素直な言葉で曲を書くようになってから状況が変わった
──確かに、去年あたりから状況が変わってきていて、「ブルーベリーデイズ」がガーンと跳ねたでしょう。たくさんの人に聴かれて、本当に良かったなと。
柄須賀僕もほんとに良かったねって感じです(笑)。
──ああいうまっすぐなラブソングが受け入れられたというのは、the paddlesというバンドにとってすごくいいことだと思ってます。
柄須賀素直な言葉で曲を書くようになってから、状況が変わった感じはありますね。「予測変換から消えても」を2022年に出して、そこぐらいから僕の意識が先に変わったんですよ。それからですね。「ブルーベリーデイズ」を書いて、「プロポーズ」を書いて、今回の流れで言ったら「愛の塊」もやっぱりそうなんで。
──航大くん、そういう曲作りの変化は隣で見ていて感じていた?
松嶋そうですね。特に歌詞ですかね。前は抽象的な表現に収めてるものも結構多かったんですけど、素直な表現でストレートに書いちゃうみたいな表現が多くなった気がしますね。「予測変換から消えても」以降ぐらいから、わかりやすくて結局いいんかな?みたいな。
柄須賀そうやな。僕が本当に好きなもので言ったら、一枚フィルターがかかってるような、「これって何のこと歌ってんねやろ?」みたいな、抽象的な言葉に自分の思いを勝手に投影できるっていうものが好きなんで。それは今後必ずまたやることになるやろなとは思ってるんですけど、今書いてるような、パッと見て「ほんまやそうや」ってなれるような、人生のターニングポイントみたいになる曲って実際あるんちゃうかな?っていうのはめっちゃ思うんで。今はそっちをやりたくてやってる感じはありますよね。
──「永遠になればいいのに!」みたいに、誰がどう聴いてもわかりやすい卒業ソングみたいな。
柄須賀そうそう。“そして卒業して会わなくなっても絶対忘れないでいて”とか。今ってSNSもそうですけど、対バンのライブとかを見て出会ってくれたりとか、MINAMI WHEELとか見放題とかのサーキットイベントで、「名前だけ知ってたけどちょっと見てみようか」みたいな人が、すごい今the paddles を見に来てくれていて。イベントって大体30分ぐらいじゃないですか。その時間をせっかくもらうんやったら、わかりやすい音楽で好きになってもらったほうがいいというか、the paddlesっていうバンドの中で一番最初に飛んでくるのは歌だと思ってて、だったらサビのワンフレーズを聴いただけでハッとするような曲が多いほうがいんかな?っていうのがすごくあって。出会ってもらいやすいし、入ってきやすい環境を作りたくて書いてるところはありますね。
──リリースされたばかりの新作『オールタイムラブユーE.P.』のリード曲「愛の塊」は、まさにそういう曲じゃないですか。
柄須賀「愛の塊」はいつも通り歌詞を最後に書いたんですけど、絶対外したくなかったのが、歌い出しの“「死ぬまで一緒にいよう」よりも来月の予定を聞いてよ”っていうワード。大げさな言葉を言われるよりも“来月どうしてんの?”って聞かれる方が現実的というか。サビはすごく遠い理想を歌っていて、“君は僕のため僕は君のために生きて行こう、ふたり分の命がひとつになって生まれる愛の塊”って、それこそ抽象的で、わかりそうでわからんみたいな感じやけど、それに対して歌い出しはすごく具体的な距離の近いことを歌ってて。具体的な一つ一つの約束みたいなものを重ねていって、一個の大きい約束が初めてできるんじゃないかな?っていうので、サビで大げさなことを歌うっていう、そんなイメージで書いたんですね。
──わかります。なるほど。
柄須賀「愛の塊」っていうワード自体は、 最初のセッションで作ってる段階で♪あいのかたーまりー、って出てきてたんで、これが曲名っぽいなって。
松嶋そのパターン、多いな。なんとなく皇司が雰囲気で歌ったやつがそのまま入っちゃうみたいな。
柄須賀ほとんどそうちゃうかな? 僕は歌詞とメロディが一緒に出てくるタイプらしくて、「愛の塊」にどういう意味をつけていこうって考えた時に…「塊魂(かたまりだましい)」っていう ゲーム、ご存知ですか。ぜひ調べてみてほしいんですけど、僕がちっちゃい時にPS2でやってたゲームで…(スマホで検索してみせる)こんな感じで、街中に落ちてるものを拾ってくっつけて、どんどんおっきくしていくゲームなんですよ。そのイメージがパッと結びついて、人間関係でも、一緒に過ごしてると物を送り合ったりとか、思い出を交換し合ったりとか、そういうものをどんどん引っ付けておっきくしていって、一個のでっかい愛の塊が人生の終わりにできてたらいいんじゃないかっていうことで。だからBメロの終わりで“転がし続けて”っていう言葉を入れたんですけど、それってほんまに人生そのものというか、ロックンロールのロールでもあるし、ローリング・ストーンズとか、そういうオールドな転がるっていうイメージと、今っぽい感じで愛のことを歌うっていうのが結びついた感じがあって。今まで僕が聴いてたロックと、今わかりやすいとされてる恋愛の曲みたいなのが結びついて、めっちゃええ曲ができたなと思ってます。だから「愛の塊」の配信ジャケットのは、塊になってるんですよ。
松嶋「塊魂」をイメージして、それまでに出してた配信シングルのジャケットのモチーフを、全部くっつけて塊にしてます。
柄須賀(ジャケットを見ながら)この携帯電話は「予測変換から消えても」のジャケットで、冷蔵庫が「ブルーベリーデイズ」で、目玉焼きは『ベリーハートビートE.P.』で、ヘリコプターは「スノウノイズ/22」のジャケットになってて。そういう遊び心もついた曲になったんで良かったです。