スーさん、ミキさんと出会えたこと、2人の存在は私の誇りでもあり、自慢でもあります。改めてありがとう、キャンディーズ!」と語る伊藤。そして、キャンディーズのナンバーは「自分にとってかけがえのない宝物」と、偽らざる思いを語ってくれた。
中盤では記念すべきデビュー曲「あなたに夢中」、そしてキャンディーズ時代のライブで人気だったアルバム曲も登場。かつてステージを紙テープの乱舞で埋め尽くした、ファンとキャンディーズの熱い交流の象徴とも言える名曲「哀愁のシンフォニー」では、一斉にペンライトが振られ、ステージ上の伊藤と観客が一体となり、会場の興奮と熱狂もあの頃と同じくピークに達した。
ソロ活動再開後に放たれたアクティヴなナンバー「恋するリボルバー」では、爆音と共にキャノン砲も。会場に舞った金のテープには、伊藤からの直筆メッセージが記されており、手にしたファンにはまたとない記念となったであろう。本編最後は昨年のツアーでも披露された「美しき日々」で締めくくった。
アンコールはピンクのロングコートに、インナーは今回のツアーTシャツをデザインしたハートマークのキュートなTシャツ姿の伊藤が現れる。アンコール曲は、解散宣言をした77年、そして2年前のソロ公演でも再びその舞台に立った日比谷野外音楽堂でのステージにオマージュを捧げるナンバーが繰り出され、観客との熱いコール&レスポンスで、本編以上にエキサイティングなステージを披露。「皆さんの声が3年ぶりに聞けて、最高でした!」と改めて感謝を述べ、50周年の記念ライブは幕を下ろした。
このツアーは、9月7日(木)愛知県芸術劇場、9月9日(土)大阪・フェスティバルホール、9月30日(土)キャナルシティ劇場、そしてファイナルの10月21日(土)日比谷野外大音楽堂まで続く。50周年のメモリアル・イヤーならではの懐かしく華やかで、そして伊藤蘭の「今」を感じさせる、圧巻のステージとなった。