flumpool、史上最高傑作『Shape the water』を携え、10年ぶりのZeppツアーへ。「このアルバムは、ライブを以てして完成する」山村隆太、阪井一生に聴いた

インタビュー | 2025.03.21 18:00

僕の中で、人生のテーマは「過去を許すこと」(山村)

──同じ時代を生きている一人一人の日常に寄り添う眼差しは、今作の山村さんの作詞に通底している気がします。M5「ハレルヤ・レディ」もそんな温かなエールとして聴きました。初めて女性を主人公として綴られた歌詞ですよね?
山村はい、ここまではっきりと<私>を一人称で置いて歌にしたのは初めてでした。日常の苦労や、自分さえも忘れてしまうような影の努力に日が当たるとやっぱりうれしいし、「ありがとう」と言われると救われるし。だけど、そうじゃなく埋もれていくものばかりなのが日常だし。過去の自分と対峙した時に、嫌気が差して逃げた自分も諦めた自分も、「忘れないでほしいな」と。結果としてはネガティブな経験かもしれないけど、そこでちゃんと抗った自分がいて。報われないままの思い出で終わらせるんじゃなくて、そんな中でも頑張ろうとしていた自分にフォーカスを当てられるようになればいいな、と思って書きました。
──そこもやはり、目には見えないものや気持ちに“形”を与えるということですよね。
山村僕の中で、人生のテーマはそういった1つ1つの過去を許すことだったりするんですよね。そういうテーマとしてはすごく大きなもの、「いつか書きたい」と思っていたんですけど、「ハレルヤ・レディ」は素晴らしいメロディーだったので、かなり聴きやすく軽快なものに乗せて書いていくことができました。
──過去を許す、というのが山村さんの人生のテーマなんですね。
山村そうですね。愛することもそうだし、過去を許してあげることで未来に繋がっていくと思うので。過去の過ちを楽しむとか、面白がることによって未来に繋げていく……自分の中でそれができたらいいなと思うし、それが生きていく理由でもあるので。そのテーマはこの曲に込めました。
──M12「Sugarsong」は阪井さんの個人的な体験から生まれた曲だそうですね?
阪井自分のおじいちゃんが亡くなった時に、「何か形に残したい」という想いで作ったんです。その場の感情、その瞬間を切り取ったような。言葉で表現するのが難しいんですけど……そういう想いで書いていった曲ですね。
──悲しみの中で、すぐに形にされたということですか?
阪井そうですね、わりとすぐ「曲書きたい」と思って、そのままスタジオに行った記憶あります。
──曲にすることで、何かお気持ちに変化はあったのでしょうか?
阪井いろいろお世話になったので、感謝を形にできたらいいな、というのもあったし、そういう意味では、自分の中ではスッキリできたな……と言ったら変ですけど。実際、曲作りはそういうのが結構多いというか。「悲しいから」というのはあまりないですけど、何か出来事があったら曲を書きたくなる、というのはありますね。インディーズの頃はそんな曲ばっかりだったんですけどね。失恋した瞬間に曲を作って、路上ライブで共感してもらうために一人で歌いに行く、みたいな(笑)。
──今回は悲しいことですけど、久しぶりに、そういう生まれたてホヤホヤの感情を元にした曲作りをしてみた、と?
阪井たしかに最近はあまりなかった作り方でしたね。じいちゃん、ばあちゃんが皆生きていたので、周りの人が亡くなるのは自分にとって初めてだったんです。すごくモヤモヤした気持ちがずっとあったので、「ちょっとこれは嫌やな」と思ったから「曲にしよう」って。
──終盤の力強いドラミングが印象的で、前進していく意思を感じさせるアレンジでしたが、編曲のトオミさんとのやり取りでこうなったのですか?
阪井デモ段階でほぼこの形でしたね。あまり悲しくはしたくなかったので、捧げる感じというか、「届け!」的な感じだったので、どちらかというと明るく前向きにしたかったんです。
──山村さんは、阪井さんの個人的なそういった想いを踏まえて歌詞を書かれたのですか?
山村そうですね、そういう想いで作った曲とは聞いていたので。アルバムの初期段階で出来た曲で、“形のない心というものを形にしたい”という気持ちがすごく強かったので、角砂糖を幸せに例えて書いていきました。
──では、アルバムコンセプトの誕生にも大きな影響を与えた曲だったんですね。
山村たしかに、そうですね。「何気なく通り過ぎていく一瞬一瞬をちゃんと生きられたら、覚えていられたらいいな」と思うんですけど、卒業式では泣けない自分もいて。振り返れば「あの瞬間ってすごく尊いものだった」と思えるけど、どこか俯瞰的で、その瞬間には価値を感じられない経験が多かったんです。普通にある幸せっていうのは目に見えないけど、コーヒーに溶けて目には見えなくなってしまう角砂糖のように、幸せになればなるほど、温もりの中で溶けた“甘さ”みたいなものはちゃんとあるよね?っていう。それが一生(かずき)の大切な人との思い出なのかもしれないし、自分たちがこうやって一瞬一瞬、ファンと過ごしているライブの瞬間かもしれないな、と思いながら書いていました。

