SE SO NEONと共演することになった経緯とは?
──ほのめかし feat. SE SO NEON」も良いですよね。そもそもSE SO NEONと共演することになった経緯はなんだったんですか?
昨年、SUMMER SONIC 2022やTAHITI 80との対バンでお世話になった「クリエイティブマン」という会社のプロモーターの方が、SE SO NEONの日本公演も担当していたんですよね。ある日「SE SO NEONって興味あります?」と聞かれて「あ、好きですよ。聴いてますよ」と言ったら、ちょうど彼らは日本でもライブをやってきたいタイミングだったらしくて「じゃあ、いつか一緒にできたらいいですね」と。会話はそこで終わったんですけど、3月に彼らが日本でライブをやるタイミングがあって。ライブの翌日に「お茶でもしませんか?」と向こうから言ってくれて。そこで色々話してるうちに、やっぱり何かやってほしいと思ったんです。「こういう曲があるんだけど、どうかな?」と投げたら、「いいです、やりましょう!」と言ってくれて決まりました。彼らのサウンドって、割とオルタナティブ・ロックというか、ファン・ソユンさんの歌はすごく渋めな感じなんですけど、ソユンさんのソロプロジェクト・So!YoON!ではダンスミュージックとか、幅広い音楽をカバーしていて。SE SO NEONとSo!YoON!の音楽をトータルで見た時に、この人は底が知れないなと。そうであれば、こういう曲も興味を持ってくれるかも、と思ったんです。ベースはパク・ヒョンジンくんで、彼もすごく上手で。この曲のベースはほぼ打ち込みで作ったものを、まんま弾いてもらってるんですけど、それでも音のミュートの仕方とか、音色の作り方とかタイミングとか、その辺もすごく上手でしたね。
──作詞には高樹さんとソユンさんのお名前がありますけど、どのようなやり取りをして作っていかれたんですか?
まず、1番は僕が書いたんです。「2番のバースはこの感じの流れで、ソユンさんが思うようなことを書いてほしい」とお願いしたんです。メロディーも指定していなくて、「その歌詞にふさわしいメロディーをそちらでつけてください」って感じだったんです。それで「既読スルーしないで」という日本語の歌詞が出てくるんですけど、それは彼女が入れてくれたんです。
──あ、そうなんですか!
全部韓国語でくるのかと思っていたら、一節だけ日本語があったので「お!」と思って。割と抽象的な歌詞じゃないですか?でも「既読スルーしないで」が一発入ると、一気に具体性を増すというか、身近なものになりました。「あぁ、俺の歌詞はそこが欠けていたわ」と思って、ソユンさんがいい具合にピースをはめてくれました。どこにでもありふれた言葉なんだけど、あそこで差し込まれるとすごく新鮮な感じがして良かったですね。
──これも僕の勝手な想像ですけど、「ほのめかし」と「説得」も対になっている感じがしました。
おお、どうなんですかね?抽象的な概念をそのまま歌にしてるところは、似てますよね。
──「ほのめかし」は「仄めかすから察してほしい」と歌っているし、「説得」も「俺を説得してくれ」って促すじゃないですか。2曲とも「こちらからサインを送って、相手がどうリアクションを返すか?」みたいな曲だなと。
あー!確かにそうですね。そこは自分でもあまり意識していなかったです(笑)。
──「説得」の他力本願な感じが面白かったです。
ハハハ。これは日頃感じていることっていうか、例えば仕事の依頼をいただくじゃないですか。そしたらまず「うわ、やりたくない」「面倒くさ!」「逃げたい!」と思うんですよ。でも、ちょっと時間を置いて「いや、ここでいちいち断っていたら何もこなくなっちゃうな」という考えも生まれて。最初は嫌だなと思いながら資料とか見ているんだけど、だんだん興味が湧いてきて「じゃあ、やろうかな」と最終的にやりたくなるんです。なので「嫌だな」「面倒くさいな」というところから、「やっぱりやろうかな」となるまでの心の動きを歌にしたら面白いかな、というのが発端ですね。ただ、そうやって自分で自然に心が変われば良いけど、誰かが「これやった方がいいですから。絶対やりましょう」と言ってくれた方が「じゃあ、分かりました」とすぐ受け入れられるんです。だから「誰かが言ってくれたら決まるのになぁ」みたいな(笑)。
