もはや歴史ではない——。そんなキャッチフレーズがつけられた5thアルバム『Vキシ』から約2年3ヶ月ぶりとなる6thアルバム『ムキシ』をリリースしたレキシ。「GET A NOTE」(フジテレビ系テレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」のEDテーマ)で“これは妖怪の歌じゃないか?”と突っ込まれ、「KATOKU」(ダイハツ「Thor(トール)」CMソング)では“世襲政治を斬った”と騒がれ、前シングル「S&G」には稲穂の妖精がテーマの昔話風ポエトリーリーディング「BANASHI」を収録。そして、横浜アリーナ2days&大阪城ホール公演を含む全国ツアーには『まんま日本ムキシばなし』というタイトルがつけられた。レキシは日本史をテーマにしたファンクバンドではなく、ムキシばなし(昔話)の語り部となるのか!?レキシこと池田貴史を直撃した。
──もう6枚目ですよ。
ねえ。どうですか、むしろ。6枚もやると思ってなかったから。思ってた?みんなは。
──あははははは。いや、思ってなかったです。
思ってないでしょう?俺もよ。ただもうねぇ、えらいもんで、曲を書いてても、前はちょっと日本史とか歴史とか思って意識してたけど、今もう全然そんな意識しなくても書ける。曲を書こうって書けば普通にレキシの曲ができるようになってきたの。
──それはどうしてですかね。
やり続けたから。ずっとやってたら身体に入ったみたいな。いろいろ試行錯誤したからかもしれない。最初は全然違うこと書いて、そこから歴史に寄せようとか。もうずーっと考えてたから、ポンって抜けたんでしょうね(笑)。前よりは意識しないで書いてるし、もっと言うと、ワードだけ使ってて、全然歴史じゃない曲もあるし。でも、逆に言うと、もともとファーストアルバムは、ただ歴史のワードを連呼してるだけ、みたいなのもあったから。そういう意味ではちょっと力が抜けたのかもね。
今回こそ、<もはや歴史でもない>だね。池田だよね。
──前作のキャッチコピーが「もはや歴史ではない」で、その後のシングルインタビューでは「もしかしたら次のアルバムは歴史に関係ない曲が入るかもしれない」とおっしゃってました。
うん。今回こそ、<もはや歴史でもない>だね。むしろ完成されたね。歴史じゃないね、これ。
──あはははは。歴史じゃないとするとなんでしょう?
池田だよね。
── 一周しましたね(笑)。
うん。一周して池田になった(笑)。ただ、ずっと作ってるからね。「KATOKU」(’17年4月発売)より前に作った曲もあるし、前の前のアルバムの時に作ってた曲もあったりするから、結局は6枚目というよりも今回!って感じ(笑)。
──(笑)。もっとも歴史じゃない曲をあげるとすると?
例えば「GET A NOTE」はみんなに“歴史じゃねーじゃん”って言われたもん。俺的には、鬼太郎と日本史を結び付けようと思って絞り出したのが下駄だったのに、あっさり“もうこれ日本史関係ないじゃん。ただの鬼太郎の歌じゃん”って言われて。“あ、そっか”って逆に思ったくらい。
──あはははは。ただ、長年、レキシを愛聴してる身としては、脳裏に浮かぶのは、やっぱり武士なんですよ。
そうでしょ?
──ピアノの響きが夜の雨っぽいですし。
そうそうそう!や、ほんとまさにそれよ。吉田東洋が暗殺されるシーンみたいな。それこそお城から帰るところなの。
──ただ、PVが義経と弁慶だったじゃないですか。
それはもう高下駄といえば、義経と弁慶だから。武士ってあんまり下駄履かないんですよ。雪駄なの。調べたら田下駄しかなくて。そうなるともうヴィジュアルイメージ的に義経と弁慶だなってなって。
──レキシには「LOVE弁慶」という名曲があるじゃないですか。
それもみんなに言われる……。これ「LOVE弁慶」じゃんって。まぁ、鬼太郎聴いて入った人は「LOVE弁慶」なんか知らないからいいの(笑)。
──(笑)では、本作の中で一番古い曲ってどれですか?
