音楽家・梁 邦彦、日韓を中心に自在かつブレない音楽活動を展開している彼が、2024年を総括。恒例の品川教会ライブの展望も語る

インタビュー | 2024.11.29 17:00

日本と韓国を中心に、自在な音楽活動を展開しているピアニスト・作曲家・音楽プロデューサーの梁 邦彦が、2024年12月20日にキリスト品川教会 グローリア・チャペルで、『Holly Piano Night Christmas Special Solo 2024!』を開催する。品川教会でのコンサートは、2018年以降、恒例となっており、今年はソロピアノコンサートという形態になることが決まっている。ピアノソロならではの自由度の高い、そしてクリスマスシーズンならではの楽しいライブになるのは間違いないだろう。また、年末ということもあり、2024年の音楽活動の成果も反映されるに違いない。2024年8月には、弥勒菩薩像をモチーフとした作品の第2弾となるEP『思惟II:超越(transcendence)』も発表している。品川教会のライブ、2024年の活動の総括、2025年の展望など、幅広いテーマで話を聞いた。
──まだ1か月以上残っていますが、2024年はどんな年になりつつありますか?
僕はライブを行うミュージシャンとしての活動と、曲作りをする作曲者・制作者としての活動の両方があるのですが、今年はライブよりも制作のほうが多い年になっています。制作の時には山の中(自宅のスタジオ)にこもっているので、その時間がかなり長い年になりました。
──制作活動では、EP「思惟II:超越(transcendence)」の発表もありました。この作品は「SAYU」の延長線上にあるものなのですか?
そうです。思惟(SAYU)というプロジェクトは、2023年から始まったものです。ソウルの韓国国立中央博物館のメイン展示である国宝の弥勒菩薩像(半跏思惟像)があるのですが、その弥勒菩薩像に着想を得て、その空間に合った音楽を作り、その博物館でコンサートをやるコンセプトで話が始まりました。2023年にEP『SAYU』を、今年はEP『思惟II:超越(transcendence)』を作りました。SAYUは思惟を韓国語読みしたものです。思惟、つまり考えたり思ったりするには、ゆったり流れる空間が必要で、その空間を作ることも音楽の大事な役目だと考え、制作にのぞみました。
──聴き手の感性や感覚に影響をもたらす、素晴らしい作品です。自分自身の想像力もおおいに刺激されました。
それぞれ自由に聴いていただけると、ありがいですね。「超越」というサブタイトルがついているのは、こうでなければいけないという制限を飛び越えたいという思いからです。僕のやっていることが超越しているということではなく、自分の理想とするものを表現しています。聴いてもらった時に、空間や時間が豊かになってくれたならば、うれしいですね。制作に関しては、その他にも、2025年に開催される、ある大きなプロジェクトの音楽担当や、2025年放映予定のWOWOWの連続ドラマW『ゴールドサンセット』の音楽制作なども入っています。2025年に発表になるものも、かなり前倒しで制作していました。

“祈り”や“思いを馳せる”などの要素の詰まっている特別な空間

──そうした制作三昧の日々の中ですが、品川教会でのライブも開催されます。
作曲家って、自分ではライブをやらない方が多いと思うのですが、僕の場合は、せっかく曲を作ったのだから、なんらかの形で自分で演奏したくなる性分なんですよ(笑)。品川教会でのライブは外せないなと思い、12月にコンサートを開催することを決めました。
──品川教会が外せないのは、どういう理由からですか?
品川教会は特別なフィールがあって、とても好きなんです。品川教会とはかなり長いお付き合いがあって、最初にコンサートをやったのが1999年でした。その時の印象がとても良かったんですね。教会でのコンサートは、その時が初めてでしたが、独特の空気感が漂っていました。宗教的な意味としてではなく、“祈り”や“思いを馳せる”などの要素の詰まっている特別な空間だと感じましたし、演奏していて、自分が浄化されるような感覚も味わいました。
──観ている人もおそらく、そうした浄化される感覚を共有したのではないですか?
そうかもしれません。その後、しばらく出来なかったのですが、2018年からほぼ毎年のように、ライブを開催させていただいています。その品川教会でクリスマスコンサートを開催できるのは幸せなことだと思っています。

