ベストアルバム『ゆずイロハ』発表、ドーム・ツアー、アジアツアー、EP作品2週連続発表、新メンバー2018人とのコラボレーション、NHK紅白歌合戦の大トリ出場などなど、20周年のアニバーサリー・イヤーとなった2017年のゆずの活躍はめざましかった。4月4日リリースのニューアルバム『BIG YELL』はそうした密度の濃い21周年の活動の成果が見事に反映された作品となった。いい歌とハーモニーというゆずの基本を大切にしながらも、多くの人々の音楽のパワーを結集して、新たなゆずの音楽の可能性を切り拓いている。この新作と4月29日にスタートする『YUZU ARENA TOUR 2018 BIG YELL』について、ふたりのコメントを紹介していこう。
──20周年のアニバーサリー・イヤーとなった2017年はどんな1年になりましたか?
北川悠仁
20周年イヤーをどんな年にするのか考えていたときに、20年かけて実った“ゆずの実”みたいなものをファンの皆さんと味わい尽くして、僕らもこれまでの感謝の気持ちを伝えられるような1年にできたらと思っていました。結果、皆さんのおかげで叶えられたんじゃないかと感じています。これは予想してなかったんですが、ゆずとして新たな種を見つけられて、植えることもできました。新曲タイアップのお話をいただいて、アニバーサリーイヤーの中で楽曲をたくさんリリースできたこと、夏フェスやアジアツアーなどで、いままでゆずを聴いてなかった人、直接届けられなかった人たちのもとに、たくさんゆずの音楽を届けられたこともありがたかったです。特に僕の中で大きかったのは大みそかの紅白歌合戦での大トリ出場ですね。お茶の間の皆さんに、改めてゆずの曲を届けられたんじゃないのかなと思います。
岩沢厚治
去年はベストアルバム『ゆずイロハ』の発売、それを引っさげてのドームツアーだったり、夏フェスやホールツアー、アジアツアーだったり、本当にたくさんのライブを行うことができました。過去最大と言っていいほど一年を丸々使って、20周年のお祭りをファンの皆と味わえたんじゃないかなと思います。それに伴い、今まで出演したことのなかった情報番組や媒体さんにもプロモーションの一環としてお邪魔させてもらったり、多忙でしたが、充実した1年でした。
──新作『BIG YELL』は 「TETOTE」「愛こそ」「カナリア」「タッタ」「恋、弾けました。」「歌エール」などの超強力なタイアップ曲も初披露の新曲もアルバムの一員として見事に馴染んでいます。1枚のアルバムにまとめる上での工夫しどころというと?
北川
「うたエール」という曲ができるまでは、全体のコンセプト感みたいなものはあまり決めずに、これまでのゆずになかった、ゆずを自分たちで打ち破るような、新たな領域に行ける曲を意識して、全身全霊で挑んで曲作りをしていきました。20周年で大きなマルをつけられたので、21年目となる新たな船出のような作品になったと思うし、アニバーサリー・イヤーの中ですごく近くに感じることができたファンの皆さん、リスナーの皆さんのことも思い浮かべながら作品を作ることができました。
岩沢
ホールツアー前に出した2枚のEP盤がとても大きな挑戦だったし、それを経ての今回のアルバムの収録曲たちなので、ある程度曲の全貌というか。去年1年間やってきたことへの総決算、それが詰まっている印象はあります。その名の通り、アルバムをめくるような選曲になっていると思います。
北川
アルバム『ゆずえん』とか『ゆず一家』を作った頃にすごく似ているというか。あの頃って、皆さんにとっては新曲でも、僕らにとっては路上ライブで定番曲になっていたものを収録していたんですね。今回の「愛こそ」「カナリア」「タッタ」の3曲は、去年1年かけてライブで研ぎ澄ましていって、僕らのものからお客さんのものになり、そしてまたここでアルバムに帰ってくるという。それが、初期の路上ライブをやっていた感覚に近いんですよ。そうやって曲を発表できるというのは、とても健全なことで、ミュージシャンとしては嬉しい形なのかなと思います。
──1曲目の「聞こエール」も2曲目の「TETOTE」もゆずと一緒に新しい冒険の旅の始まりを体感できる曲です。
北川
僕は当初、このアルバムは「うたエール」から始まっていく作品なのかなと思っていたんですけど、MVの撮影、CM公開、配信リリースなどが進行するなかで、「うたエール」という曲の存在感がどんどん大きくなっていって。アルバムの頭に持っていくと、ある意味「うたエール」だけで満足してしまうくらいの曲だなと思ったんです。それなら逆に、アルバム「1〜ONE〜」の「栄光の架橋」ではないんですけど、最後に「うたエール」で締めてもらう形にシフトチェンジしました。アルバムの全体的なコンセプト感が“船出”という形で出てきて、もうひとつハッキリとコンセプト色を出す曲がほしいと思い、インタールードをさらに発展させた曲として、「聞こエール」を作りました。1曲目に置いたことで、聴いているリスナーに今回の世界観がすっと入っていくのではないかなと思いました。
