──まず、近況からお伺いできますか。緊急事態宣言が出されてからの2ヶ月を橋口さんはどう過ごしてましたか。
47都道府県ツアーがちょうど真ん中で延期になってしまって。すごく悔しいですけど、命より大事なエンターテインメントはないから仕方がないし、今できることを1つ1つやろうと思って。SNSでセルフカバーをあげてみたり、作曲リレーをやってみたりしてましたね。僕がAメロだけを作った後、ミュージシャンにバトンを渡したら、結果、まわりまわって10分くらいの曲になったりして。あとは、バンドは普段からリモートでデモ制作をやることも多かったんですけど、それを表に出して、リモートレコーディングという形で曲を出したり、ツアーでやっていたセットリストを公開して、その中から何曲かをピックアップして、リモートライブをやってみたりしてました。
──「別の人の彼女になったよ」「大丈夫」「歌にするから」などのリモートライブTAKEが公開されてました。
ツアーを中断したことが大きいですね。そのツアーを楽しみにしてくれていた人に対してはもちろん、まだライブに来たことはない人に、コロナが終息したらライブに行ってみようかなって思ってもらえたらいいなと思って。ツアーが延期になってしまった時にみんなと話し合って決めたんですけど、ライブの感覚がちょっとでも伝わると嬉しいです。そうやって、何とかできることを探して、考えてはやってっていう日々を送ってました。
──心の中の動きも聞きたいです。行動に移す前にはどんなことを感じていましたか。
ライブバンドだったので、ライブができない、みんなに会えないっていうのはすごく寂しいし、悔しい気持ちがありましたね。ただ、逆にいうと、ずっと止まらずに走り続けてきたので、自分自身のこともそうだし、音楽のこともそうだし、バンドのことについても、今まで考えられなかったことを考える時間になりました。今まで気づかなかったことに気付いたりとか。いろいろと意味のある時間でもあったなと思います。
──2018年から47都道府県ツアーをはじめて、毎年、アルバムも出してきました。まさに走り続けてきた3年間だったと思うんですが、今、ここで立ち止まって気付いたことというのは。
10年前にwacciというバンドを組んで。いい曲を作るっていうことだけは誰にも負けないって思いで、1曲1曲を真剣に積み上げてきたんですけど、こういう時だからこそ聴いて欲しい曲をちゃんと作ってきたんだなって思えたんですよね。例えば、「大丈夫」とか、「宝物」とか。背中を押せる曲が今までよりもたくさんの人に届いてるような実感があったし、SNSでもその曲に関するつぶやきを見かけたり、テレビやラジオでも紹介してくださる方も増えたなっていう感覚があったんですね。そういう意味では、今まで自分たちがやってきたことは間違いじゃなかったかなっていう思いがありますね。それとは別に、「別の人の彼女になったよ」の力がすごいなって。
──MVの視聴回数が3千万回を超えてますからね。カバー動画もたくさんアップされてますし。
女性視点の2作品目「足りない」もYouTubeでMVを公開してからすごい伸びて。女性目線のラブソングは自分の強みとしてもうちょっと向き合って書きたいなと思ったりもしてます。後は、応援してくれてる皆さんの力って大きいんだなって再確認していて。こんな時でも、ツアーに来るはずだった人が励ましの声をくれたりして、そのおかげで前を向ける自分がいる。改めて、リスナーやファンの方々の存在の大きさにも気付きましたね。
──そんな中、5月16日にはコロナ禍に触れて制作した未発表の新曲「乗り越えてみせよう」のリモートライブTAKE映像を発表しました。
もともとは2月の末くらいかな。ライブが延期になった一番最初の時に、これはなにかやらなきゃっていうことで半ば衝動的に作った歌だったんですね。それを生配信のLINELIVEの時に持っていって、メンバーにその場でコードを渡して、新曲としてアンコールの時に披露した曲だったんですね。それが、「励まされた」とか、「届いたよ」っていう声をもらえたことが嬉しくて。これはちゃんと形にしたいなってことで、世の中の状況が変わっていく中で感じたことを反映させつつ、改めて、皆でレコーングして作った曲になってます。この期間だからこそできた歌だし、この期間だからこそ聴いて欲しい言葉を詰め込んだ応援歌になってます。
──歌詞は少し変わってるんですね。
そうですね。もともとは、「楽しみにしていたこともなくなって辛いよね」っていうだけだったんですけど、そんな中でも、見知らぬ誰かの命を救う医療従事者の方とか、社会基盤を支えるお仕事に就かれている方とか、自粛できずに頑張って仕事に行ってる方もいて。それから、インターハイや甲子園がなくなって、目指す場所を、負けることもできずに失ってしまった人たちもいた。時が経ったことで、いろんな立場の人がいるんだっていう、より広い視野を盛り込んだ歌になったかなと思います。
──この期間でどんな過ごし方をした人も自分の日常と重なる歌になってますよね。
うんうん。正しい情報も誤った情報も錯綜してたし、みんなが初めてのことなので、正解不正解が全くない世の中をみんな生きてきたと思うんですね。それぞれの立場があって、それぞれの価値観があって、それぞれに苦しい思いを抱えながら毎日を生きてる。だから、お互いの立場や価値観を押しつけ合わずに、思いやりを持って乗り越えていくことが一番大事なのかなって思ってました。