レトロリロンが最新EP『アブノーマルライフハック』で示す覚悟と進化。新体制で迎えるZeppツアーへの想い

インタビュー | 2026.09.24 18:00

──3曲目の「EMPTYISM」はどんなところから?
涼音“EMPTYISM”は僕の作った造語なんですが、“EMPTY”という単語から作りました。日本語にすると、“空っぽ主義”みたいな感じですね。自分の人生を豊かにすることって、満タンにする、みたいなイメージがあると思うんですね。よく、“満たされる”という言葉が使われますが、僕は、“これ以上満たされたら、もうこれ以上は入らないな”という感覚で生きてきたんですよ。
──“入らない”という感覚、なるほどと思いました。
涼音何か新しいものを得るためには、常に空っぽにしておくことが必要なんじゃないか、満たされちゃいけないんじゃないかという気持ちが強くありました。こういう仕事をしていると、ステージが大きくなっていったり、聴いてくださる人が増えたり、生活が豊かになったりということも起こると思うんですが、そこがゴールになってしまうと、満たされた時に、続ける意味がなくなってしまいます。自分の場合はあくまでも、“日本語を使って、自分の思ってることを表現したい”ということがスタートなので、ゴールはないものなんですよ。「EMPTYISM」は、自分に対し“満たされたくない”と宣言しているような歌かもしれないです。
──ローリングストーンズの「ノー・サティスファクション」に通じるところもありそうですね。この曲に関しては、永山さんはどんな意識で演奏したのですか?
永山メロディや歌詞を聴きながら演奏していて思ったのは、“このまま進んでもいいんだな”ということでした。自分の演奏に関しても、いつも満たされないことばかりで、どこに進めばいいんだろうと悩んだりもするんですが、この満たされてない状態が大切なんだと改めて感じながら、レコーディングに臨んでいました。楽器を始めてから10数年、レトロリロン結成から6年、いろいろなものを背負って演奏できているのは、いい環境なんだな、大切なことなんだなと感じながら、制作していました。
──涼音さんと永山さんの話を聞いて、レトロリロンが日々、着実に進化しているのは、それぞれがそういうマインドを持っているからなんだろうなと納得しました。miriさんはこの曲を演奏するにあたって考えていたことは?
miriこの曲は、このEPの中でも今を詰め込んだ作品になったんじゃないかと思っています。次の自分の課題や、自分の鍵盤との向き合い方が見えた作品でもありました。
──それはどんな課題ですか?
miriレコーディングの時に、自分の出す音の幅の広さとか、音の色の広さみたいなところで、今後はもう少しこうしていきたいなって、具体的に見えたことがあったんですよ。
──「Dear」はとてもヒューマンなラブソングです。この曲はどんなきっかけから作ったのですか?
涼音『再生のウズメ』(東海テレビ・フジテレビ系全国ネット/10月3日スタート)のタイアップ曲で、ドラマのお話をいただいてから書き始めました。ドラマについて簡単に説明すると、もともとは俳優志望で、その後、引きこもりになった女性が主人公です。その女性が便利屋と出会い、そこで働くことになり、いろいろな人と関わっていく過程での変化・成長が描かれています。原作を読んだ時に、人との出会いにフォーカスしたラブソングを書きたいと思ってしまったので、その気持ちのままに作りました。我々は人と出会うと、一旦そこでオッケーになるというか、お互いを大事にすることをおろそかにしがちですが、最初に感じた気持ちをいつまでも持ち続けるべきだと思っているので、そういう気持ちも込めました。
──声のトーンも楽器の音色もとても温かです。
涼音声の温度や音色にはかなりこだわりました。低い声の出し方とか、言葉の発音の仕方とか、かなり難しかったんですが、できる限りを尽くしました。アレンジに関しては、楽器やボーカルから温かさを抽出できるように、楽器を減らして音数を少なめにして作っていきました。

Dear(Official Music Video)