──「TETOTE」は元々、歌舞伎版「ワンピース」主題歌への楽曲提供という形で2016年に発表され、その曲をゆずとしてセルフカバーしたものです。改めて制作のいきさつを教えてください。
北川
そもそもは、古くからある伝統芸能・歌舞伎と、現代の日本カルチャーの象徴でもある「ONE PIECE」をかけ合わせる面白さにすごく共感できたので、友人である(主演を務めた)市川猿之助さんのために、曲を書こうと思ったんです。そのときは、ゆずが歌うとゆず色が強く出てしまうかなと思って、楽曲提供という形にしたんです。でも、いざ公演を観させてもらったときに、僕らももう一歩踏み込んだ形でこの舞台に関わりたいと思いました。それほど魅力的な舞台だったんです。なにより、この曲を大切に扱ってくれた猿之助さんへの、再演が決まったことへのプレゼントとしての意味合いが大きかったです。
──この曲も“船出”というテーマが色濃く出ている曲です。
北川
「TETOTE」で象徴されている船出というコンセプトが、この『BIG YELL』 というテーマを持ってきてくれたといっても過言ではないですね。良い形で“エール”とも一致できたのは、たまたまなんですけど。
──様々な出会い、コラボレーションが見事に実を結んだ作品でもあります。
北川
今回のアルバムの中で一番大きな出会いはTeddy Loidくんですね。たまたま作りかけていた「恋、弾けました。」と映画「斉木楠雄のΨ難」のタイアップのお話を、良い意味で混ぜて楽しみたいなと思って。映画も、普段より若い年齢層の方に聴いてもらえるチャンスだったので、自分だったら普段やらないことを、詞や曲の中でもあえて乗っかっちゃうことで、新しいものができるんじゃないかと。その過程でTeddyくんに出会ったんですけど、最初にもらった恋ハジのデモ音源が素晴らしくて。そこからラリーをしながら曲を作っていったのがすごく楽しかったですね。
──「通りゃんせ」や「ガイコクジンノトモダチ」などは、日本の社会に対する懸念や問いかけを孕んだメッセージソングでありつつも、ポップ・ミュージックとしての魅力も兼ね備えています。どんな意識で制作したのでしょうか?
北川
昔からずっと決めているのが、アルバムの中に必ず毒みたいなスパイスを盛りたいなということ。「通りゃんせ」はその位置付けの曲ですね。ストレートなメッセージや前向きな言葉の中にたくさんの想いを込めて、それをシェイプアップしていったものがシングルの表題曲になることが多いんですが、普段思う葛藤だったり、腑に落ちないことを歌にしたいことももちろんあって。今回はシングル曲で全体を支える曲がたくさんできたので、ほかになにかスパイスを込めたものを作りたくて。去年のFNS歌謡祭のリハーサルが終わって、ホテルの部屋で作ってました(笑)。「かごめかごめ」もそうですけど、昔の童謡って、かわいい歌のようでありながら、実は怖いメッセージがあったりして。そういうものがすごく好きなので、そこにロックやヒップホップのテイストを混ぜたら面白いんじゃないかと思って。デモを作ったときに、Teddyくんとやったらすごくいいなと思って、デモを渡したら思い切ってやってくれて、ほぼ同じ構成がないものになりました。
──「ガイコクジンノトモダチ」は、軽快なアコギサウンドの上に風刺めいたメッセージが乗っかっています。
北川
アルバムの全体像を見ていたときに、弾き語り曲を入れたいなとは思っていて。ただ、それがなんとなくゆずのほのぼのソングではなく、少しスパイスもあり、柔らかいけどなにかメッセージのあるものが良いなと思っていて。「通りゃんせ」が、どちらかというと吐き出すイメージなんですけど、これは日頃感じている矛盾というか、そういうものをなるべく聴いている人にわかりやすく届けたいと思って作りました。
──「風のイタズラ」は今の年代だからこその深みのある歌の世界が素晴らしいです。この曲は?
岩沢
さっき言っていたEP盤の曲だったり、「うたエール」ありきで考えたときに、全体のバランスを見て、ちょっとバラードみたいな曲があるといいなと思って、「風のイタズラ」を選曲しました。
──「存在の証明」は深い余韻の残る名曲です。世相もさりげなく反映していますし、20周年、40代という区切りの時期にもふさわしい曲です。どんなきっかけから生まれたのですか?
岩沢
「存在の証明」も「風のイタズラ」を選んだのと似たような理由なんだけど、シングルチューンが並んでいたので、構えずに聴ける曲として、書き下ろしました。