──ハハハ、背中を押してくれたらなぁって。
それって誰しもあるような気がして。この曲の主人公は「そっちがやれと言ったから、やったんだ」みたいな逃げるバッファを作ってるという、ちょっとこずるい感じ(笑)。そこを掘り下げると面白いなと思って。自分で責任を負いたくない感じを前に出すと面白いなと思って、そうしましたね(笑)。
──あ、このことを歌うんだ!と思ったのが「I ♡ 歌舞伎町」でした。
最近、トー横界隈のニュースが頻繁に流れていますけど、少し前にあそこをまとめていた人が亡くなったニュースがあったでしょ?その辺から「これは何なんだろう?」と興味を持つようになりました。ある日、映画を観ようと昼に新宿へ行って、夕方に表へ出るとバーっと子供たちがたむろしていたんです。「この子ら何なんだろう?誰かの出待ちかな?」と思ったらそうじゃなくて。学校とか家に行き場のない子供たちが、いっぱい集まってきてるんだと分かった。色々と調べてみたら、下は小学生とかで、上は二十歳ぐらい。じゃあ、ウチの子供たちと同じ世代だなと思って。あんまり彼らの口からそういう話は聞かないけれど、もしかしたら同級生とか下級生とか、近所にそういう子がいて、トー横に通っている可能性もあると思うと、結構身近な出来事なんじゃないかと。またある時、一緒の人達なのかわからないけど、映画を観終わって今度は西武新宿線で帰ろうと思って、駅の方に行くと女性がズラーっと等間隔で立っていて。初めは「この子たち、何をやっているんだろう?」と思ったら、どうやら“立ちんぼ”らしいと。原宿とかにいそうな、普通の女の子がそういうことをするんだ、ってビックリしたんです。
──かつての日ノ町の赤線と呼ばれる一帯とか、それっぽい方たちがいましたよね。
どういう子たちなんだろうと思ったら、ホストに入れ上げたり、コンカフェに通ったりとか、そういう感じなんだと。すごい世の中になったなと思って。彼女たちに近寄ってくる男性というのもパッと見は搾取する側に捉えられるんだけど、実は精神的に欠落があったり、寂しいとか辛い思いを抱えていて、そこに来ている。そういう満たされない人たちがいっぱい集まってる感じが見えて、それを歌にしようと思ったんですね。だから1番は女の子で、2番からは男性の視点に変わっているんです。
──題材がデリケートなのもあって、曲の落としどころをどこに持っていくのかは、かなり悩まれました?
そこはね、難しいんですよね。書いたはいいけど、最終的にどうしたらいいんだろうってずっと思っていたんだけど、結局は“生き延びて欲しい”ということを歌うしかない。そのためには、“夢を持つ”と言ったらありきたりだけど、「将来こうなりたい」とか「この生活から抜け出したら何をしたい」というのは夢ってわけでもないかもしれないけど、「こうしたいんだ」っていう気持ちがないと、どうにもならないわけで。そういう気持ちを持って欲しい、と最後にまぶしていて。行政とかNPOとかいろいろいると思うんですけど、結局は誰かが手を差し伸べても、その手を掴もうという意志がなかったら、やっぱりそこで終わってしまうじゃない?そういう差し伸べた手を掴もうって気持ちは、持っていてほしいなって。
──今SNSの普及もあって、みんながYESかNOとか、正しい間違っているとか、白か黒に分けがちなんですよね。そんな中で「I ♡ 歌舞伎町」で描かれている人たちは、勧善懲悪で分けられるほど簡単なものじゃなくて。
そうそう。そういう性産業みたいなものが良くも悪くも、セーフティネットになっちゃったりするわけじゃない?まあ搾取と言えば搾取だから、どう考えてもよくはないんだけど「これは良くてこれは悪い」って線引きができない世界がそこにはあって。もしかしたら、立ちんぼをしている女の子も、買っている男性も、それによって救われてるというか……人間としての喜びを見つけているかもしれない。とはいえ、間違っても肯定はしてないですよ。それは良くないことなんだけど、「これは絶対におかしい」「これは正しい」と分けられない世界は興味深いですよね。