大江千里
40th Anniversary Celebration
『大江千里 Premium Piano Concert “Door Number "YOU"』
2023年9月1日(金) 紀尾井ホール
※レポートは昼公演に実施
9月にデビュー40周年を迎えたジャズピアニストの大江千里が2023年9月1日、東京・紀尾井ホールで『大江千里Premium Piano Concert “Door Number "YOU"』と題したピアノコンサートを開いた。ステージでは、デビューシングル『Wallabee Shose（ワラビーぬぎすてて）』や、大ヒット曲『Rain』などのポップスをジャズアレンジで演奏。80年代の曲たちに新しい息吹を吹き込んだステージでは、客席で起きた手拍子とピアノで掛け合いをするなど、ファンとの交流も楽しんだ。コンサート終盤に満員の客席を見つめた大江は「僕を見つけてくれて、みんなの大切な人生の中に僕の音楽を置いてくれて本当に感謝です。ありがとう」と一礼。ほほには涙が光っていた。記事では1日の昼公演をレポート。節目のコンサートは大江が63歳の誕生日を迎える9月6日にも同地で開催される。
室内楽の殿堂として数々の名手が立ってきた由緒ある舞台。ホールに入ると、雪の結晶をイメージして作られた美しいガラスのシャンデリアの輝くその下に、スタインウェイのピアノが鎮座し、開演の時を待っていた。
開演時刻が過ぎステージの下手にある扉が開くと、ジーンズに鮮やかなジャケットを羽織り、つば部分が黒色のネイビーのハットを被った大江が勇ましく登場。右手を大きく振りながらピアノに到着すると、持っていた楽譜をピアノの上にセット。左右の袖をまくると、鍵盤にそっと手を置いた。
両手で鍵盤をダイナミックに鳴らし始まったのは、コンサートのタイトルの1部にも用いられた『YOU』。アメリカ・ニューヨークで磨き続けているジャズの香りをまとわせた音色で聴衆を引き込んでいく。躍動する様子からは「40周年のときには、ピアノソロをめちゃくちゃやりたかった」という気持ちがにじみ出ていた。
ジャズピアニストとしてのステージでは、歌は“封印”。長く親しんだピアノだけで、情景を表現していく。『10 People, 10 Colors（十人十色）』では、左手でベースを演奏しながら右手で、変化して行く心境を表していった。左指を鳴らして始まったデビュー曲『Wallabee Shose（ワラビーぬぎすてて）』は五線譜の中を泳ぐように、気持ちよさそうに身体を揺らしながら演奏。時おり聴き手に目をやり、反応を楽しみながらピアノを奏でる大江は、ホールをニューヨークのジャズバーに変えていた。
最初のＭＣでは「紀尾井ホールから、みなさんに愛を贈ります。今日は魂を指に込めて、『歌詞が聴こえてくるようだった』と言われるような演奏をしたい。40年を共にしてきたみんなと、一緒に過ごして来た時間を駆け抜けていくような。音の旅ができるような時間にしたい。千里ポッター頑張ります」と意気込んだ。
コンサートは公演の前にブルックリンのスタジオでレコーディングしたセルフカバーと新曲で構成されたアルバム『Class of ’88』に収録した楽曲を中心に選曲。1・2部構成だが、「休憩を入れるのはもったいない」と90分ノンストップで展開していく。自身の楽曲にジャズの名曲、アート・ブレイキー＆ザ・ジャズ・メッセンジャーズの『モーニン』のフレーズを盛り込むなど、自由な発想で観客を楽しませた。
休憩なしで続いた“2部”では、「ノスタルジックな気持ちを味わってほしい」と思いを込めた、ブルージーな『Class Note』を演奏。残響が残る中で静かに始まった代表曲『Rain』は、雨が降りつける様子を鍵盤をたたく強弱などで表現。細かな指の動きは、地に落ちて跳ね返った雨粒のように鍵盤の上を滑っていた。
1960年に大阪で生まれた大江は、83年にデビュー。『格好悪いふられ方』『ありがとう』など多数のヒット曲を持つ。2007年に10代のころから憧れていたジャズピアニストを目指すため、日本での音楽活動を休止することを公表。翌年、47歳の時に音楽大学に留学した。2012年に卒業後は、自らレーベルを設立し全米デビュー。現在もニューヨークを拠点に活躍している。
大江は「アメリカでは8枚のアルバムを作りました。最新アルバムの「『Class of ’88』はアメリカのラジオチャートで、先週24位、今週は25位にランクインしていたんです。ラジオがある場所、そこはアリゾナやモンタナ、オレゴンやアトランタかもしれない。アメリカの各地で僕の曲が流れているのかと思うと、居ても立っても居られなくなる」と喜んでいた。
終盤に演奏した『Orange Desert』では会場の様子を探りながら演奏するシーンも。ピアノに合わせた手拍子が小さくなったときには、立ち上がって足でステップを踏み、手拍子をあおるなど、ジャズならではの掛け合いで楽しませた。
大江は「40周年を素晴らしい音響と、拍手の中で迎えることができて幸せでした。ありがとうございました。もっともっと自分の音楽を磨いていきたい」とさらなる飛躍を誓っていた。
アンコールでは「ワンモア！」と予定になかった楽曲をファンに届けた大江。「もっと聴きたい！！！」の声に応え、6日の誕生日にはスペシャルプログラムにて、午後3時半、午後7時から紀尾井ホールで東京公演の追加。その追加の追加公演が行われる。
SETLIST
01. YOU
02. 10 People, 10 Colors（十人十色）
03. Wallabee Shoes（ワラビーぬぎすてて）
04. Bamboo Bamboo （竹林をぬけて）
05. リアル
06. ふたつの宿題
07. 平凡
08. 格好悪いふられ方
09. 帰郷
10. Time-bouncing Fish（魚になりたい）
11. Mischievous Mouse
12. Class Notes
13. Rain
14. サヴォタージュ
15. Lauro De Freitas
16. Apollo
17. Stella's Cough
18. My Glory Days（Glory Days）
19. Akiuta（秋唄）
20. The Adventure of Uncle Senri
21. Avec
Encore
01. Boys ＆ Girls
02. (メドレー)
02. P.N.D.
