スペシャルライブ『Golden Circle Special いつかの僕らの夢、星になれたかな』をレポート!

ライブレポート | 2023.03.17 18:00

Golden Circle Special いつかの僕らの夢、星になれたかな
2023年2月21日(火)日本武道館

実に贅沢な時間だった。出演者それぞれの個性的な歌声とリスペクトあふれる麗しいハーモニーの数々を堪能した。2月21日に日本武道館で開催された『Golden Circle Special いつかの僕らの夢、星になれたかな』。この『Golden Circle』は、ミュージシャン・プロデューサーである寺岡呼人の主催するライブイベントで、第1回目が開催されたのは2001年だった。その後、不定期で開催され、前回(『50歳/50祭』)は2018年に寺岡が50歳となったタイミングで行われたので、5年ぶり、寺岡55歳での開催となる。

『Golden Circle』の大きな特徴になっているのは、さまざまなミュージシャンが世代を越えて参加することだ。今回は寺岡の盟友であるMr.Childrenの桜井和寿に加えて、マカロニえんぴつのはっとり、緑黄色社会の長屋晴子という多彩なメンバーが顔を揃えた。ホストの寺岡はフルで登場し、ボーカル、コーラス、ギター、ベースと八面六臂の活躍。ゲストの3人は曲によって登場して、ボーカルやコーラスで参加するスタイルになっていた。バンドは、芳賀義彦(Gt)、林由恭(Ba)、林久悦(Dr)、ミトカツユキ(Key)、松本圭司(Key)という寺岡が信頼を寄せるメンバーだ。この日の武道館はステージの後ろ側にも客席が設置されていて、ステージの上手と下手がスロープになり、そのままステージを取り囲む回廊型のレイアウトになっていた。

大きな歓声に迎えられて、4人が登場したステージ上の景色は壮観だった。いつもはセンターに立っている人間が複数いることで、それぞれの立っている場所すべてがセンターに見えるからだ。どこを観ていいのか、観るのが忙しい。全員が参加しての「星になれたら」は、このイベントのテーマ曲のように響いてきた。会場内のハンドクラップの中で、最初に桜井がリードボーカルを取り、続いて、寺岡、はっとり、長屋の順で歌っていく。なんという豪華なリレーだろう。4人がハモるシーンもあった。4人の歌声が合わさることで、<動き出した 僕の夢><高い山越えて><星になれたらいいな>というフレーズの説得力がさらに増していると感じた。「星になれたら」はMr.Childrenの2ndアルバム『Kind of Love』収録曲だが、Mr.Childrenデビュー前の1991年に、寺岡のソロツアーに桜井が参加した時に2人が共作した曲だ。つまり2人の交流の原点の曲。31年の時を越えて、今もこの星の輝きが変わらないことを実感するみずみずしい歌と演奏だった。

全員参加の曲もあれば、4人のソロ曲もある。それぞれのオリジナル曲もあれば、意外なカバー曲もある。サプライズの連続だった。バンドがイントロを演奏した途端、どよめきが起こる瞬間が何度もあった。ホストの寺岡は、できたばかりの新曲「馴染みの店」を披露した。30年以上にわたって音楽を作り続けている寺岡と、長年料理を提供し続ける馴染みの店とを重ね合わせるような内容の歌だ。懐かしさのにじむジェントリーなボーカルでありながら、音楽への揺るぎない思いも伝わってきた。星にたとえるならば、夕暮れ時の一番星みたいな歌声だ。55歳になったばかりの彼の等身大のリアルな歌が染みてきた。スチールギターを始めとして、70年代のフォークロックのテイストを備えたバンドの演奏も味わい深かった。

