Azsagawa 2nd ONE-MAN LIVE「PORT_A」
2025年8月3日(日) Zepp Shinjuku (TOKYO)
バンドメンバーがスタンバイするなか梓川がステージに現れ、急に登場SEが止まるとフロアからは歓声が沸く。口元に人差し指を立ててそれを静めると、おもむろに「東京心中」を歌い出した。バンドのダイナミックな音像に合わせて身体を躍動させ、エモーショナルで艶やかな歌声を響かせながらも、隙を狙って「会いたかったぞー!」「最高です!」など気さくに満面の笑みで語り掛ける。そんな彼を観客もさらに歓迎した。
その後のMCで語っていたように、彼はこのライブで「楽しんでいる自分を見てもらうこと」をテーマのひとつにしていたそうだ。その彼のスタンスが伝播してか、観客も彼と同様にこの日に懸ける高揚感を存分に開放した。これまでに多くの演者が「観客に楽しんでもらうには自分たちがまず楽しむ必要がある」と語っているが、それをここまで明快かつ大胆に身体のすべてで表現し、さらにはその姿が自然体に映る人物は非常に稀有だ。
「暑いのにみんなめっちゃ元気じゃん! 熱中症に気を付けろよー!」と呼びかけると、バンドのソロ回しに乗せてメンバー紹介をして「Disco FLO」へ。ミラーボールが回るなかで観客にコールやシンガロングを求めるなどコミュニケーションを取りつつも、ラスサビでは迫力のあるフェイクを響かせて観客を圧倒する。バンドの演奏も梓川を丁重に支えるというよりは彼を触発するようなエネルギーがほとばしる演奏で、梓川もそれに気圧されるどころか面白がりながら軽やかに戯れているのも印象的だった。彼の技術力の高さと、それを巧みに活かす音楽愛の強さを思い知る。「無料生配信」では観客の歌声も盛大に巻き起こり、それがさらに彼のボーカルの力を引き出していた。
「『端子』が挑戦作だったからライブでもやっていないことに挑戦したい」「もともと『歌ってみた』出身だからカバーも織り交ぜつつやっていきたい」と告げるとアコギを抱え、ギターボーカルスタイルで理芽の「さみしいひと」をカバーする。切れ味鋭いカッティングにはギターの腕も垣間見られ、豊かなボーカルワークは楽曲をドラマチックに彩る。原口沙輔提供曲の「霧傷」でファンタジックな世界を作ったかと思いきや、そのまま原口の代表曲をリミックスしたイントロから「人マニア」のカバーへとなだれ込む。音声合成ソフトの利点を存分に活かした楽曲を、原曲キーかつ人間ならではのニュアンスを交えてライブで披露するというとんでもない所業に、会場全体が大いに昂った。
「uni」「アネクメーネ」とボーカルでもってリズムとメロディを巧みに操り、平田義久の楽曲「渇愛論II」で観客にフィンガースナップを求めて情熱的に歌い上げると、スツールに腰掛けてアコースティックセクションへと入る。「Eye」「平均台」と内観的なムードのなか歌詞の世界を丁寧に描き、「誘導灯」で切なくも晴れやかな空間を作り出したあとは一転、「しんみりしたので夏感じませんか?」と梓川がラップと歌詞を担当した平田義久 feat.ゲキヤクの「日本の夏」のカバーを披露した。ラテンと和の要素が融合したサウンドと、湿度を感じる真夏の夜を彷彿とさせる粘度と声量を轟かせると、「友達呼んでいい?」とシンガーソングラッパーのはるみん。を呼び込み全編ラップ曲のエッジとユーモアが効いた「Mont4ge」で観客を煽る。さらにその熱を「相応」で軽やかに発散し、梓川の可動域の広さをあらためて強く印象づけた。
梓川はこのワンマンで、自分がライブを好きなのかどうか確かめようと思っていたと話す。そして「ライブは心に負担が掛かってたんだけど、この『POAT_A』はただずっと楽しみだったんだよね。それは『端子』や投稿した楽曲を聴いてくれるみんながいたからだなとあらためて感じました」と感謝を告げ、自身の音楽活動の原動力について「俺のことを信じて協力してくれるスタッフさんや、友達や家族、自分と関わる人たち、これまで活動してきた歳月の頑張りを信じたいし、その人たちのためなら頑張りたい」「そう思ったのはみんなから応援や言葉をもらったから」と語った。
さらに「本当は最近まで普通に就職しようと考えてたんだけど、ちょっと信じてみようと思って。僕が信じた道や信念、歩んできた5年間、これからの人生を応援してくれたらうれしいです」と述べると「ハッピーエンディング」をぬくもりにあふれる歌声で届け、「今さらサレンダー」「ノルカ//ソルカ」とすがすがしい空気感を纏ったまま本編ラストを走り切った。
メトロノームを模したSEから「パラノイア」でアンコールをスタートさせる。この演出を考え、SEを制作したのは梓川自身とのことで、その後のMCでも「『端子』を作ってからいろんなものを作りたくなった」と話して多岐に渡る制作欲求の高さをうかがわせた。そして自身の作詞作曲楽曲であり『端子』の1曲目を飾る「言っちゃった!」を披露し、「今日来てくれた全員の人生がこれから先、“マジか!“って言う、驚きと喜びに満ちていることを心より願っています」と告げ、『端子』のラストの「マジか!」へ。最後は「ありがとね。梓川でした。さようなら」と笑顔を浮かべ、アウトロでステージから去る。フロアにいた誰もが“マジか!”と言いたくなってしまう締めくくりで驚かせ笑わせるところも、自由で掴みどころがない彼らしかった。
するとこの日最大の驚きが待ち構えていた。終演後にトイズファクトリーからのメジャーデビューが発表されたのだ。KAMITSUBAKI STUDIO所属のアーティストでメジャー進出するのは彼が初となる。会場も大きな驚きと喜びに包まれ、ビジョンに映し出された彼の初アー写と「もっと楽しい方へ!」というコメントに熱い拍手と歓声が贈られた。
音楽家としてのルーツやスキル、表現者としての自我、天井知らずのポテンシャルを見せるだけでなく、さらにアーティストとして様々な挑戦をしていくことを表明した梓川。彼が音楽を続ける限り、彼のリスナーの人生は驚きと喜びに満ちていることが約束されているのではないか、と思うほど説得力のあるステージだった。彼のターニングポイントとなったこの「POAT_A」は、これからどんな興奮とつながっていくのだろうか。その先の景色が観たいと純粋に思った。
SET LIST
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01. 東京⼼中
02. Disco FLO
03. 無料⽣配信
04. さみしいひと(理芽 cover)
05. 霧傷
06. ⼈マニア(原口沙輔 cover)
07. uni
08. アネクメーネ
09. 渇愛論II(平田義久 cover)
10. Eye
11. 平均台
12. 誘導灯
13. ⽇本の夏(平田義久 feat.ゲキヤク cover)
14. Mont4ge feat.はるみん。
15. 相応
16. ハッピーエンディング
17. 今さらサレンダー
18. ノルカ//ソルカ
ENCORE
01. パラノイア
02. ⾔っちゃった︕
03. マジか︕