インタビュー/東條祥恵
昨年末に事件を起こしたベーシスト脱退、ライブ活動を自粛していたlynch.が4月18日、東京・新木場Studio Coastで開催したワンマンライブ“THE JUDGEMENT DAY”で復活。5月31日に発売する新作『SINNERS-EP』はJ(LUNA SEA)、人時(黒夢/Creature Creature)、YOSHIHIRO YASUI(OUTRAGE)、 T$UYO$HI(The BONEZ/Pay money To my Pain)、YUKKE(MUCC)と言う5人の豪華ベーシスト陣が参加。6月9日からは全国ツアー“THE SINNER STRIKES BACK”も始まり、その追加公演・FINALとして8月11日に行うバンド初の東京・日比谷野外大音楽堂公演は、人時を含め4人のベーシスト陣が入れ替わりで登場する。昨年末に降りかかってきたバンド史上最大のピンチを彼らはどう受け止め、このような華麗な復活劇に変えて行ったのか。いろんな意味で、いま注目を集めるlynch.の普通じゃない“普通”の発想を探る。
──先ずは、ずっと復活を待っていてくれたファンのみなさんに一言お願いします。
晁直(Dr) 多大な不安と心配をおかけしました。明徳が抜けたけど、その穴を重点的に埋めていかなきゃとは思ってなくて。4人になってしまったけど、この4人で新しいものを作っていかなきゃいけないと思ってるんで。それを、この先見せていくんで、今後とも宜しくお願いします。
葉月(Vo) まず事件があった直後は解散とか居なくなっちゃったりとか終わることはないんで「待っていて下さい」と言うことだけ言い残して自粛期間に入ったんですね。それがようやくライブ、CDリリースで証明できたので、自分でもホッとしている部分はあります。よかったなと。解散ラッシュがあったとき、「ウチは絶対終わらないからね」って言うことを言い続けてたんですよ。だから「今回止まってしまったけども終わんなかったでしょ?」と言ってあげたいし。「もう大丈夫だよ」って言ってあげたいですね。
玲央(Gu) 最初のライブを無事終えた訳ですけども。単なる再始動の喜ばしい気持ちだけで終わるのではなく、その先を見せていきたい。今後それをツアーでやっていきたいと言う気持ちが一番強いです。事件があって、決まってたライブもキャンセルしたので、そこでみんなの楽しみを奪ってしまったと言う気持ちもあるんですよ。だから、それ以上のものを今後のライブや活動を通じてみんなに返していきたい。それが結果、自分たちの喜びにつながるので。時間がかかっても、それを返していきたいと言う気持ちでいっぱいです。
悠介(Gu) 心配をおかけしてごめんなさい。その分これからライブなり作品なりで安心させるんで、今後もついてきて下さい。言葉で伝えるよりも、ライブで直に音で「lynch.は大丈夫なんだ」と言うのを伝えた方が早いと思うんで、まずはそれをライブで伝えて。その後で僕らが失った勢いとか、そういったものを取り戻していけばいいと思うので。まずは心配してくれているファンのみなさんを安心させてあげることが第一かなと思ってます。
──ライブのMCで葉月さんは自粛期間中は「5カ月間普通の人でした」とおっしゃってましたが、その間みなさんはどんな心境で過ごされてたんですか?
