永野×HONEBONE鼎談 『トゥーフェイス』と『MAD MASK』で表現した悲しみと希望【後編】

インタビュー | 2026.09.30 19:00

近寄りたいのに近寄れない。「私にも、こういう気持ちがあった」と思っていたんですけど……(エミリ)

──HONEBONEのお2人に、『MAD MASK』の率直な感想をお聞きしたいです。
川口僕は3回観て、好きなポイントはたくさんあります。笑えるところもいっぱいあるんですけど、総合すると、最終的にはすごく悲しい映画だと思いました。特に好きなのは、主人公(永野/客を殺害し、その顔をマスクとして被る猟奇殺人鬼 )が首を吊る痛々しい場面。あそこは本当に悲しい。笑える映画なのに、ああいう描写に心を惹かれてしまうんです。
エミリ私は最初、「笑えない」と思いながら、めちゃくちゃ笑って観ていました。寂しさや懐かしさもある。あと、この映画を「分かった気」になりたくて。「私は永野さんの表現が何を意味しているのか、分かります~」みたいな(笑)。でも、永野さんの「分かった気になってんじゃねーよ」といった幻聴が聞こえてきて。近寄りたいのに近寄れない。「私にも、こういう気持ちがあった」と思っていたんですけど……

川口自分では捉えられていると思っていたら、捉えられていない。
エミリそう、その繰り返しでした。
川口細かいところも好きですね。字幕を出しすぎていたり(笑)。
エミリあれ、映画の手法じゃないですよね!
永野テレビじゃないんだからね(笑)。本来は感じさせないといけない。わざとやっている部分もあるし、いろいろな解釈をされるのが嫌だった部分もある。
川口そう、わざとやってるのか、金子(ノブアキ)さんが、バーガーを食べて悲鳴が聞こえるシーンを観て、「食べたものの悲鳴が聞こえるんだ」と思っていたら、本当に豚の映像が映されて。あれは、めっちゃ面白かったです(笑)。
永野逆の逆の逆を行きたくなったというか、説明したくなったところもあります。子供にイロハを教えている感じ(笑)。
エミリ&川口アハハハハハ!!
永野次は、もっとくっきりしたものにしたいなと。自分でもやりすぎたって思って。今度はもっとみんなと手を取り合っていきたい。
エミリえ~、そうなんだ~。

川口この映画が完成した時点では、自分的にはやりたい映画ができたという感じだったんですか?
永野いや、全然!すごい短い期間で撮って、追撮も何回もしたんですが、すごいかっこつけた言い方をすると、狙って「人の顔を剥ぐ」という話を作ったはずなのに、自分の鬱っぽさが出ていることに気づいたんです。
主人公が首吊りのシーンも、普通あそこで、一回敵と戦うじゃないですか。でも、自殺して死ぬってどういうことだよ!?というのが、面白いなと思って。あの時に自分が鬱だったということが分かってからの、編集作業が面白かった。
エミリ&川口ああ~。
永野スタッフには申し訳ないけど、これは自分の鬱症状をあらわにする映画に変えてやれっ!って思った時は、興奮した。
エミリそうだったんだ~。
永野撮影当初は、わかりやすいB級ホラー映画のつもりでした。首吊りの場面も、「戦うと見せかけて死ぬ」というギャグとして考えていた。でも編集している時に、圧力団体のプレッシャーから逃げたくて、死にたい人の話に見えてきた。そこで作品の方向を変えました。死んだら逃げ切れるかもしれないと思うことはあっても、実際にはそうもいかない。死んでも死にきれない。自分の中にあるその感じが、うまく出たんだと思います。自分のやりたいことをやったというより、「自分はきつい」ということを伝えられました。暗い話ですよね。
川口そこがいいんですよ!
──お2人が、特に印象に残ったシーンはありますか?
川口何回目かに観た時に気づいたんですけど、主人公を追い詰めるカルト組織「圧力団体」のシーンです。ドアの向こうからずっと彼らに「圧力団体、なめんじゃねーよ!」とか、いろいろ言われる。で、D.Oさん演じる団体の一員が、「鍵かけて部屋にいればいいだけか?」と言うんです。あれがめっちゃ面白くて。

