5月4日(木・祝) 茨城県立県民文化センター大ホール
Report:武市尚子
Live Photo:西槇太一
2017年に結成20周年を迎えたMUCCは、今年1年をかけて自らの20年と徹底的に向き合う覚悟を決め、2月から4月中旬にかけて行った、過去と対峙したアニバーサリーツアーを、つい最近Zepp DiverCity(TOKYO) 2days公演で終えたばかりである。
そんなMUCCが5月4日に、彼らの地元・茨城県立県民文化センターにて凱旋公演を行った。『家路 ~Happy Birthday to MUCC~』と名付けられたタイトルからも分かる様に、5月4日はMUCCがこの地で産声を上げた日でもある。彼らは、1997年5月4日に、島村楽器 水戸マイム店Aスタジオ(通称 マイチカ)で初ライヴを行い、その後、水戸ライトハウスを中心に活動を始めていったのである。
5月1日には、地元である茨城県石岡市の『石岡市ふるさと大使』と、同・水戸市の『水戸大使』にダブル就任したこともあり、20周年という節目と合わせ、何かとこの1年は地元に立ち返る機会も増えそうな中、茨城県立県民文化センターでのライヴは、まさに地元ならではの意味を持った特別なライヴとなった。
まず、この日最初に意表をつかれたのは会場入り口に置かれた門松だ。なんとも、ロックバンドのライヴには似つかわしくないお出迎えである。が、これにこそ、この日のライヴの狙いが隠されていたのである。
開演予定時刻から10分が過ぎた頃、会場の開演ブザーを合図に、緞帳がゆっくりと上がり、ライヴは幕を開けた。戦闘態勢で待ち構えていたオーディエンスは、そんなクラシックな始まりに、少し拍子抜けした笑い声を漏らしていたが、さらに、目に飛び込んできた、教卓と4つ並んだパイプ椅子と、天井から吊り下げられた【MUCC成人おめでとう】と書かれた看板という緞帳の向こうにあった“成人式”な景色に全てを悟り、会場は笑いの渦に包まれたのだった。
影アナによって呼び込まれた紋付羽織袴姿の逹瑯、YUKKE、SATOちが静粛にステージに並ぶ中、ミヤはド派手な赤の羽織袴姿で場内から遅れてプロレス入場し、あげくステージによじ登るという演出でオーディエンスを楽しませた。この成人式では、水戸市マスコットキャラクター「みとちゃん」からの納豆の贈呈や、“MUCC村の村長”としてポンキッキでお馴染みのムックから祝辞がのべられたのだった。
1998年に上京した彼らは、当時MUCCが走り始めたばかりの多忙な時期にあり、強行に夜行列車で帰郷し成人式に出席したSATOち以外は、自らの成人式に出席できていなかったことから、18年越しの念願の成人式となったのである。
そんな成人式後に本編として始まったライヴは、紗幕の向こうから届けられた「アカ」を1曲目にスタートした。1999年にリリースされたアルバムの中に在るこの曲からの始まりに、オーディエンスはとてつもなく沸いた。
しかし———。「アカ」が終わり、紗幕が落ち、「ファズ」のイントロが始まると、いままで演奏していた逹瑯、ミヤ、YUKKEがステージの両脇にはけ、ステージ後ろから本物のミヤとYUKKE、そして、ステージ下から本物の逹瑯が迫り上って来たのである。そう。かつてNHKホールでのライヴでオーディエンスを驚かせた完璧なダミー作戦である(※SATOちは移動不可能な為ダミーではありません)。まんまとひっかかったオーディエンスは、大きな歓声で彼らを包み込んだ。
Vo.逹瑯
Gt.ミヤ
実に、「ファズ」を冒頭に置いたセットリストで、彼らがここに立つのは2007年11月25日の10周年記念ライヴ『MUCC 10th Anniversary Memorial Live”家路”』以来10年ぶりになるが、当時は地元の大箱でのライヴに、少々身構えた様子であったが、20年という歴史を持ち帰ったこの日は、ライヴ自体をとても楽しめていた様子だった。