メインボーカリストが変わるたびに、会場内の空気の色合いも変わっていく。それぞれの歌い手の表現力の素晴らしさと歌のパワーを堪能した。はっとりがアコースティックギターを弾きながら、マカロニえんぴつの曲を歌うと、観客がハンドクラップで参加して、会場内に親密な空気が充満した。伸びやかさと温かさと大らかさを備えた歌声によって、会場内をひとつにしていく。はっとりの歌声を星にたとえるならば、確かな光が真っ直ぐ届いてくる一等星のようだ。桜井がアコースティックギター、寺岡がベースで参加した曲もあった。桜井からのリクエスト曲だ。はっとりの歌声に桜井がハモりを入れている。複数の人間の奏でる音が融合して化学変化を起こしていくことが、音楽の大きな醍醐味のひとつだが、この武道館ではミラクルな化学変化がたくさん起こった。『Golden Circle』とは音楽実験室でもあるのだろう。

この声とこの声がハモると、こんな風合いになるのか。新鮮な驚きを何度も感じた。たとえば、長屋と桜井のハーモニー。長屋の凛とした歌声と包容力を備えた桜井の温かな歌声の融合のなんと見事なことか。長屋が単独で歌い、寺岡がエレキギターを弾いた曲では、観客のハンドクラップの大きさがとんでもないことになり、会場内が高揚感と一体感とで包まれた。長屋の歌声を星にたとえるならば、変光星のまたたきだろうか。リズミカルかつカラフルに色彩が変わっていく。こちらは目を凝らし耳を澄まして、ただただ引きこまれるばかりだ。出演者たちが上手のスロープを上って、回廊を一周する場面もあった。ステージ背後の観客との至近距離でのふれあいもあり。4人が登場している時には、それぞれが前後左右、全方位を見事にフォローしていた。

桜井の歌うMr.Childrenの曲は、どれも特別な輝きを放っていた。Mr.Childrenの演奏とはまた違うバンドサウンドの中での歌声が新鮮に響いた。この曲を歌ってくれるのか。サプライズを通り越して、感謝の念が会場内にあふれていた。桜井の歌声を星にたとえるならば、天の川だろうか。星であり、川でもある。そんな深さと広がりを備えた歌声だ。感謝の念が溢れていたのは客席だけではない。ステージ上のミュージシャン同士の間からも感謝の念や喜びが伝わってきた。互いが互いをリスペクトして、歌い、奏でていた。

「この4人で音を奏でるって、素晴らしいなと思います。音楽って、どんなことがあっても、みんなをひとつにできる力があるんじゃないかと感じることができました」と寺岡。さらに「初期の頃に僕と桜井で作った曲があります。音楽という友情がずっとずっと続いていくんじゃないかなという思いで作った曲です」との寺岡からのMCに続いて、4人全員での「フォーエバーヤング」が披露された。1コーラス目ははっとり、桜井、寺岡、2コーラス目は長屋、桜井、寺岡の順で歌がつながっていく。<いつかきっと僕らはまた出会える>というフレーズに胸が温かくなる。「聴かせて、聴かせて、武道館!」と桜井がマイクを出していた。大きなハンドクラップが起こっていた。ミラーボールの光が場内を照らす中で、ラララのシンガロングが、4人から会場内の全員へと広がっていった。

「31年前に桜井と一緒にツアーに行く時に作ったのが『星になれたら』です。星って追いかけても追いかけても届かないし、音楽も同じように果てがないと思っています。その星を追いかけながら、これからも音楽を続けていきたいと思っています」と寺岡。
「この曲をタイトルに掲げてスペシャルライブを行えることに感慨深いものがあります。温かい拍手も温かい歌声も最高でした」との桜井からの言葉もあった。

音楽によってつながることのかけがえのなさとともに、夢みることの尊さを実感した夜となった。『Golden Circle Special いつかの僕らの夢、星になれたかな』という疑問形のタイトルに対して、「31年後の君たちは、キラキラ輝いていたよ」と返したくなった。思いのこもった歌の数々がもたらした輝きは、夜空の星の輝きにも似ていた。しかも単独の星の輝きではない。星々が集った星座の輝きのように、さまざまな角度からさまざまな世代を照らしてくれるようだった。

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