その瞬間に思ったこと、感じたことに素直に反応していけるのがピアノ

──ライブ活動としては、今年の8月に帯広の重要文化財の旧双葉幼稚園、園舎内でピアノソロコンサートをやられています。幼稚園にある100年以上経っているオルガンも弾かれたとのことですが、その時の様子を教えていただけますか?
今年は、自分で計画したコンサートはあまり出来ませんでしたが、旧双葉幼稚園のコンサートは、「こういう幼稚園があるんだけど、梁さん、ここでコンサートをやりませんか?」と、北海道の知り合いから声をかけてもらったんですよ。もちろん「やります」と (笑)。100年の歴史があり、現場に行って感じたことも大切にしながら演奏しました。幼稚園なので、足踏みオルガンが2台あって、そのうちの1台が100年前に寄贈されたオルガンだったんですよ。「このオルガンは、一般のアマチュアの人には弾かせないんですが、弾いてくれてもいいですよ」と言われまして。どんな状態かわからなかったのですが、「やってみます」ということで、弾かせていただきました。
──100年前の足踏みオルガン、演奏してみていかがでしたか?
ちゃんとリペアされてないせいもあって、足を踏んで空気を吹き込もうとしても、空気が漏れてしまう。音がスカスカ漏れるので、一生懸命足を踏まないといけない(笑)。静かな曲を演奏しているのに、足は200パーセント稼働している状態でした(笑)。でも、その足踏みオルガンの音色で幼少期を思い出すなど、ピアノを弾いている時とはまた違う感覚になって、瞬間移動か時間移動かをしたような気分でした。そうしたことも含めて、楽しかったですし、いい経験になりました。幼稚園の関係者の方々もとても喜んでくださって、「再来年、100周年のイベントがあるので、また弾きにきてください」と言ってくれて「それまでにオルガン、直しておいてください」とお願いしました(笑)。
──旧双葉幼稚園のコンサートでは、浜田省吾さんの「青の時間」と坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」のカバーも演奏されたんですよね。
以前は、カバーを演奏することは、ほぼなかったんです。でも交流のある押尾コータローさんに「僕はカバーをそんなにやらないんだよね」と言ったら、「梁さんは作曲家として自分の曲を作っているから、自分の曲をやるのでいっぱいになっているんじゃないですか?」と言われて。それもそうだな、他の人の曲も含めて自然に自分が弾きたいと思った曲は弾くべきだな、ただし、その曲は自分の背景にあるものであるべきだなと思いました。
──浜田さんの「青の時間」はまさにそうした楽曲ですよね。
浜田さんの曲に関しては、僕は長い期間、浜田さんのツアーに参加するなど、一緒にやっていた経緯があります。浜田さんは、過去のアルバムを時間を遡って演奏するツアーをやられていて、今敢行中のツアー(『Shogo Hamada Official Fan Club Presents 100% FAN FUN FAN 2024 青の時間』)の「青の時間」は、僕がサウンドプロデュースを担当させていただいたアルバム『誰がために鐘は鳴る』(1990年発表)に収録されている曲なんですよ。浜田さんとも最近、メールでやりとりをして、「今やっているツアー、70パーセントくらい、一緒にやった曲なんだよね」という話もしてくれました。その流れもあって、「青の時間」を弾くことは、自分にとっても意味のあることだと思い、100年前のオルガンで演奏しました。
──100年前のオルガンで、梁さんが35年近く前に制作に携わった曲、しかも、過ぎゆく時間がモチーフとなっている「青の時間」を弾くのは、不思議な感じもしますが、必然的な組み合わせなのかもしれないですね。オルガンの話がでたので、ピアノについても聞きたいのですが、梁さんにとって、ピアノソロで演奏するのは、どんな感覚ですか?
自分が音楽をやるうえで、一番自然な形なんだと思います。弾いていると、曲のパートをチョイスしながら自然に構築できるし、逆に自然に崩せるところもあるし。自然に始まり展開していけるんです。
──梁さんにとって、心のおもむくままに演奏するのに、ピアノが適しているということなんですね。
自分がその瞬間に思ったこと、感じたことに素直に反応していけるのが、ピアノなんじゃないかと思いますね。もちろんピアノソロであっても、演奏する曲の大枠は決めますが、曲順を変えたくなったら、変えるかもしれないし、ワンコーラスで終わらせたくなったら、ワンコーラスで終わるかもしれないですし。そういうところも楽しいですね。

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