「ファズ」から繋げられた最新アルバム曲「絶体絶命」では、オーディエンスが曲中で声を重ねタイトルを叫ぶなど、ツアーでの成長が窺い知れるものであったのと、「昔子供だった人達へ」「砂の城」「家路」「名も無き夢」などの楽曲は、故郷を離れた彼らが再び故郷に立ち返って歌うからこその、深い郷愁感に駆られる場面もあった。
結成当初、初期のMUCCからは、英語が歌詞の中に入るなど想像もつかないところであったが、最近のMUCCの歌詞の中にはごくごく自然に違和感なく横文字が馴染んでいる。今もしっかりと根底に息づく、赤裸々に描かれる人間の業を書いた奥深い感情たちや、素晴しい情景描写は、新旧の楽曲がランダムな構成で並べられていたからこそ、大きく変化していった音楽性が導いた進化と共に、“20年の歴史と現在のMUCCの在り方”を、しっかりと感じさせてくれたのかもしれない。
Ba.YUKKE
Dr.SATOち
最新アルバム曲である、鮮やかなハイスピード曲「KILLEЯ」と艶やかなダンス曲「秘密」の間に挟まれるように届けられた、SATOちの“1、2、3、4”のカウントから始まった「昔子供だった人達へ」では、一気に木造の校舎の一室へと引き戻された、胸を締め付けられるような感覚があった。この感覚こそが、単に爆音で責めまくるロックバンドとは違う、MUCCというバンドの個性であり、魅力なのだと私は思う。
この日、ゲストキーボーディストの吉田とおるのピアノ伴奏と、ミヤのアコースティックギターに乗せて特別な演出で魅せた「砂の城」も、とても印象深いものだった。激しくディープな音を放つパブリックイメージからはかけ離れた、実にフォーキーな雰囲気で唄い上げられたこの曲もまた、彼らの原点を感じさせられた一幕でもあった。
そして。彼らは、何よりも、この日、この場所に響かせたかった楽曲であったに違いない「家路」へと音を繋げたのである。この曲も、故郷を離れた彼らが再び故郷に立ち返って歌うからこその深い郷愁感を宿したものだった。
また、アンコールではSATOちがヴォーカル、YUKKEがギター、逹瑯がベース、ミヤがドラムというパートチェンジで「世界の終わり」と「蘭鋳」を届け、その後に、MOON CHILDの「ESCAPE」、LUNA SEAの「Déjàvu」、16歳の頃に作ったという「NO!?」を届け、会場を盛り上げた。「ESCAPE」からの流れは、初ライヴの完全再現であったという。
そして彼らはこの日のラストを、最新アルバム曲の1曲目の「脈拍」で締めくくった。 “今日まで関わってくれたすべての人達に心から、心から感謝を———。ありがとう”。そんな逹瑯の言葉から届けられたこの日の「脈拍」は、この先の彼らの未来を照らすものであった気がしてならなかった。
来る6月20日、21日に日本武道館で行われる、「MUCC 20TH-21ST ANNIVERSARY 飛翔への脈拍 ~そして伝説へ~」《第Ⅰ章 97-06 哀ア痛葬是朽鵬6》《第Ⅱ章 06-17 極志球業シ終T》と題された20周年集大成ライヴでは、いったいどんなMUCCを魅せてくれることになるのだろう?
セットリスト
01. アカ
02. ファズ
03. 絶体絶命
04. World’s End
05. 狂想曲
06. KILLEЯ
07. 昔子供だった人達へ
08. 秘密
09. 1979
10. 勿忘草
11. 砂の城
12. 家路
13. ハイデ
14. ニルヴァーナ
15. オルゴォル
16. 名も無き夢
17. TONIGHT
Encore 1
01. 世界の終わり(パートチェンジ)
02. 蘭鋳(パートチェンジ)
Encore 2
01. ESCAPE(MOON CHILD)
02. Déjàvu(LUNA SEA)
03. NO!?
04. 1997
05. 大嫌い
06. 蘭鋳
07. 脈拍