──ドラムのスネアやタムもとてもふくよかな音色で、思わずうっとりしてしまいました。
永山それはうれしいです(笑)。音色もひとつの表現方法ですし、楽曲をより良くするものとして、音色の割合は結構大きいと思っているんですよ。レコーディングの時に、ドラムの音を作ってくれるドラムテックの方がいらっしゃるんですが、“この楽曲でいちばんはまる音はなんだろう?”って、涼音と音色の擦り合わせをしました。いい音色、いい状態でドラムを叩くと、プレイも変わってくるというか、楽曲により馴染める演奏ができました。
──ピアノとオルガンの音色もとても温かくて深みがあって、包み込まれるような気持ち良さを味わいました。間奏でのピアノとオルガンの音色の重なりも、とてもいい感じです。
miriこの曲のピアノはいつもとは違う、より温かみのあるピアノの音色を選んで使っています。オルガンも「エゴ」で使ったものとは違っていて。「エゴ」で使っていたオルガンはライトな音色なんですが、この曲はハモンドの実機を使っています。ソロもその音色で録りました。多分、「アブノーマルライフハック」に収録されている中でいちばん楽器の少ない曲なんですが、ひとつひとつの楽器の音色を使って表現することができたのではないかと思います。私自身も温かみを意識して作っていきました。
──出会いがモチーフという意味では、コンサートもバンドと観客との出会いの場です。この曲をライブで歌ったら、観客のみなさんにとても響くんだろうなと想像しました。
涼音これは、ちょっと頑張らないと(笑)。
──5曲目に収録されている「ミッドナイトタイムカプセル」は、ミュージックビデオもとても楽しい内容になっています。ミュージカル的な展開も含めて、音源にも歌う楽しさ、演奏する楽しさが詰まっています。この曲はどんなところから作ったのですか?
涼音これは自分の現在地に戻るみたいな曲ですね。ほとんどの人は、子どもの頃に抱いてた夢の通りには行かず、途中で目指す道が変わったり、諦めたり、叶わなかったりするじゃないですか。僕自身も幼少期に抱いた将来の夢と今ある現実とは、ズレてはいるので、あの頃に抱いた夢を思い出しつつ、自分の今の現在地を見て、今できること、今ワクワクできることってなんだろうって考えながら作りました。タイムカプセルって、埋めるイメージの方が強いと思うんですが、僕は掘り起こす方を描きたくて、この曲を書きました。なので、掘り起こす時のドキドキ感やワクワク感をどうやってサウンドに昇華するかを考えて、カントリー&ウエスタンのスイング感も取り入れたアレンジにフォーカスしました。もうひとつ、意識したのはテーマパーク感みたいなものも出せたらということです。
──確かに、ホーンが入ることで、にぎやかさや楽しさも伝わってきました。
涼音ホーンのアレンジに関しては、本来のホーンだったらやらないようなことを僕がmiriにお願いしたので、ちょっと変わったものになりました。
──miriさんは、涼音さんのリクエストに対して、どう反応したのですか?
miri「うん、オッケー」って(笑)。いつもはトップラインのメロディをもらって、それを3本に分けてアレンジするんですが、今回は、ブラスであまりやったことのないフレーズがいっぱい出てきたので、おもしろかったです(笑)。
──ホーンそれぞれのキャラが立っていますよね。トランペットのミュートの使い方などもとても新鮮でした。
涼音他の曲とは違って、この曲に関しては、楽器だということはあまり考えていませんでした。楽器という先入観があると、アレンジが限定されてしまうので、あえて本来ならボーカルがやりそうなことをブラスにやってもらったり、ブラスがやりそうなことをキーボードにやってもらったり。
miri演奏も楽しかったです。
涼音楽器の固定観念を覆して、どこまでワクワクできるかにこだわってアレンジしました。

ミッドナイトタイムカプセル(Official Music Video)

ミッドナイトタイムカプセル(Music Video Behind The Scenes)

──ストーリー性があり、起伏に富んでいて、ミュージカル的な展開の妙もあり、最後は大団円になるところも楽しいですし、5曲の流れも、とても気持ちいいです。このEPに「アブノーマルライフハック」というタイトルをつけた理由を教えてください。
涼音直訳すると、“異常な生活の知恵”みたいなニュアンスになるんですが、5曲全部、僕の生き方や価値観にフォーカスして書いたEPになりました。多分、世間一般的に見たら、僕の生き方、考え方って、異常なんじゃないかと思うので、“アブノーマル”という言葉を使いました。
──どんなところが異常だと思うんですか?
涼音自分のやりたいことに対して、決断を迷わないところですね。普通はもっと自分を守るためにいろいろと考えて選択するのが常だと思うんですよ。でも僕はこの仕事で迷ったことがほとんどなくて。それは、自分の中で“こうだ”と決めているからだと思います。ただし、僕の価値観を他人に押しつけるつもりは毛頭ありません。あくまでも自分のために曲を書いているという意識を持っています。
──自分の作った曲を聴く人に対して思うことはありますか?
涼音聴いた人がどう受け取るかは、自由でいてほしいです。そこはずっと変わらないと思います。あくまでも僕は勝手に曲を書いて自分の考えを記しておくので、何か必要なものがあれば、自由に受け取っていただけたら、うれしいです。“ライフハック”という言葉も、そんなわがままな発想からつけました。知っておくと、便利かもしれない、みたいなニュアンスですよね(笑)。僕の異常な生活における人生の知恵みたいなものがこの5曲に散りばめられているので、好きなものを受け取ってほしいということでこのタイトルにしました。
──五角形の方位磁石をモチーフとしたジャケットも象徴的ですね。
涼音ジャケットを五角形の磁石のデザインにしたのは、停滞することなく、進むことができた作品ですし、今後も新しい方角に歩んでいくという意味を込めています。

Major 1st Digital EP「アブノーマルライフハック」ジャケット

──五角形の磁石がまず示している次なる方角はZeppツアーということになると思います。最後に、EP完成を踏まえて、どんなツアーにしたいか、それぞれの意気込みを教えてください。
涼音前回のツアーとは違う自分たちの良さは、出していきたいですね。新体制になって自分たちのやりたいことをより幅広く考えられるようになったところもあるので、ツアーをやる中で、今回の新曲たちと今までにある曲たちがどう混ざって新しい空気感を生んでいけるか、ですよね。自分たちにとっても未知数なところがありますし、このZeppツアーがバンドにとっての大事な起点になると思っています。さらに大きい会場へ進んでいくためのツアーでもあります。自分たちだけでなく、このツアーに来てくださる皆さんにとっても、次のステップに足を運べるようなツアーにしたいです。
永山Zeppツアーでは、何をするのかが大切だと思っています。心の準備をしっかりして、レトロリロンが提示したいものをお客さんにきっちり聴いてもらうことが大前提ですよね。楽しんでもらうことにプラスして、日々いろいろと思っていることを発散できたり、昇華できたり、考え方が少しでもいい方向に向かっていくきっかけになったり。そんなステージにできたらと思っています。
miri作品が進化していることに伴って、ライブも進化していると思っているので、今のレトロリロンの形を、みんなで楽しめたらいいですね。その時々によって、違う色のワンマンになっているので、また、新しい形、新しい色をお見せできるんじゃないかなと、今からワクワクしています。

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