すごい褒めてたんですよ。でも3年温める癖があるので(笑)。(阪井)

──山村さんが作曲(Naoki Itaiとのコライト)も担当されている、M8「夕日に染められて君は」は、過去を全て肯定し、信頼するファンの皆さんと分かち合うような、温かなミディアムナンバーですね。
山村あ、それはもういいです。
阪井いつも取材ではこうやって言うので、ここぞとばかりに深掘りしてやってください!
──(笑)。メインコンポーザーの阪井さんへの遠慮があるのでしょうか?名曲ですよ。
山村いやいや、ありがたいですけど。やっぱり一生のつくるメロディーがflumpoolの武器だと思うし、一生の曲に歌詞を書くことのほうが、個人的には思い入れがあったので。
──<マスクで拭った涙>という言葉から、コロナ禍の想いも投影されている歌詞なのかな?と思ったんですが、いかがですか?
山村コロナ禍で書いていた曲ではあるんですけど、そういうわけでもなく。人生の失敗も面白がれるというか、逆に「転んでよかったな」と思えるような、そんなふうに生きる力をくれる人たちが周りにいて。大切な家族であったり、メンバーであったり、そんな人たちへの感謝も、目には見えないものだけど、言葉や歌という形にできたらいいなと思って書きました。
──<進むだけじゃ探せなかった>というフレーズは、20代の時よりも、やはり様々な経験を積んで今の40代に突入しているflumpoolだからこそ、説得力があると思うんです。
山村たしかにそうですね。どれだけ絶望の中でも、希望はあってほしいなと思うし、「あったな」とも思うから。「ごめん」や「ありがとう」は過去の、これまでの話だけど、<見せたい夢>は未来の話で。「大切な人とは、過去じゃなく未来を生きたいな」という気持ちも書いています。
──阪井さんは、山村さんの作られた曲をどう聴かれたんですか?
阪井まだまだやなって思いました……嘘です(笑)。すごい褒めてたんですよ。めっちゃいい曲だと思いました。Itaiさんとのコライトですし、(制作過程の)頭ちょっとだけ僕も立ち会っていましたし。
山村そう、だから一生もこの曲に入ってる。
阪井いやいや、大して入ってない。やっぱり面白いですよね。「ここでこういうラインで行くんや」とか、自分にはないものがあるし。前回のアルバム『Real』で尼川元気(Ba)が作った「虹の傘」もそうですけど、そういうふうに曲の幅が広がるのは面白いので、もっとやればいいと思ってます。
山村いや、あと3年はないです(笑)。
阪井封印?3年温める癖があるので(笑)。
山村僕が3年悩んで1曲作っても、一生は1日で作っちゃうので「割に合わんな」と思ってる自分がいるんですよ(笑)。信頼していますしね。自分でやってみて、「やっぱり一生の力量はすごいな」と思いました。
──3年と言わず、1年に1曲ぐらいは是非作ってほしいですね。
山村はい、頑張ります。
阪井絶対やらんな(笑)。

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