「なごん」と「出島で待ってる」は『Vキシ』を作ってる時かな。2016年の春くらい。
──じゃあ、清少納言をテーマにした「なごん」は紫式部を歌った「SHIKIBU」と同じタイミングで作ってるんですね。
そうそう。「SHIKIBU」のアンサーくらいのイメージですぐ思いついて。<yes!清少納言!>って連呼してるところは、ドラムとベースだけで入ったプリプロリハで思いついてできたんだと思う。「SHIKIBU」のアンサーでいいなって思ってたんだけど、歌詞がまったくできなくて。で、毎回、足軽先生(いとうせいこう)とアルバムのミーティングするんだけど、足軽先生が“清少納言って元祖サブカルの人だよね。人が全然食いつきもしないものを好きって言った一番最初の人だ”って言ったときにイメージが湧いたの。それまでは“紫式部と仲が悪い”とか“春はあけぼの~”とか、上辺だけしかイメージできてなかったの。それが急に別の人物になったんだよね。図書館で「枕草子」を持ってる人になったっていうか。“あいつ好き”って言うと、まわりの同級生が“ええ~”っていうような人のイメージがすっげえ湧いて、パッと書けたの。それはやっぱり足軽先生のおかげ。ほぼ足軽先生が書いたと言ってもいいぐらいのイメージをもらった。
──引きこもりの子のラブソングにも聴こえますね。
そうそう。真っ暗な部屋から飛び出そうとかね。だから自分の殻からも出るみたいな感じもあるし、好きなものは自信を持って好きと言おう!っていう感じもあるし。でも、今はそういう時代だしね。サブカル、もしくはオタクがメインカルチャーみたいなもんだから。そういうのもあるし。やっぱ好きな子への思いみたいなのもありますね。
西郷隆盛の曲はずっとかけなくて、俺の中で鈴木亮平くんを書こうと思って書いたらすぐ書けた
──「出島で待ってる」も同じ頃にできたんですよね?
「出島で待ってる~」ってハモが上がってくのが最初にできて、気持ちいいなみたいな。で、実は一番最後の「5時まで待ってる」が最初に出て(笑)。5時までかい!みたいな。
──恋い焦がれているようで、5時までしか待ってないんですよね?(笑)。
5時になったら帰るんかい!っつーね。そのツッコミがいいの。それを歌いたかったんだけど、ただこれ、現代だよねぇ?みたいな(笑)。待ち合わせ場所が出島っていうだけで、あれ?去年の歌??みたいな(笑)。一応出島で塞げられたから会えなくなったっていう意味合いをつけたんだけど、サビだけでけっこうドラマティックだし、ハモが気持ちよかったから、ま、いいかって。
──(笑)一応、江戸幕府が始めたものですし。これは失恋ソングと言っていいですか?
俺、なかなか失恋ソング書けないから、アルバムに1曲くらいは入る貴重な失恋ソングだね。歌入れの時も何の歌?って思いながら歌ってたけどね。これ何の話なんだろ?って(笑)。やっぱ俺こうやって漠然と書くのが上手なんだね~。
──あはははは。自分で言った(笑)。
だって、〈曇り空はこんなにも高く儚くて夢の中でまた会えるから〉……どゆこと!?みたいな(笑)。でもなんかわかるでしょ?未練を感じるでしょ?だからそういうことなんだよねぇ~。すごいよね!
──すごいですね(笑)。また、今回は先ほどの「SHIKIBU」と「なごん」のように、対になってる曲が多い印象なんですよね。「出島で待ってる」と対になるような「SAKOKU」もありますし、ちなみに「マイ会津」は……。
まさに対比ですね。『SEGODON』の。