クジラ夜の街、2nd EP「青写真は褪せない」では緻密に計算された新しい音楽性を体現、ライブではどんなファンタジーを創造するのか?彼らが描く2024年の青写真についても聞く

インタビュー | 2024.06.18 18:00

メジャー1stフルアルバム『月で読む物語』と本作を携えた全国ツアー「輝夜を捜して」で同世代バンドと一線を画すストーリー性を体現したクジラ夜の街。この夏はさまざまなフェスやサーキットイベント、またメンバー4人が各々ミュージシャンとして参加するイベントも決定し、オリジナリティを垣間見せている。

6月にはシングル「祝祭は遠く」をリリースし、同曲も含むメジャー2nd EP「青写真は褪せない」を7月3日にリリースする。今回はこのバンドの新たなフェーズを予感させるEPについて早速インタビュー。そして初のホールワンマンライブとなるLINE CUBE SHIBUYA公演「7歳」に向けての抱負と作戦(!?)についても訊いてみた。2024年後半、さらにクジラ夜の街は面白くなる。
──「青写真は褪せない」、クジラ夜の街が早くも次のタームに突入した印象が強かったです。
宮崎一晴(Vo,Gt)それを意識して作りました。
──制作の発端からお伺いできればと思うんですけど、バンドのムードとしてはどういうものを定着したいと?
宮崎僕はもう当初から『月で読む絵本』である程度区切りをつけて、次回作は新しい音楽性を模索していこうというふうに考えていて。で、“青写真”っていうのは将来の展望のような意味があるので、計画書みたいな音楽にしてみたいなあっていうのをずっと思っていて。新しいアレンジャーさんを迎えたりいろんな新しい風で空気を入れ替えていく感じっていうのがすごい楽しくて。

宮崎一晴

──なるほど。
宮崎「祝祭は遠く」っていう曲は今までで一番実験的に作った曲なんじゃないかなと思いますね。作曲過程がすごく面白くて、オーガニックなサウンド感なんですけど、トラックはパズルをしているような感じで作ったんです。で、そのトラックとトラックを飛び越えるプロムナードみたいになってるメインフレーズがずっと往来している、結構面白い形で作ることができたんですけど、今までのクジラ夜の街だったら熱量が上回ってしまったところをうまく低温調理できた(笑)というか、クールな感じがするんですよね。
──勢いではない感じ?
宮崎はい。ほかの曲に関してもクールっていう言葉が当てはまるんじゃないかなと思ってて。青写真の青とも関わってきますけど、ほかの楽曲たちもバンドの地の力みたいなものに加えて、頭で考えた知的なリフだったりフレーズだったり構成や演出っていうのが含まれていて。僕は「やっと音楽が始まったな」って感じがしたんですよね。今までは闇雲にやっていく良さもあったんですけど、やっと音楽を新しく作っているなあっていう感覚がすごくあって、それが楽しくて新鮮でしたね。
──皆さんの中では「音楽が始まる」っていう認識は共有されていましたか?
山本 薫(Gt)僕はしていたと思います。今までの制作だとスタジオでバンドのテイクを録るためだけにレコーディングする感じだったんですよ。音源を作るために。でも今回は最終的にフレーズも模索しながらレコーディングも同時にするみたいな形になりまして、さらの状態から録りながらフレーズも良いものを出さなきゃいけないっていうので、すごく頭を使いながら作ったから、僕の苦しむ顔を想像しながら音源を聴いてもらえたらいいなと(笑)。

山本 薫

──(笑)。皆さん各々、面白かったなっていう曲を教えてください。
秦 愛翔(Dr)自分は「祝祭は遠く」ですね。この曲ってアイリッシュ音楽を基調として作られた曲なんですけど、僕はアイリッシュ音楽がめちゃくちゃ好きで。クジラ夜の街ってファンタジーを抱えているバンドなんで、そういう異国調の音楽と親和性が高くて、それを体現できた曲だと思うんです。一晴くんは「4割、秦のために書いた」って言ってくれて、僕はこの曲に関してはみんなにめっちゃ注文したし、アレンジャーさんにも注文したし、自分のための曲とは言わないですけど、僕へのプレゼントだと思ってて、誇張抜きで毎日聴いてるんですよね。再生キャンペーンとかやったらたぶん僕が一番になると思います(笑)。
──(笑)。歌詞面で言うとこの主人公は失望してるし怒ってますよね。
そこもすごい好きなところで。アイルランドの歴史も関連付けて考えると明るいだけじゃないっていうのを体現してるし、ほんとにすごくいいですね。

秦 愛翔

──山本さんと佐伯さんはいかがですか?
山本僕は「美女と野獣」に結構思い入れがありまして。この曲はバンド以外のストリングスやほかの音がすごい多い曲で、その中で自分のギターがどういう立ち位置でいようかって考えた時に、今まではボーカルの裏メロでは目立つギターを弾くことが多くて、もちろんそういう意識はあったんですけど、逆にこの曲ではオケになじむような立ち位置にいようって最初から決めてたんですね。
──確かに前半はリードギターのカタルシスは抑え気味な曲ですもんね。
山本そこでサビの音色をただのディストーションじゃなくて、モジュレーションっていうゆらゆらしてる雰囲気の音にしたりとか、そういうのをどんどん詰めていって最終的には後ろに位置しながらも今までの自分に近いこともできて、そのバランスがうまくとれた曲だなと思いますね。あと、制作では「この鍵盤の音色どうする?」みたいなのをバンドでディスカッションできて。よく考えたら今まであんまりそういうことがなかったので、そういう意味では思い入れのある曲ですね。
佐伯隼也(Ba)僕は「Saisei」という曲が一番思い出に残っていて。僕は自分の感覚で「こういうベースラインここで弾いたらいいんじゃないかな?」みたいな感じで作っていくんですけど「Saisei」に関しては隙間が多くて音数が少ない曲なのでベースがすごい目立つんですよ。それであんまり自分が作ったことないベースラインなんですけど、この曲は規則性を持たせた方がいいなと思って、イントロと間奏はフレーズをバチバチに決めていって、みんながレコーディングしてる間も一人で黙々と作るみたいなことやってましたね。特にアウトロは何周もするとこなんですけど、いろいろ試行錯誤してたら頭がパンクしそうになってきつかった(笑)。

佐伯隼也

──山本さんも佐伯さんも頭脳戦だったと。この曲のタイトル表記はローマ字ですけど、“再生”なわけで。まさに音楽についての曲だと思うんですよね。
宮崎音楽讃歌みたいなのを一回作ってみたかったですし、ここに嘘はつけないなと思ったので、歌詞のドライな感じもすごい自分は気に入ってますね。
──蓄音機の時代から再生芸術である音楽について割と淡々とかかれていて。しかもラップという音楽の歴史の中で新しい手法も取り込んでいて。
宮崎ラップにはどんどん挑戦して行きたいなと思って。もともとすごく好きなジャンルなんですけどヒップホップって掘り下げてないと付け焼き刃になってしまうというか、“ラップっぽいパート”みたいになってしまうので、そういった意味で自分の中でやっと鍵を開けた感じというか、そっちに行けた第一本目みたいなところはありますね。

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