晁直 逮捕されたと言うのが分かったときは、この先どうしようとは思いました。そこでアイツが辞めるとなって、さあ次はどうしようって。どうしようって思ってるだけだと止まったまんまなんで、まずはメンバーである僕らが動かないと何も発信できないんで。だから、そこの切り替えは早かったです。それで、個人的にはとりあえずドラムだけは叩いてました。感覚が鈍らないように。いつかは始動するんだから、普通の人でありながらも、いつでもできるようにそのための準備はしてました。
葉月 僕は反省であったりファンの人の心配も当然ありつつ、僕もかなり早い段階で復活の仕方を考えてましたね。良くも悪くも、注目が一気に集まったので。あの事件があって。僕らのことを知らなかった人のなかにはニュースで知って、YouTube見たら「カッコイイじゃん!」って言う人たちもいて。じゃあ復活するときに、そう言う人たちをどうやったら取り込むことができるのかって言うのをずっと考えてました。まず浮かんだのが、復活一発目のCDは絶対に必要だと。それも、ただ普通に作るんじゃなくてベーシストが脱退したことを逆手にとって、1曲ごとにベーシストを変える。
──その発想が普通じゃないです(微笑)。それで、新作『SINNERS-EP』は5人のベーシストと曲ごとにコラボすると言う贅沢極まりない制作に挑戦した、と。
葉月 そうですね。それで、ライブも一人のサポートベースでやるんじゃなくて変えていく。明徳のファンは苦しいと思うんです。別の人がステージに立ってると言うだけで。その気持ちを少しでも紛らわせてあげたくて、ころころベーシストを変えようと。
──それが4月18日、新木場Studio Coastの再始動ライブ“THE JUDGEMENT DAY” では現実のものとなり、1公演で4人のベーシストが次々と入れ変わるアクトを生み出し。これをツアーファイナルの野音でもやろうとしている。やっぱり普通じゃないですよね?
葉月 「ごめんなさい」って言ってるだけじゃもったいないなと思ったんです。いままで好きだった人はこれからも応援してほしいし。興味がなかった人にも好きになってもらわないともったいない。このピンチをチャンスに変える方法をずっと考えてたら、そう言うものが思い浮かんだんです。
玲央 元来僕は、性格的に起こってしまったものはそれを責めてもしょうがないと言う考えなんですよ。何かそこから生まれるなら責めますけど、今回の件に関しては、それを悔やんだり責めてもしょうがない。じゃあその状況に陥ったとき、自分たちやファンのみんながいかに楽しい気持ちを持てる活動をしていくのか。ネガティブな気持ちを持っている人がいても、それを最低限に抑えて別の所に楽しみを見いだしてもらう。そのプランばかりを考えてました。別のいい方をすると、空いた穴は空いたまま。なかったことにするのではなく、その事実を受け止めた上でいかに前進していくか。そこだけを考えてましたね。結果、それが今回の作品(『SINNERS-EP』)であったり4月18日のライブに繋がりました。正式なベーシストが脱退と言う形になったとき、いないからこその見せ方があるんじゃないかって考えたんですよ。正式なベーシストがいたら、作品創りで名だたるベーシストに1曲づつ弾いてもらうとか、ライブ中に4人もベーシストが出てくるとかありえないじゃないですか?
──たしかに。そこで、新しいベーシストを探すとか、ライブでは明徳さんの音を使い続けると言うような考えはなかったんですか?
玲央 そのやり方は僕らには合わないと思いました。僕個人の考えですけど、それだと目をつぶってるようにしか見えなくて。空いてしまった穴を100%埋めてることにはならないと思えてしまったので。だったら別のベクトルで前に進もうと。
──似たような状態を作っても100%穴を埋めることはできない訳ですね。
玲央 ええ。元の形に戻ることが僕らの目的ではないので。この状況だからこその進み方で前に進んだ方が明徳のファンも納得してくれるだろうし。どうしたら自分たちに関わった人間が前を向けるか。そこばかり考えてました。
──悠介さんはいかがですか?
悠介 他のメンバーと違って、僕はメンタル面が強くないので、感情的にはファンの人と一番近かったんじゃないかなとなんとなく思ってます。当然怒りの感情もわいたし。悲しいな、辛いなとも思ったし。去年はバンドにとって一番勢いが出た年で、どんどん波に乗ってきてる感じが自分たちにも伝わってきてた。そんななかでプツンと動きが止まってしまったので、自分の中のテンションも落ちてしまい“もう何もしたくない”って、1ヵ月ぐらい落ち込んでたんですよ。その間、僕はギターには一切触らなかった。でも、このままじゃいけないなと思って、まずは気持ちのリセットをしようと無理して遠出して。そこで感じたものを曲にしてみようかなってことで曲を作り出して。新木場で久々にみんなの顔を見たときに、ようやく吹っ切れた気がしました。それまでいろんな感情がまだあったんですけど、そんなこと言ってる場合じゃないなと言う感じで自分の中の不安がやっと消えて。僕の場合は、落ちた気持ちが戻るまでに時間がかかりましたね。