永野あの台詞はD.Oの曲である「悪党の詩」のセルフサンプリングなんですけど、ハマってるよね、あの場面に。
川口台詞が状況にはまりすぎていて。
永野D.O演じる団体員は、一瞬、鍵っ子の引きこもりの人間を外に出そうとしているようにも見えるよね。
エミリなんで主人公を捕まえないんだろう?と思いますよね、追い詰めているのに(笑)。
永野なんで殺されないんだろう?と、思うよね。「圧力団体の人たちは、実はいい人たちなんじゃないか」とも見えるし、「(主人公にとって)これはいい経験になるんじゃないか」と言っているようにも見えるのではないでしょうか。
(※ちなみに前述の字幕の面白さのひとつとして、「なぜ駆逐されない?」「本当は良い人たちなのか?」などといったツッコミも、追い詰められるシーンで表示される)

性欲の話というより、そこから外れてしまった人のメタファーになっている(永野)

──エミリさんが特に好きな場面は?
エミリたくさんあります。主人公が斎藤工さん演じる謎の男への暴言を吐く場面と、その後に続く、その辺にいた男である野沢ダイブ禁止(お笑いコンビ「虹の黄昏」)さんの台詞は、腹を抱えて笑いました(笑)。でも、野沢ダイブ禁止さんがパンツに転生した瞬間、急に置いていかれる気持ちになったんです。さっきまで一番前で、少年のような心で一緒に笑っていたのに、パンツになった時、自分が女だったことを思い出す。「私は、パンツを見ても笑っていない。女なんだ」って。笑いたかったのに、そこで一瞬、男女の差を感じましたね。

永野性欲というものを、男は誰もが持っているくせに「汚い」と思っている。その感覚は作品に出ていますね。男は全員哀れで、女性はどこか聖なるものとして描いています。すごく童貞的というか、子供っぽい。作っている時は、そこまで考えていなかったけど、自分の心模様が出た映画なんです。気持ち悪いですよ、この映画(笑)。
エミリ不気味ではあります(笑)。でも、その気持ち悪さがすごく人間的でした。
永野まあ、主人公のあいつ、変態じゃないですか。もし普通に「ボーイ・ミーツ・ガール」で生きられていたら、あんなことはしないですよ。人の、それも男の皮を剥いでかぶり、その感触や匂いで射精する。相当こじれている。なので、当たり前の感情も徹底的に否定しています。「愛してるよ」という、ラブソングのサビみたいな言葉を何度も、馬鹿にするように叫ばせる。それは、主人公に普通の形で人を愛したかった絶望があったからだと思う。普通に誰かと恋をしたかったのに、それができず、ド変態の方向へ行くしかなかった。
川口普通の愛の話になりそうな瞬間があったとしても、そっちに舵を切らなかったと。
永野そうなんですよ。極論、やっぱり自分に置き換えるわけですが、僕は芸風もすごい外側の芸風だし、それはHONEBONEも同じだと思うんです。ちゃんとストレートに訴えかけるということに、ちょっと恥ずかしいなと思うところもあるわけじゃないですか。
エミリ&川口はい、はい。
永野だから、外側にいる人の話として、描きたかった。うん、やっぱりすごく悲しいんですよ。
エミリいや~、ほんとに悲しいですよ!
永野悲しいですよね。編集している時に気づきました。性欲の話というより、そこから外れてしまった人のメタファーになっている。
エミリ歴代のホラー映画の殺人鬼も、みんな寂しいじゃないですか。この映画の主人公は、その中の1人って感じ。
川口『レザーフェイス』(1974年)を見ているような哀愁がありますね。最後も悲しいです。
永野じゃあ、HONEBONEの次回作は『レザーフェイス』にしようよ。もう、『レザーフェイス』で、よくない?(笑)。
エミリ&川口ギャハハハハ!!

エミリ『MAD MASK』とは、「皮被っている」というところも、共通していますしね。
永野『フェイスオフ』とかさ、「フェイス」シリーズで(笑)。
川口ジャンルが変わっちゃいますよ(笑)。
──いつか、3人が、何かしらの形でコラボすることを期待しています!

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