the pillows
35th Anniversary "About A Rock'n'Roll Band"
2024年9月16日(月・祝)豊洲PIT
史上最も暑い夏もようやくピークを過ぎ、この日の東京はかなり過ごしやすい気候。the pillowsと縁のあるバンドから贈られた花——THE COLLECTORS、怒髪天、GLAYなどーーを眺めながら会場に入ると、ガッツリ気合いの入ったオーディエンスがフロアを埋め尽くししている。10代後半、20代くらいの観客も多く、彼らのロックミュージックが幅広い層のリスナーに支持されていることが伝わってきた。
18時を少し過ぎた頃、会場の照明が落とされると、歓声と手拍子が巻き起こる。続いてスクリーンにデビュー時から現在までの写真が映し出され、山中さわお(Vo,Gt)、真鍋吉明(Gt)、佐藤シンイチロウ(Dr)、サポートベースの宮川トモユキ(HiGE)がステージに登場。1曲目に選ばれたのは、「僕らのハレー彗星」。第1期ピロウズの最後のアルバム「WHITE INCARNATION」(1992年)の収録曲だ。いきなりのレア曲に驚きつつも、〈ハレー彗星が僕らの前にまた/その姿を現わす日まで/ずっと ずっとずっと二人でいたいよ〉という歌詞に強く心を惹きつけられた。いつか終わりが来ることはわかってる。でも、それまでは一緒にいたいーーそんな心情を描いたこの曲は、35周年ライブのはじまりにピッタリだ。さらに1996年のシングル曲「TRIP DANCER」、2018年のアルバムのタイトルトラック「Rebroadcast」を披露。最初のMCで山中は「今朝、目を覚ましたら、35年経ってました!不思議だ。君たち、まだ俺たちに飽きてないんだね。最初に言っておきたい。ありがとう!」と感謝の言葉を伝え、オーディエンスは大歓声で応える。やはり今日は特別な夜になる。そんな高揚感が会場全体を包み込んでいく。
この後も様々な時代を行き来するようにライブは進行した。2011年のシングル曲「Comic Sonic」、アルバム「Smile」(2001年)収録のアッパーチューン「WAITING AT THE BUSSTOP」、アルバム「MY FOOT」(2006年)収録のロックンロールナンバー「空中レジスター」。どの曲も始まった瞬間にフロアが沸き立ち、サビでは大合唱が発生。バンドとオーディエンスの結びつきの強さがダイレクトに伝わってきた。そして「今夜披露する曲のなかで、もっとも古い曲。90年に書いたのかな?」と紹介されたのは、「ぼくは かけら」。〈僕のやり方じゃ/誰も認めないのさ〉という孤独をポップなロックンロールに昇華したこの曲は、the pillowsの原点の一つと言えるだろう。
さらに絶望と希望が絡み合う夜を映し出す「ノンフィクション」、〈ここじゃない世界へ逃げよう〉という歌詞が響く「バビロン 天使の詩」、そして、〈 キミの夢が叶うのは誰かのおかげじゃないぜ〉というサビでシンガロングが巻き起こり、山中がオフマイクで“ありがとう!”と叫んだ「Funny Bunny」。何度もライブハウスで体感した名曲だが、この日はやはり格別だった。世の中に馴染めない、ほとんど誰とも気が合わない。少しでも自分らしくいられる場所を目指すしかないーーそんな違和感を抱えたまま、日々をなんとかやり過ごしている人(もちろん筆者を含む)にとって、彼らの音楽はどうしても必要不可欠なのだ。
怒髪天が贈ってくれた花束に“35周年!誰かのおかげじゃないぜ!”というメッセージが書かれていたみたいです……というエピソードを明かしたあとは、「この日に相応しい曲だと思う。けっこう久しぶりにやるのかな」と「ハッピー・バースデー」を披露。〈記憶の中を歌が流れている〉というラインが聴こえてきた瞬間、ピロウズに関する数多くの思い出が一気に蘇ってきて、勝手にエモくなってしまった。
独創的なギターアンサンブルと直線的なビートがぶつかる「サード アイ」からは、このバンドが持つ色彩豊かな音楽性を体感できるシーンが続いた。意外性に貫かれたコード進行とダイナミックなメロディが絡み合う「Rush」、鋭利なギターフレーズが空間を切り裂き、スピード感に溢れたボーカルが真っ直ぐに届く「LAST DINOSAUR」。オルタナティブロック、パンクロック、ブリットポップなどを吸収し、独自のロックンロール/ポップミュージックへと昇華してきたthe pillowsの音楽性は完全に唯一無二。歌謡曲的でもなければ洋楽の真似でもない、モダンで普遍的なメロディラインの素晴らしさにも改めて胸を打たれた。
「人生、思い通りに行かないこともたくさんあるじゃないか。けど人間は、プライドを捨てたらおしまいなので。自分の心を上手くコントロールして、揺るぎない情熱を持って、王様になろうぜ」という言葉に導かれた「王様になれ」、観客のハンドクラップとドラムのビートが先導し、この日、いちばんデカい大合唱が響き渡った「RUNNERS HIGH」、真鍋が楽器を立てた状態で演奏した「Calvero」が続き、フロアの興奮の度合いはさらに高まっていく。