VOCALOIDクリエイターのピノキオピーが、今年2月に活動15周年を迎えた。昨年5月はヒット曲「神っぽいな」を含むフルアルバム『META』をリリースし、7月にはKT Zepp Yokohamaにてワンマンライブ「MIMIC」を成功に収め、ポケモンと初音ミクのコラボレーション企画「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs」にて「ポケットのモンスター」を書き下ろすなど精力的な活動を続けている彼が、アニバーサリーイヤーを祝し今年の7月から5年ぶりの全国ツアー「モンストロ」を開催する。全国4ヶ所のZeppと豊洲PITを回る過去最大規模のツアーに胸を高鳴らせる彼をキャッチし、15年間の活動、『META』以降の制作のモード、ツアーへの思いを訊いた。
──ピノキオピーさんは今年2月に活動15周年を迎えました。この15年はどんな充実がありましたか?
活動初期の楽しい気持ちが、ずっと続いているという感覚ですね。趣味で曲を作っていて、遊びの延長線上で動画サイトに曲を上げたら、知らない人からコメントをもらえて、それがとてもうれしくて。そのサイクルが続いて、あっという間に15年経っていました。
──最初のターニングポイントというと、いつでしょうか。
「eight hundred」を上げた2009年4月ですね。あの曲がきっかけでニコニコ動画のマイリスト登録が2桁から4桁になって、自分だけが面白いと思っていたものを、みんなも面白いと思ってくれているんだと初めて実感できたんです。そのときに「これからも音楽を作ったり絵を描いていてもいいのかな」と活動に期待を持てたんですよね。とはいえ、今も曲を投稿するときはごはんが喉を通らないくらい緊張しています(笑)。
──15年経ってもですか。
これは全然変わらないですね……。「自分が届けたいメッセージはちゃんと届くのかな」「どんな反応が来るのかな」といろいろ想像していくと緊張して、走ったときくらい心拍数が上がってます(笑)。だからいつも刺激的ですね。
──また、ピノキオピーさんはご自身の代表曲としてまず「すろぉもぉしょん」を挙げることが多いですよね。2014年5月に公開された楽曲で、当時のピノキオピーさんは「終わりと始まり」をテーマにした曲をよくリリースしていた印象があります。この時期もターニングポイントだったのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
確かに2013年の後半から2014年にかけて変化が多々あったので、あの頃は再出発の気持ちが大きかったですね。「ピノキオP」から「ピノキオピー」に表記を変えたり、人生で初めて事務所に所属したり、あと実家を出たんです。人生初の一人暮らしを始めてすぐにインフルエンザにかかってしまって。「すろぉもぉしょん」はそれがきっかけでできた曲なんです。
──一人暮らしで寝込むと、本当につらいですよね。物理的にも精神的にも。
痛烈に命の危険や寂しさを感じました。身体を引きずって病院に行ったものの待合室の座席がいっぱいで、その場でへたり込んだのを覚えていますね……。でもそのぶん治っていくごとにひとりで乗り越えられたという喜びもあったんです。もともとずっと死生観を歌詞にしていたので、あのとき感じた気持ちや伝えたいメッセージをしっかりと曲に落とし込みたくて、じっくり時間を掛けて悩みながら書いた曲です。あとあの頃は、VOCALOIDのムーブメントが落ち着いた時期で。
──2014年はVOCALOID黎明期を支えたクリエイター陣が続々と、ご自身で歌うアーティスト活動へとシフトした後でした。
それに加えて、辞めていったボカロPも多かったんですよね。大学生くらいの人が多かったから就職を機に引退したり、働きながら続けた人も投稿ペースは落ちていって。クリエイター人口もリスナー人口も減っていて、シーンが盛り下がっている時期でした。こんな時期に再出発を切って大丈夫だったのか!?と不安になりつつも、いまさらほかにできることもないし、5年も続けてきたし、何よりVOCALOIDでの制作が自分にとって得意なことであり楽しいことだったんですよね。
──だとしたら手放したくはないですよね。
自分にはVOCALOIDしかなかったし、続けるしかなかったんですよね。そんな時期に「すろぉもぉしょん」がたくさんの人に聴いてもらえたのは自分にとって大きいことでしたね。
──あれから10年経って、「すろぉもぉしょん」はピノキオピーさんにとってどんな曲になっていますか?
自分の価値観がそのまま出ている、名刺代わりの曲ですね。前回のインタビューでも話したように「神っぽいな」で自分の言いたいことを誤解されることが多かったので、どの曲も「すろぉもぉしょん」の価値観を持った人間が書いていることを前提に聴いてもらえたら、歌詞もただ皮肉を言っているだけではないと気づいてもらえるんじゃないかなと思っています。だから代表曲のプレイリストも公式プロフィールも、まず最初に「すろぉもぉしょん」を置くようにしてるんですよね。
──そういった変わらない軸を持ちながら、毎回楽曲制作に新しい手法を取り入れているのも、15年続けていられる秘訣なのではないかと思いました。サウンドアプローチも多彩で、毎度新鮮です。
サウンドアプローチは、2015年に「打ち込みを頑張ろう」と思ったことが転機になっています。バンドマンの人が作るVOCALOID曲にはバンドで培われてきたノリがちゃんとあるけれど、僕はギターを持ってライブをしたことがなかったから音にライブ感がなかなか出せないのが悩みでもあったんですよね。そんなときに、アゴアニキさんのライブの打ち上げに参加したんです。
──アゴアニキさんの楽曲はバンドサウンドが特徴ですよね。ご自身でバンドもやってらっしゃいますし。
そんなアゴアニキさんに「ピノキオピーってそもそもバンドサウンドだっけ?」と言われたんです。そのとき「そっか。俺はバンドサウンドを作ってたつもりだったけど、そう思われてないんだ」と思ったんです。だったら作ることに対して苦手意識のあるバンドサウンドではなく打ち込みを頑張ろうと決めて。もともと打ち込みの音楽も好きだったので、それが今につながっていますね。